《停念堂閑記》40

「停念堂寄席」31

 

《SP与太郎クンとご隠居さん》

 

〔 節 分 〕

 

 与太郎さんの頭にくっついているSPは、スーパーの略です。

すなわち “スーパー与太郎さん” と言うことで 期待を込めたSPです。

マーケットの名前ではございません。蛇足ながら。

 たわいもない話で、恐縮でございますが、笑い話と申しますか、バカ話と申しますか、閑にまかせての下らない話です。要は、定年後の暇つぶしです。

 余程閑を持て余しておられるお方、酔狂なお方は、御付合い下さいませ。 初めに、お断りしておきますが、本当に馬鹿馬鹿しい 話ですよ。それを、御承知の上で御付合い下されば、幸甚でございます。何卒、御寛容の御心でお願い申し上げます。

以前書いたものをもとに、少し書き換えたものです。


 「ご隠居 留守かい 

隠居専属ボランティア与太郎さんですよ」

 『与太郎さんかい 今日も在宅ですよ おあいにくさまでした」 

 「なんだ 今日も 在宅ですかい 

何時も 何時も 在宅では 世のため 人のためにならねーだよ

とにかく 外出して オラに お留守番をさせて下せーよ

そして 外出して パーッとお金を使ってもらわねーと

オラの小遣いにひびくだよ」

 『エー 私が 外出して パーッとお金を使わないと 

どうして 与太郎さんの小遣いにひびくのです」

 「どうしてって ご隠居 ワケを知りたいのですかい」

 『ええ 是非 お伺いしたいものですね」

 「ご隠居が そうまで言うのならば 言って聞かせるベー

オラは 頼まれたら 嫌とは言えない 質(たち)なもんで」

 『はいはい 分かってますよ 何時ものお決まりで

ちゃつちゃと 要点を かいつまんで お願いします」

 「話の中身は かなり複雑な事情ですだ 

軒下での立ち話と言うのも何なので

催促するワケではないけんど 

その お茶など 頂きながらの方が 

何かと その なんでして・・・」

 『これは これは 気がききませんで 失礼致しました

どうぞ お上がり下さい

おバアさん 与太郎さんですよ 

お茶とお茶うけを お願いしますよ」

 「なんか 催促したみてーで どうも・・・」

 『いえいえ 毎日のことで なれてますよ

ところで その複雑な事情と言うのは どのような事でしょうか」

「んだば 言って 聞かせるべ 事情が 事情だけに

よーく 聞いてないと 何度も 同じ説明を繰り返すことになるので

聞き漏らさないように おねげーいたしやすよ

オラ 同じことを 何度も言うのは 性に合わないだから」

 『ハイハイ 承知致しましたよ」

 「ハイは 一回でいいだべ」

 『これは これは 失礼致しました」

 「これはも 一回でいいべ」

 『重ね重ね 恐れ入ります」

 「またかい ご隠居 手間どらせねーでくんろ」

 『では 与太郎さん 手短に どうぞ」 

 「それでは まいりますだ 心の準備はいいだか」 

 『はあ もうとっくに できておりますよ」

 「まず ご隠居が 外出して お金をパーッと遣ってくれねーと

オラのお小遣いに 悪影響が出るだよ

と言うのは

隠居は 外出すると 帰りしなに 駅前の菓子屋で

よく 買物をしやすでしょ」

 『なかなか 気の利いた菓子を揃えているので よく立ち寄りますよ」

 「ご隠居 そのご隠居の経済活動が 

オラの お小遣いに影響するだよ」

 『私が お菓子を買うことがですか

これを 経済活動とおっしゃるのは 

聊か 大袈裟のような気がしないでもありませんが」

 「ご隠居は 昨日 菓子屋で 五色豆を買ったでしょ

その五色豆が 問題なのでやんす

まー 虎屋羊羹だと もっと いーのでやんすが

今日のところは 五色豆で結構でやす

隠居が 五色豆を どんどん買うと 

オラのお小遣いが多くなると言う関係にある と言うことですだ

隠居 五色豆を 沢山買って下せーよ

大型トレーラーで 10台 20台とまとめてお買い求め下せー

そしたら オラは もー お小遣いが 増えて 増えて」

 『与太郎さん 五色豆屋さんでも 始めたのですか」

 「いやいや そーではねーだよ

オラのカカア

隠居 オラのカカア 知っているだよな

 「知っているなんてなものではありませんよ

気だての良い 働き者で

言っちゃー なんですか 与太郎さんには もったいない

とっても 良い 奥様ですよ」

 『なにー オラには もってーねえー だと」

 「いえいえ とってもいいねー と言ったのですよ」

 『‘もってーねー’が ‘とってもいいねー’では

ちょっと 無理があるのではねーですか ご隠居

 『気にしないで下さいよ とても お似合いのご夫婦ですよ

与太郎さんは 幸せ者だなーと

みんな 羨ましがってますよ」

 「それは あえて 否定はしねーだよ」

 『すんなり 肯定ですかー ここは 一応は 

いやいや とか何とか と来るところではないですか 照れながらも」 

 「ご隠居 からかいっこは 無しですぜ

そのー カカアの実家が 北海道の十勝にあるだよ

隠居が 外出して お金をパーッと 

五色豆を沢山買ってくれねーと

その実家の近所の 子供達の小遣いが 減ってしまうだよ」

 『私が お金を遣わないと なんで その

お子さんたちの お小遣いが 少なくなるのですか 

サッパリ事情が分りませんが」

 「そう 急かせないで下せーよ

徐々に 話ますだから」

 〔お茶が入りましたよ 与太郎さん 

毎日 ご苦労様です お茶請けは 五色豆にしましたよ

どうぞ 召し上がって下さい〕

 「これは お世話をおかけしますだ

それにしても 何時も お奇麗ですなー お若くて」

 〔まー 与太郎さんたら お上手ですこと〕

 「いやいや ご隠居には モッテーねーなーと 常々ね」 

 『常々どうだと言うのですか 与太郎さん」

 「アッ ご隠居 居たのね」

 『居たのねは ないでしょー 最初から 居ましたよ」

 「あのね オラは決してそんな事は 思ってはいねーだよ

熊と八のやつがね 常々ね その なんですだ」

 『また 他人(ひと)のせいにして 

自分だって 思っていたのでしょ」

 「いやいや オラは ご隠居の専属ボランティアですだー

オラは 決して そのようなことは 口には出さねーだよ

たとえ 思っていてもだよ」 

 『ほら やっぱり 自分だって 思っていたくせに」

 「それにしても ご隠居は幸せ者だなー

こんな 奇麗な しかも 優しい奥さんで

みんな 羨ましがってますだよ」

 『それは まー あえて 否定はしませんが」

 「すんなり 肯定ですけー

ここは 一応は いやいや とか何とか と来るところではねーの

照れながらもよー」

 『与太郎さんには かないませんな まったく

すっかり 話が逸れてしまいましたよ

本題に 戻りましょう」

 「ところで この 五色豆でやすが

隠居は 何で 五色豆と言うか知っているだか」

 『何でって 五色の色がつけられているからでしょ」

 「それは そうでやすが 

その もっと ご隠居らしい説明を期待してるだよ」

 『期待しているのですか

私だって 期待されては 断れない質(たち)ですから」

 「ご隠居 オラの決り文句ですだよ それは」

 『失礼 思わず うつってしまいましたよ

 

まず この五色とは 白 青 赤 黄 黒の五色ですな

青は木 赤は火 黄は土 白は金 黒は水を表していて 

五色合わせて 大地を象徴している との事ですよ

「赤は火」と「大地」の関係に ちょっと違和感がありますが

そのように 言われてますよ

大豆を炒って 色をつけた砂糖の衣をかけたものですよ 

黒はね 黒とは言っても褐色ですが

原料がニッキだから この褐色になるようですよ

ニッキは 知っていますよね 

最近は シナモンと呼ばれることが多い様ですが

漢字では 牛肉や豚肉の 肉 と言う字と

植物の木の 桂 と言う字が当てられていますよ

肉桂(にっけい)と言われ 

江戸時代には タイなどから輸入されていましたよ

漢方薬の一つとしてね 食欲増進に効くようですよ

こんなところで 宜しいでしょうか」

 「さすがは ご隠居 色んなことを 御存じですなー

肉桂(にっけい)については オラも少しは かじったことがあるだよ」

 『なに 与太郎さんは いきなり 肉桂(にっけい)をかじるのですか」

 「いやいや 肉桂(にっけい)については 

少々ウルセーと言うことですだー」

 『まあまあ 与太郎さん 落ち着いて 冷静に 冷静に

いきなり 大声を出さないで下さいよ」

 「ご隠居も ずいぶん 用心深く なりやしたねー」

 『それはそうですよ この前も オラは魚については

少々ウルセーだよ と言うもだから 

魚の講釈でもなさるのかと 思ったところ

いきなり 「ウオー」なんて 大声を出すものだから

キモ潰しましたよ まったく

ところで 大声でない方の ウルサイ方はどのようなことですか」

 「ご隠居 聞きてーでやすか」

 『はい 是非 お伺いしたいものですね」

 「ご隠居に そこ迄言われると 」

 『はいはい 嫌とは言えない 質(たち)なのでしょう

どうぞ 教えてくださいませ」

 「ご隠居 オラの決めゼリフを取らないで下せーよ

調子くるっちまうから」

 『これはこれは 以後気をつけます」

 「その肉桂(にっけい)でやすが 肉桂皮(にっけいひ) とか 

桂皮(けいひ)とも言われるだよ

要するに 皮の部分に 

あの特有の香りのある成分が あるらしいだよ

その乾燥した皮を 粉にして 飲み難い薬に混ぜると

苦い薬も 飲み易くなるし ご隠居の言ったように 食欲が出たり

と言うことのようですぜ

今でも 病院で薬を貰うと 胃薬を一緒にくれるだが

あの走りだな きっと

今は 細く乾燥させたのも 売られているだよ

それで 紅茶を 掻き混ぜると いい香りが着くだよ

隠居 明日は シナモン紅茶といきやすか」

 『これはこれは 明日のお茶のご心配まで 恐縮でございます

ところで 与太郎さん この五色豆がどうだと言うのです」

 「五色の方は まー どうでもいいだよ

問題は 大豆の方だよ

エダマメの完熟したやつだよ

今時の若けーのは エダマメと大豆は 別種のものだと思っているだよ

大豆を植えて 実がついて 未熟なうちに食べると エダマメ

完全に 熟すと 大豆 だよ

大豆は 十勝地方の大事な作物だよ

十勝大豆は なかなか人気があるだよ

それだけに 大豆農家は 一所懸命 

大豆作りに精出しているいるだよ

農作業は なかなか 体にこたえるだよ

そこで 農家の子供は 疲れた親の肩揉みをして

お小遣いを かせぐだよ  

それがだよ 大豆の収穫が悪かったり

売れ行きが良くない場合

大豆農家の景気が悪くなるだよ

そしたら 必然的に 子供の小遣いが少なくなるだよ

そしたら 必然的に オラの小遣いが少なくなるだよ

 『はー 十勝の子供さんのお小遣いが 少なくなると

どうして 与太郎さんの小遣いまで 少なくなるのです」

 「それには 深ーい 秘密のワケがあるだよ」

 『秘密のワケですか

 何ですか その 秘密のワケというのは」

 「ご隠居 それは めったなことでは 言えねーだよ 

言ってしまったら 秘密でなくなるだよ」

 『そんなこと言わずに 教えて下さいよ」

 「ご隠居に そこまで言われると

オラ 断れない質(たち)だよ 

ボランティアとして 弱っちまうな

隠居 絶対 他言しねーだか

特に オラのカカアには 言ってはなんねーだぞ」

 『分りました 決して 他言は 致しませんよ

熊野権現に 誓って 絶対 他言は 致しません」 

 「それならば 語って聞かせるべ

実は カカアの十勝の実家は  

子供相手の駄菓子屋を営んでいるだよ

それで 近所の子供の小遣いが 少なくなると

カカアの実家の儲が少なくなるだよ」

 『それが どうして 与太郎さんの 小遣いに ひびくのです」

 「ここからが オラの最重要機密だよ ゼッテー 他言無用だよ」

 『無用 無用 絶対 無用」

 「ご隠居も 結構 調子がいいだな 

実は オラ カカアのオフクロサンから

内緒で コッソリと 小遣いをもらってるだよ

だから 商売が儲からなくなると 小遣いが 少なくなるだよ」

 『なるほど なるほど そのような 深刻な事情があったのですか

しかし 与太郎さん まだ 奥さんの親御さんから 

お小遣いを 貰っているのですか」

 「へえ この間も お年玉を少々」

 『えー その歳で まだお年玉をですか」 

 「ご隠居 でけー声を出さないで下せーよ

カカアに 聞こえたら えれーことになりますだよ

ただでは 済みませんよ 

隠居に 責任をとってもらうだからな」

 『はいはい 小声で 参りましょう」

 「ご隠居 ‘はい’ は 一度でいいだよ」

 『うっかり しました ご免なさい」

 「まー 手っ取り早く言えば 以上のような事情ですだよ」

 『あまり手っ取り早くはなかったと思いますが

事情は 分りましたよ

“風が吹けば 桶屋が儲かる”と言う諺がありますが

与太郎さんのは 

“五色豆が売れれば 与太郎さんが儲かる”となるのですね

分りました 分りました」

 「ご隠居 ‘分りました’は 1回でいいだよ

それから 五色豆に似た菓子で 

北海道に 旭豆 と言うのがあるだよ

隠居 どうして 旭豆と言うか 知ってるだか

アサヒ色だから 旭豆なんて言うのでは ねーよ」

 『いや はじめて 窺ったので 知りませんねー」

 「簡単だよ 旭川で作られたので 旭豆 

簡明で分りよいネーミングだ

いっぽう 旭川にあるのに 旭山動物園と言うのが

今 人気があるだよ 呼び方 まちげーるでねーよ

旭川にあっても 旭山動物園

旭豆は ほとんど 五色豆と同じだけんど

砂糖の衣をつけたやつ 

五色はなく 白と黄緑で2色だよ

黄緑は 抹茶味だよ

 

“福太郎”もあるだよ

これは 旭豆より一回り大きい金時豆の甘納豆

白い砂糖の衣を着けたヤツ

見かけは 旭豆によく似てるだよ

ハッカ味で 旨いだよ

今度 北海道へ言ったら 試してみて下せー」

 『与太郎さん なかなか 豆菓子に お詳しいですね」

 「オラ これで 豆菓子には 結構 うるせーだよ」

 『大声は困りますよ 静かにやりましょう」

 「ところで ご隠居 ゆんべ 豆まきしたかい」

 『節分でしたから 豆まきしましたよ それがどうかしましたか」

 「お相撲さんは 誰に来てもらった 

タレントさんは誰が来ただよ

オラ 遠藤関を応援してるだよ

出世が早くて まだ 髷が結えてないだよ

鬘では ダメなのかね 

立会いで バシー と当った時 鬘が土俵外に飛んでしまったら

勝負はどうなるのかね 

“鬘飛ばし” なんて技 聞いたことないな

ややこしくなるから 鬘は禁止なのかね

タレントは 上戸彩ちゃんが いいな

でも お父さんが 犬なんだよ どうなってるんだー」

 

 『遠藤関も彩ちゃんも来ませんよ 神社やお寺ではありませんから」

 「おバアさんと二人では 盛り上がらなかったべー」

 『別に 盛り上がらなくとも いいんですよ」

 「オラに 一声かけてくれれば とっときの 演出をしてやっただに

役回りは どう見ても

隠居が 鬼やるほかねーだよな

おバアさんが 升に入った 炒り大豆

隠居を めがけて 鬼は そとー とぶつけるな

そしたら たまらず ご隠居は 勘弁してー

もう キャバクラには 二度と 行きませんから

と ほうほうの手で 逃げ回るだな

そしたら おバアさん 日頃の恨みを込めて

升ごと ご隠居に 投げつけるだよ

たまらず ご隠居は 裸足のママ 外に 逃げ出すだよ

と まー こんなシナリオで どうだべ」

 『与太郎さん あなた よく そのようなバカバカしいこと

考えますねー 

与太郎さんのところでは そのような 豆まきをするのですか」

 「いや オラのところは 一工夫して 格式高くやりやしたよ」

 『豆まきに 格式なんか あるのですか」

 「ご隠居 ききてーだか」

 『窺いたいものですね」

 「ご隠居が そこまで 言うのなら ・・・」

 『断れない 質(たち)なのでしょ 分かってますよ」

 「ご隠居 鬼は そとー 福は うちー ってやりやしたか」

 『やりましたよ 普通に それがどうかしましたか」

 「ちゃんと 窓開けて やっただか」

 『ええ 鬼を追い出し 福を呼び込むために 

窓を開けましてね やりましたよ」

 「鬼は そとー と 福は うちー どちらを先に言いやした」

 『それは 鬼はそとを先にやって 災いを追い払ってから

  福は うちー と 福を呼び込むのが 普通ですよ」

 「ご隠居は 普通が好きだね

おらの家は 普通でねーから 一日前にやっただよ

そいで かけ声は 福は うちーを 先にやってから

鬼は そとーを 後にやっただよ 一工夫しただよ

隠居 ここで 一工夫とは 何です と聞いて下せーよ 

その方が オラ しゃべりやすいから」

 『まったく世話がやけますね

それでは 一工夫とは どういうことです 教えてくださいよ」

 「ご隠居に そう言われたんじゃー 断るわけには いかねーな

オラ ひとに頼まれると 断れねータチなのよ 

特に ご隠居に たってと言われリゃー イヤと言う訳にはいかねーだよ

他のひとには 絶対教えねーんだが ご隠居には特別に教えるベー

五色豆を頂いたことだし

 『与太郎さん 手っ取り早く 御願しますよ」

 「ヘーヘー 節分には どこの家でも 

鬼を追い出して 福を呼び込もうと

たくらんで いるでやんしょ

だから できるだ早めに 福を呼び込んでおかねーと  

次第に 福が品薄になるだよ

遅れると だんだん しょぼくれた 

生の落ちたのしか 残っていねーだよ 

だから 一日前に 敢行しただよ

かけ声は 福はうちーを 先にやった方がいいだよ

できるだけ 早く 福を呼び込むのが こつだよ

どーでー ご隠居 参考になるだべ」

 『これは 参考になりますよ 与太郎さん」

 「福はうちーを 先にやると 一時的に 

家の中が 鬼と福で混雑するが すぐに 

鬼はそとー と鬼を追い出すので 混雑は一時のことだよ

工夫はこれだけでは ねーだよ

もう一つ とっておきのがあるだよ」

 『とっておき ですか 何だか すごそーですね」 

 「今日は特別サービスで 教えてやるべー

一部屋だけ 窓を二カ所開けてやるだよ

一つは 福の入口専用 もう一つは 鬼の出口専用

これは 福と鬼に 事前にはっきり知らせておかねーと 

えれー ことになるだよ

しっかりと 教えておくことがでーじた

この準備を整えてからやるだよ 福はうちー と

そしたら 福が専用入口から 入ってくるだよ 

この時が 勝負だよ 

入って来て どこに住み着こうかな とためらっている一瞬を逃さず

ぱっと 福を捉えるだよ ここが肝心なとこよ

福を捉まえたら すぐに 懐にしまうだよ

あわてると まちげーて 鬼を捉まえちまったりするから 

気をつけねばならねーだよ

どーでー ご隠居 てーした 工夫だべー」

 『与太郎さんらしい 工夫ですね それで旨くいきましたか」

 「ほれ ご隠居には いつも世話になっているだから 

捉まえたの 一つプレゼントするだよ

効き目 あるだよ おらは 早速 五色豆にありつけただよ」

 『与太郎さん まちがうていませんか?

これは 福ではなく 鬼のみたいですよ

与太郎さんに 五色豆 食べられちゃったですよ」

 「ご隠居も 冗談がきついだなー

それから オラ もっと良いこと 考えついただよ

もー 大豆の売行き 倍増 疑い無し

品不足になるだよ

隠居 先に 買溜めしておくベー

品不足になってからだと ひでーめに逢うかも 知れネーだよ」

 『また つまらない 間の抜けたことを 

思いついたのでは無いでしょうね」

 「ご隠居 ききてーだか」

 『まー 聞いてあげても いいですよ」 

 「ご隠居 ここは お決まりのね それ そーでねーと

オラ 説明しずらいだよ」

 『そうですか それでは 是非とも 聞きたいものですねー」

 「おら ご隠居に そう言われると

断れない質(たち)なんだよ

しようがないから 聞かせるベー

あのだな ご隠居 人間死んだら 

三途の川を渡たるのだよなー」

 『まー 佛教では そのように 言うようですな」

 「ご隠居 三途の川を渡た後 どうなるだよ」

 「よくは 存じませんが いろいろなことが 言われているようですよ」 「そこで 問題となるのは 地獄と極楽 ですだ

極楽行きの人は いいだが

ちょうど 閻魔大王が機嫌が悪かったりすると 

おまえは 地獄に落ちろー と言われる心配があるだよ

ここで 登場するのが 炒り大豆ですだ」

 『閻魔大王は コンニャクが好物だとは 聞いたことがありますが

炒り大豆も好きなのですか 

それで 与太郎さん 炒り大豆をプレゼントして

天国へのキツプを 貰おうという 魂胆ではないでしょうね」

 「いや オラこう見えて ご隠居みたいに その手は使わねーだよ」

 『私が 何時 そのような 手を使ったと言うのです

もう 話 聞いて上げませんよ」

 「ご隠居 興奮しないで下せーよ

言葉のアヤと言うものですだ」

 『与太郎さんの アヤは 変わった アヤですね」

 「まーまー ご隠居 これから ご隠居だけに

特別良いこと教えるだから」

 『特別間抜けなことではないでしょうね」

 「ご隠居 閻魔大王に 地獄落ちを判決された場合は

文字通り 地獄へ落ちることになるだよな

地獄では イボイボのついた金棒を持った赤鬼 青鬼に追いまくられ 

血の池 針の山を逃げ回るとのことだが 

これはまさに 地獄ですだよ

ところが この鬼にも 弱点のあることに 気がついただよ

それが 炒り大豆の利用だよ

今迄 これに気がつかなかっただよ

だから 地獄落ちの心配の人は 死亡した時

炒り大豆を 沢山持って行けば 良いだよ

地獄へ行った時に 鬼がやって来たら

すかさず 鬼は外 と 炒り大豆を 投げつけるだよ

そしたら 鬼達は たまらず 地獄から 逃げ出すだよ

これで 鬼達に 追い回されずにすむだよ

どーですだ 大発見ですだよ

もー 炒り大豆さえ持っていれば

鬼に金棒と言うものだよ ご隠居

 「いやいや これは 与太郎さんの 大発見ですな

どうも 恐れ入りました

これで 与太郎さんも 安心して 三途の川を渡り

閻魔大王と対決できる と言うものですな

ところで 与太郎さん 地獄から 逃げ出した鬼は

いったい どこへ行くのです」

 「そのへんは オラも たしかなことは 分らないだか

死後は 極楽か地獄かですだべ

それが 地獄でないとすれば 当然極楽と言うことだべ」

 『極楽に 赤鬼 青鬼 ですか」

 「ご隠居 鬼だって 極楽へ行きたがってるだよ きっと

極楽では オニゴッコ したりして 仲良くやってるだよ」

 『極楽に来た鬼さん達は きっと 優しくなっているのでしょうね

 それからね 与太郎さん

 私もね 一つ思いつきましたよ

 地獄へ行く時はね “桃太郎さんマークの印籠”を持って行くのも

効果があるように思うのですが

どうでしょうね」

 「なるほどね 鬼がやって来たら 

この印籠が 目に入らぬかー ちゅうもんだな

隠居も なかなかやるなー

そうだ 鰯の頭と柊 これも効きそうだなー

そうだ そうだ いいこと思いついただ

炒り大豆

桃太郎さんマークの印籠

鰯の頭と柊

の“地獄携行3点セット”を作るべ

これは 葬儀屋さんとタイアップすると 結構行けるかもな」

 「与太郎さん ほどほどにしないと ‘地獄’に落ちますよ」

 「ご隠居 冗談 冗談ですよ

どうです 大分退屈凌ぎになっただべ

これが ボランティアと言うものよ」

 『何時も お世話をおかけします 与太郎さん」

「ところで ご隠居 昨日は 節分 とくれば 今日は 何の日だ

いきなりじゃー 難しいだろうから ヒントをやめべー

第1ヒント オラの誕生日ではねー 」

 『これはこれは 結構なごヒントで

節分の翌日は 立春ですよ 誰でも知っていますよ

はい これが答えです 今日はこれまで」

 「ちょっと ちょっと ご隠居 それはねーだよ

これからが 本題だーよ

ボランティア本領はこれからですだよ

NPO理事をみくびっちゃー なんねーよ」

 『はいはい それで立春がどうしました」

「それでは りっしゅん は漢字で どう書くか知っるけー

 『そのようなことは 誰でも知っているでしょう

立つ春 と書くのです これでいいですか」

 「さすが ご隠居 もの知りで」

 『これはどうも お褒めに あずかりまして」

 「いやいや それほどのことでは ねーだよ」

 『それで どう 致しました」

 「と言うことはだよ 立つ前は どうなっていただよ 

座っていたのか

横になっていたのか 

寒さで倒れていたのか どーだ ご隠居

 『なるほど そのような事は 

あまり考えたことは ありませんでしたねー

立春の次には 立夏 その次が 立秋 その次が 立冬

そして その次がまた 立春がまわってきますなー」

 「さすかは ご隠居 よく知ってますだな

でも オラ だって それっくれーのことは 知ってるだ

熊 と 八 に調べさせた」

 『どおりで この間 二人で そのような事を聞きにきましたねー

そうそう 与太郎さん には 内緒だと言ってましたねー

いけない うっかり 言ってしましました 

聞かなかったことにしてくださいよ」

 「ご隠居も 見かけによらず 口が軽いんだから オラと違って」

 『頼みますよ そのうちに また 羊羹を御馳走しますから

とんだところで 借りができてしまいました」

 「それはそうと 立つ以前はどうだったんだべー

リットーが逆立ちでもしていたのだべか トーリツなんちゃって」

 『与太郎さん ここで 駄洒落ですか」

 「年に 4回立つと言うことは ちょうど三月毎に 

一回立つと言う勘定だべ」

 『おやおや そのような計算まで なさるとは 

驚きましたねー 与太郎さん」

 「そんなことで 驚いて 腰抜かさねーで下だせーよ

ボランティアとしての 立場がなくなるから

きっと 三月も立たねーでいると 

もう 立ちたくて 立ちたくて しようがなくなるだよ

ヤツの限界は ちょうど三月目 ということだべ きっと

ねー ご隠居 どうですだ」

 『与太郎さん よくそんことを 思いつきましたねー

そんな つまらない事を

私には とても思いつきませんでしたよ」

 「ご隠居が思いもつかなかったー 

おらー やっぱり テンサイ だなー

テンサイは忘れたころにやって来る と言うからな」

 『いやいや 与太郎さんは 毎日 やって来るので

 天才ではありません』

 

 お後が宜しいようで