《停念堂閑記》53

「停念堂寄席」44

 

《 あの世談義 》

 

[その1]

 

与 :「おう 熊 生きてたか」

熊 :「なんだ 与太郎か おまえこそ まだ生きていやがったのか」

与 :「今日は 生きてる」

熊 :「なんだ 今日は 生きてるつーのは

  昨日は 死んでたのか」

与 :「んだ 昨日は 一度死んだ」

熊 :「なにー 昨日は 一度死んだだと

  一度死んだ野郎が こんなところで なに うろついてやがんだ

  成仏できねーのか」

与 :「昨日は 一度死んだが 今日は まだ 一度も死んでねー」

熊 :「お前は いいなー そんな脳天気なこと言ってられて」

与 :「オラだけでは ねーだよ 

  権太も 昨日は 一度死んだだよ」

熊 :「権太もかー お前ら 良いアイボーだな このくそ暑いのに」

与 :「この暑さのせーで 昨日一度死んだだよ」

熊 :「そーだな 昨日の暑さには オイラも 死にそーだったぜ」

与 :「死ななかっただか 

  カキ氷を食えば死ねたのに 惜しいことしたな」

熊 :「なんだ カキ氷を食ったら死ねたって 

  シロップになにか悪い物でも混じっていたのか」

与 :「いーや シロップには問題ねーだよ 

  権太は オーソドックに イチゴ

  オラは ハイカラーに ブルーハワイといっただよ」

熊 :「シロップでなけりゃー 氷が悪かったのか」

与 :「いーや 氷もなんら問題はねーだよ」

熊 :「そんなら なんでカキ氷食って 死んだんだよ」

与 :「聞きてーか」

熊 :「どーせ くだらねーことだろー たいして聞きたかーねーけど 

  行きがかりだ 話してみねー」

与 :「よく分かっただな 下らない話だと」

熊 :「さっさと 話せや」

与 :「昨日は 暑くてよ 街を歩いてたら クラクラーと来ただよ

  そしたら 向こうから 権太が クラクラーとしながら

  やって来ただよ

  2人出会って クラクラクラクラーとなっただよ」

熊 :「クラクラの足し算などやってねーで さっさと話せや」

与 :「そこで こりやょーいけねー 頭がおかしくなりそうだ

  何とか手を打つべ と言うことになっただよ」

熊 :「そのシンペーはいらねー 

  おめーらの頭は とーの昔からおかしいんだから」

与 :「これ以上 おかしくなると困ると言うことだよ」

熊 :「いーや その心配はいらねー これ以上悪くはならねーよ」

与 :「そう言われりゃー そーだな

  以前 ご隠居が そー言っていたな

  もう これ以上は 悪くはならねー

  良くなる事はあっても 悪くなる心配はねー とな」

熊 :「頭のおかしさを自慢したって しょーがねーだろー

  さっさと 話を進めろや」

与 :「話って なんだったべ」

熊 :「やっぱり おめーの頭のおかしさは 天然物だわ

  カキ氷の話だよ」

与 :「あー カキ氷の話か カキ氷がどうかしたか」

熊 :「どうかしたかぁー 与太郎 いいかげんにしろよ 

  カキ氷を食ったら死んだと言う話だよ

  本当に世話のやけるやつだ」

与 :「思い出した その話か

  昨日 権太と2人で 暑さでクラクラクラクラーとなって 

  もう駄目かぁー と思った時  

  ヒラヒラーっとした旗が目に入っただよ 

  目に入ったと言っても 目ん玉の奥が汗かいたので 

  旗で拭いたわけではねーだよ」

熊 :「あたりめーだろー 目ん玉の中に旗が入ってたまるか

  まてよ おめーと権太だったら やりかねねーな

  それで どーした」

与 :「白地に青の波模様の中に「氷」と言う赤い字が見えただよ

  とたんに クラクラクラクラーとしていたのを ころっと忘れて

  一直線に氷の旗のもとに駆け付けただよ

  権太は オーソドックに イチゴ

  オラは ハイカラーに ブルーハワイを注文しただ

  急ぎに 急がせて 出て来るなり 

  オラと権太は氷をかっこんだだよ」

熊 :「ばかだなー カキ氷をいきなりかっ込んだら どうなる

  頭の芯が キーンとなるぞ

  へますると 心臓が止まりそうになるぞ」

与 :「さては 熊も経験あるだな オラとあんまり代わり映えしないな

  おめーも 天然か」

熊 :「よけいなお世話だ そんなことぐらい 誰でも経験あるさ

  それで 心臓が止まったのか」

与 :「熊よ オラ 頭は弱いが 心臓は めっぽう強いだよ

  カキ氷で 止まるような弱な心臓ではねーだよ」

熊 :「おめーは 本当にバカだなー

  ここで 心臓を止めておかねーと 一度死んだことにならねーんだぞ」

与 :「バカはおめーの方だべ 心臓を止めてどうするだ 死んじまうだぞ」

熊 :「おめーだろー 一度死んだと言ったのは」 

与 :「熊よ  ひとの話は 終わり迄よく聞くもんだ 

  おめーは とにかくセッカチでいけねーだよ」

熊 :「あたぼーよ こっちとら 江戸っ子でー

  ちんたら やってられるかつーの」

与 :「カキ氷 一杯目は 立ちどころにかっ込んで 

  二杯目も一気にやっつけただよ

  権太も 流石だ オラに引けをとらなかっただよ

  三杯目は 少し味わっただよ ここで漸く正気を取り戻しただ」

熊 :「正気を取り戻してどうする さっさと死なねーかよ」

与 :「まー 聞いてくんろや

  三杯目をやっつけたところで 権太が やれやれ生き返った 

  と言いやがったのよ

  オラも ようやく生き返っただよ

  これで分かったべ 熊」

熊 :「てやんで 一度も死んでねーではねーか

  うすら とんかち」

与 :「権太もオラも カキ氷三杯目で ようやく生き返っただよ

  だから 三杯目の前は 生きてなかったと言うことだべ」

熊 :「くだらねー 屁理屈ぬかすんじゃーねーよ

  三杯目で止めずに 五杯目まで 息を止めて 

  一気に かっ込めば いかったんだよ   

  そしたら 流石のおめーの心臓も 一瞬凍り付いたものを 

  惜しいことしたな」

与 :「熊 さては おめー カキ氷五杯かっこんで 心臓とめたことあるだな」

熊 :「ばかやろー おめーじゃーあんめーし カキ氷で心臓とめるか

  お代を見て 一瞬 心臓がドキンと来て 次のドキンまで 

  かなり時間がかかっただけのことよ」

与 :「オラ その事件知ってるだよ

  熊 おめー カキ氷食い終わったら いきなり走り出したではねーか

  あれは 世間で 食い逃げと言うだぞ」

熊 :「バカヤロー 人聞きの悪い 食い逃げなんぞしたかよ

  氷食い過ぎて 体温が急に下がっちまったので 

  冷えた体をあっためるのに ちょっと走っただけのことよ」

与 :「そーかー 10メーターも行かないうちに 

  おめー 目ー回して気を失っちまったではねーか」

熊 :「おめー 下らないことは良く覚えていやがるなー

  実はなー あの時 金の足りないのに気が付いたのよ

  それで 急いで家に取りに行こうとして 走り出したのよ

  そしたら とたんに 心臓がキューンと来て 

  あとはパターンと言うことよ

  気が付いたら 病院のベットの上よ 驚いたねー あの時は」

与 :「おしいことしたな あのまま気が付かなきゃー 

  一巻の終わりだったのに 

  息吹き返しやがって おめーもついてねーやつだな」

熊 :「余計なお世話よ しかし あの時逝っちゃっていれば 

  おめーのこんな下らねー話 聞かずに済んだのに 

  惜しいことと言えば 惜しいことしたな 今度は 気をつけるぜ」

与 :「ところで 熊 おめー あの気を失っていた時 どんなだった 

  死んだ心地したか」

熊 :「与太郎なー 生きた心地しなかった とは良く言うが

  死んだ心地したか ちゅーのは初耳だな 

  だいたい 死んじまったら 心地なんぞするのか 

  死んじまってるんだぞ」

与 :「けんど 気を取り戻す前は 死んでたんでねーのか」

熊 :「バーカ 死んでたんじゃーねーよ 死にそーになってただけよ」

与 :「そーか 死にそーになってただけか 

  そんじゃー 死にそーになっていた心地はどんなだった」

熊 :「そりゃー おめー もう死にそうな心地よ」

与 :「だから その心地を聞いてるだよ」

熊 :「だから 死にそーな心地だと言っているではねーか」

与 :「その心地のことだってば 分からねー奴だな まったく」

熊 :「その心地のことか 

  覚えてねー いっさい記憶にございません」

与 :「記憶にございません 

  おめー 政治家みてーな事言うなよ

  べつに 利権が関わっていることではなし

  この桜吹雪が お見通しだ 包み隠さず 有り体に もーせ」

熊 :「ここは 金さんのお白洲か 

  記憶にないものは ないんだ バカヤロー」

与 :「ま そう怒るなよ 悪かった 悪かった オラが悪かった

  宵越しの記憶を持たねー 江戸っ子熊さんに 

  聞くようなことではなかったな

  正気の時でも 一晩寝たら皆忘れてしまうのだから 

  まして 気を失っている時の心地なんぞ 記憶にあるはずがねーな」

熊 :「あたこーよ こっちとら 江戸っ子でー

  そんなこと 覚えてられるかっつーの アホンダラ」

与 :「アホンダラー 

  こら 熊 おめー何時から浪速の江戸っ子になっちまったんだ

  おめー 猛暑にやられちまったんでねーか

  カキ氷食って 生き返った方がいいぞ」

熊 :「そんじゃー 氷レモン 5杯かっこむから おめー 勘定もてよ」

与 :「・・・・・」

熊 :「コラー 与太郎 勘定の話になったら 死んだ振りしやがって

  相変わらず セコイ ヤローだ」

与 :「おっ これは熊さん どうかなさいましたか」

熊 :「このー すっとぼけやがって 与太郎 いい加減しろよ」

与 :「まー 熊公の頭じゃー しゃーねーな

  気を失っている時の記憶など あるわけねーな」

熊 :「そんじゃー 与太郎 おめー 気失っていた時の記憶があるのか」

与 :「いんや オラも頭の程度は おめーと大差はねー

  この間 階段を踏み外して 後頭部を打って 

  失神した時も 全く記憶がねーだよ    

  さっぱりしたもんよ

  そーだ 思い出した オラ大学のえれー先生から聞いたことがあるだよ

  えれー 先生だよ 国立大学の教授 副学長を経て 

  学長までやった先生だよ

  偶然 この先生と電車で隣合わせで座っただよ 話し好きの先生でよ

  その時 面白い話を聞いただよ

  どんな話か 聞きたいか 熊」

熊 :「もったいぶらず とっとと 話せや」

与 :「んだば 言って聞かせるべー 耳の穴かっぽじって 良く聞けよ

  居眠りするなよ おめー 先生の話となると すぐに居眠りするからなー

  殆ど 病気だからなー」

熊 :「うるせー さっさと話せ」

与 :「そのえれー先生が言うにはよ

  まずな こんなこと言ったら 頭おかしいんではないかと疑われるので

  他の人には言わないで下さいよ と前置きがあっただよ

  学長さんと言う立場上 具合が良くないと思っただな

  この先生 実は 肺結核を煩って 片方の肺を全摘出する手術をしただと

  片方の肺を 全部とっちまっただよ 大手術だよ

  まず マスイの注射を打っただと オスイじゃねーよ マスイだよ」

熊 :「このやろー 下らないこと言ってんじゃーねーよ

  手術の時に だれが オスイ注射など打つか あほー」

与 :「ま 聞けや まず麻酔をうたれただと

  そしたら 医者が ひとーつ ふたーつ みっつ と数え出したんだと

  お岩さんを やろーと言うわけではねーよ

  医者は 幼児と間違えただかな

  いい大人 しかも大学の先生相手にだよ 

  ひとーつ ふたーつだってよ 

  せめて いー あーる さん すー とかさ 

  少しは程度をあげてやるもんだよな」

熊 :「ばーか マージャンやろーつーんじゃーねーぞ」

与 :「そしたら 十に行かないうちに 意識がスーッとなくなっただと

  ここから 大手術の始まりよ なかなか大変な手術だったらしいよ

  先生 意識のないまま 生死の境をさまようことになっただと

  さいわい 手術はなんとか成功しただと

  そして 漸く 麻酔からさめることになっただと

  ここからが でーじなところだぞ よーく聞けや

  熊は かき氷食い過ぎて気絶した時 なーんも記憶がなかっただな

  ところが さすがは 教授は違うね 

  麻酔で昏睡状態の時の記憶があったんだと

  ここが オチョコチョイの江戸っ子と違うところだな

  なんでも 広ーい野原を進んで行ったんだと

  沢山のきれいな花が咲き乱れていて そりゃー そりゃー もー

  美しい野原だったんだと

  そしたら 花々のむこーに 女の人が1人立ってたんだと」

熊 :「誰だ キャバクラのアヤちゃんか」

与 :「熊 おめー 女と言ったら アヤちゃんの他に 浮かばねーのか

  サキちゃんとか ケイコちゃんとか アヤメちゃんとか・・・

  そういう問題ではねーな この場合は

  おめーが 余計なこと言うから おかしくなっちまったではねーか」

熊 :「まさか うちのカカーでは なかったろーな」

与 :「なんで おめーのカカーが登場しなければならないのだ

  あんな 泥べった」

熊 :「おめー なんで泥べったを知ってやがんだー」

与 :「この間の雨上がりに おめーのカカー石ころに蹴つまずいて 

  水たまりにバシャー こともあろうに 顔面から 泥べった

  とても この世のものとは思われねー顔して

  オラ こっそり見てただよ

  そしたら 熊 おめー いいとこあるなー

  カカーを助けようとして おめーも 水たまりめがけてバシャー

  滑り込みアウト 

  夫婦して 泥べった 似た者夫婦とは 良く言ったもんだな」

熊 :「やかんしーやい 泥べったで悪かったな

  おめーのカカーなんかよ おめーのカカーなんか

  おめーに カカーはいなかったか 調子くるーな まったく」

与 :「なんで カカーの話になるんだ

  カカーなんぞ かんけーねーぞ

  そうだ 野原の花の向こうの女の人の話だ

  先生が 段々近付いて行くと

  盛んに あっちへ行け 来るな と言うような手振りをしてたんだと 

  何だと思って さらに近付くと それは先生のお袋さんだったんだと

  いいか キャバクラのアヤちゃんじゃーねーぞ

  もちろん おめーの カカーであるわけはねー

  そして こっちへ来てはだめ 早く戻りなさい

  まだ来ては駄目だよ と大きな声で言ってたんだと

  それで 先生は あわてて引き返して来たんだと」

熊 :「なんだ お袋さんか

  あたりまえの話じゃーねーか

  人間 命尽きてよ あの世へ行く時 

  肉親が出迎えに来ていると言うではないか

  だから 先生の場合も お袋さんが出迎えに来ていたが

  まだ 来るには ちっと時期が早かったので 

  帰りなさいと言ったまでのことだろうよ  

  逆門限時間ちゅーもんよ」

与 :「いやー 熊 おめー トンでもねー物知りだなー

  びっくりしたな おめーがそんな事知っているなんて

  おどろきだなー」

熊 :「あたこーよ こちとら江戸っ子よ 

  こんなこたー 常識中の常識ちゅーもんよ

  あと 聞きたいことはねーか 聞きたいことは 今日中にしろよ

  一晩寝たら 覚えてねーからな」

与 :「教授もよ 死んであの世へ行く時 

  途中迄肉親が出迎えに来ていると言う話を聞いたことがある 

  と言ってただよ

  しかし そんな非科学的なこと 信ずるはずもなかったのに

  手術で生死をさまよっていた時に 

  まさに そのような経験をしたんだとよ

  それで それまでそんな非科学的な馬鹿なことと 思っていたことが

  ひょっとしたら ひよっとするのかも と思っただと

  しかし そんなこと 学長が言ったりしたら 

  笑われるので 言わないけれど 

  世の中には まだまだ分からないことが 沢山あるよ 

  と教授が言っていただよ

  それ以来 オラ <あの世>が本当にあるのか どうか 

  気に掛かっているだよ」

熊 :「<あの世ー>  あるに決まってるさ 

  おめー どこで毎日暮らしているのだ

  <この世>だろーが

  <この世>があると言うことは <あの世>もあるつーことよ

  <この世>だけだったら なんで わざわざ <この世>と言うのだ

  <この世>なんて 他と区別する必要があるかちゅーの

  ねーだろうよ

  <あの世>があるから <この世>がある と言うことだよ

  だから<この世>があるのだから <あの世>もあるつーことよ」

与 :「おい 熊 おめー えらく りくつっぽくなっただなー

  きっと 猛暑にやられちまっただぞ 暑気あたりだ 

  早いとこ カキ氷食って 直した方がいいぞ」

熊 :「だから 勘定は おめーが持てと言ってるだろーが」

与 :「・・・・・」

熊 :「こら 与太郎 また死んだ振りしやがって いい加減にしろってんだ」

与 :「おめーの理屈は 分かるようで いまいち分からねーだよ

  どっか 誤魔化しはねーだか」

熊 :「オイラの論理は これ以上なく すっきりしたもんだ

  こんくれーのことが 分からねーのは おめーの脳味噌がな

  この猛暑で すっかりホセッカラビてしまったからではねーか」

与 :「それなら はっきりさせるべ 

  横丁のご隠居に聞いてみるべ ご隠居なら何でも知ってらー」

熊 :「おー 上等でねーか 知らないこと以外は 何でも知っているご隠居

  こんなこと すぐに解決してくれるちゅーもんよ」

与 :「おい 熊 そんなにあせって急ぐなや ご隠居が逃げるわけではねーし

  汗が吹き出るだよ

  まてよ 汗って 焦った時によく出るな

  だから アセって 言うのかなー なー 熊」

熊 :「おめーな 時々 下らねーこと思い付くな

  焦った時に出るから アセって言うに決まってるでねーか

  そんなこと 常識ちゅーもんだ」

与 :「そんでもってよ 汗が付いたままのシャツをほおっておくと

  色が変わってくるな だから色アセる と言うんだな きっと

  なー 熊」

熊 :「そんなこと 常識だと 言ってるではないか

  いちいち 確認するな ばーろ」

与 :「やっぱりな うんとあせった時には 冷や汗がでるな

  あの時は 心臓がフル回転していて 体温が一時的に 

  猛烈にあがっているな

  これでは心臓がもたねーので すぐに冷やさなくてはならーので

  汗を出して冷やそうと言うことになるのだな

  だから この時の汗のことを ヒヤーセーと言うだな なー 熊」

熊 :「また 下らねーことを

  そんなこと 常識だ いちいち確認するなっちゅーの ばーろー」

与 :「まーた 常識か やろー 本当に知ってるのか

  知らねーことは 何でも常識で片付けようとしてんじゃーねーか

  知ったかぶりしてよ 江戸っ子はオッチョコチョイだからなー」

熊 :「何をぶつぶつ言ってやがんだ 与太郎 

  他に 聞きてーことあるなら とっとと聞けよ

  てなこと言っている間に ご隠居の家だな

  ごいんー」

与 :「ストッピ ストッピ ストッピ ご隠居を呼ぶのは オラの係よ

  これは 誰にも 譲れねーよ」

熊 :「なんだー 誰が呼ぼーと いーではないか

  おめー 変なところで こだわるなー」

与 :「いーや これだけは譲れねー 断じて 譲れねー」

熊 :「それなら とっとと呼べや スットコドッコイ」

与 :「んだば いくぞ 覚悟はいいか」

熊 :「ぐたぐた言ってねーで さっさと 呼べちゅーの」

与 :「いくぞー

  ご隠居ー 留守かい ご隠居専属ボランティア与太郎さんですよ」

隠 :「これは 与太郎さん いきなり留守かいはないでしょう

  最初は いらっしゃいますかー と声をかけるものですよ

  そして 返事がない時に お留守ですかー とやるものですよ

  それを いきなり <留守かい>では 

  なんか留守を期待しているみたいではないですか」

与 :「大正解 流石は ご隠居 察しがいいねー そのとーり 

  留守を期待していたのですよ」

隠 :「それで 留守だったらどうしょう と言うのです

  まさか 良からぬことを考えているのではないでしょうね」

与 :「良からぬことだなんて オラご隠居の専属ボランティアですだよ

  だから ご隠居が留守の時には オラが 責任をもって 

  お留守番をしてあげようと言うわけですよ 

  お留守番の達人のオラがよ」

熊 :「こらー 与太郎 話が違うだろう

  今日は その展開ではねーだろう このオッチョコチョイ

  ご隠居 どうも済みませんね 与太郎のやろー 

  ご隠居の所へ来ると すぐいつもの癖が出てしまうんですよ 

  それにしても ご隠居も すぐにのりましたねー 

  条件反射って言うやつですかい」

隠 :「いやいや ちょっと 悪のりしてしまいましたかねー

  熊さんもご一緒で そろって 何か御用でも」

熊 :「へー それがちょっとね 与太郎のやろうが この猛暑でね

  頭がクラクラーと来やしてね たまらずカキ氷をかっ込みましてね

  その後 <あの世>のことが分からなくなっちまいましてね

  ちょっと ご隠居に教えて貰いたいと言うことになりやしてね へー」

隠 :「なるほど なるほど 与太郎さんと権太さんが 

  暑さでクラクラー ときて

  それで 氷屋さんの旗が目に入って いそいで駆けつけ

  権太さんが イチゴ 与太郎さんがブルーハワイを たて続けに

  3杯ずつかっ込んだところで 生き返った と言うことを

  今日久しぶりに出あった 熊さんに話したところ 

  以前 熊さんがカキ氷5杯 かっ込んで 一時心臓が止まって 

  救急車で病院へ運ばれ   

  運良く一命を取り留めた

  と言うことを思い出し 次いでに 与太郎さんが 

  かつて同じ電車に乗り合わせた大学の教授から 

  片肺全摘出と言う 大手術をし 生死をさまよっていた時の話として 

  なんでも 広ーい野原を進んで行ったところ 白菊だけではなく

  百合牡丹芍薬 はたまた ダリアコスモスヒヤシンス 

  シクラメン胡蝶蘭などなど 

  数えきれない沢山のきれいな花が咲き乱れていて

  そりゃー そりゃー もー 美しい野原 

  そのビューテフルな花々のむこーに とても言葉では言い表せない 

  えもしれぬコウゴウしい光を背に 一人の女性の立たずむ影が見えた

  それは キャバクラのアヤちゃんではなく

  熊さんの カカーでもなく これは失敬

  よく見ると それは 先生のお母上であった 

  教授のお母上があの世の入り口まで出向いて来ていたが

  まだこちらに来てはダメと言われて 引っ返した 

  と言う話を聞いたのを思い出し

  それで 与太郎さんが<あの世>と言うのは 

  本当にあるのかと言うことに疑問を持ち   

  熊さんの分かったような 分からないような

  <あの世>はあると言う説明を聞かされて   

  それなら 私に聞いてみよう と言うことになったと言うことですね」

与 :「流石は ご隠居

  今の熊公の一言で そこ迄詳細に分かるとは

  かねがね思っていたとおり 何でもよくご存じで ただ者ではねーだな

  さっそく <あの世>が あるかどうか 教えてもらうことにするべー

  ところで その前に 非常に重要な提案が一つあるだか 

  言ってもいいだべか ご隠居

隠 :「重要なご提案ですか どうぞ どうぞ」

与 :「それでは 一言申し述べさせて頂くことにするべ

  その 何と申しますか 

  ご隠居は ここで 突然 急病人が出て 

  救急車を呼ぶ事態が発生することを

  快くお思いになられますべーか」

隠 :「突然の急病人の発生で 救急車を呼ばなくては成らない事態など

  ごめん被りたいものですね」

与 :「んだは 言わせてもらいやすが

  この炎天下の軒先で 訳の分からねー談義を長々とすることに成りますと

  緊急事態の発生が 危ぶまれますだ

  熱中症の発生で ご隠居の手を煩わせることにもなりかねませんだ

  であるからして どちらかと申しますと

  クーラーの効いた部屋で 良く冷えたアイスコーヒーなどを頂きながら

  そのー ご隠居の講釈を とくと お伺いした方が

  お互いのためではなかろうかと まことに 

  僭越ながら思う次第なのでごぜーやすが」

隠 :「これは これは 気が利きませんで 失礼しました

  さーさー どうぞ お上がり下さいませ」

与 :「どーも 催促したみてーで 恐縮でごぜーやす」

熊 :「与太郎 おめー 催促したみてーでって 

  思いっきり催促したではねーか

  もー しょーがねー奴だな ご隠居 申し訳ありませんね 本当に 

  あのー 次いでにといっいは なんでやすが そのー

  フルーツケーキが付くと なお一層 話がはずむのではないのか

  と思うのでやすが

  どんなものでしょーね」

隠 :「はいはい 分かりましたよ どうぞお上がり下さい

  おばあさん 与太郎さんと熊さんですよ

  アイスコーヒーとフルーツケーキをお願いしますよ」

八 :「よー ご隠居 喫茶店でも 始めたんでやんすかい」

熊 :「こらー 八 おめー 何にしに来た」

八 :「冷房の効いた部屋で アイスコーヒとフルーツケーキと来たひにゃー 

  オラが登場しないわけには行くめー

  何か問題でもあるだかー 熊」

熊 :「相変わらず 調子の良い奴だな おめーは

  この前 お昼に 天ぷらソバを ゴチになろうと言う時 

  突然現れやがって

  まったく 鼻の利く奴だなー」

八 :「熊 おめーもなかなかやるようになったではねーか

  それとなく 昼メシの催促などしやがって 油断の成らねー奴だ」

与 :「こらー おめーら 何を勝手なことばかり言いやがって

  ねー ご隠居

隠 :「・・・・・」

与 :「ねー ご隠居さんたら」

隠 :「はー  

  このところ とんと 耳がとおくなりましてね」

与 :「そりゃー てーへんだ

  熊 八 ご隠居 耳が聞こえなくなっちまっただと

  救急車手配するべか」

隠 :「与太郎さん 勘弁して下さいよ まったく」

婆 :「与太郎さん 熊さん 八さん

  お暑い中 ご苦労さまです

  さー どーぞー アイスコヒーとフルーツケーキですよ

  一息入れて下さい」

与 :「これは これは お世話をお掛けしますだ

  それにしても 相変わらず 何時見ても お若くて きれいですだ

  オラ ずーっと以前から 吹雪ジュンの大ファンですだ

  おばあさんは 吹雪ジュンに そっくり 瓜二つ

  そのうち ツーショットで 写真とってもらえねーべか」

婆 :「まー 与太郎さん おじょーず 

  そんなに 持ち上げても 今日は 天婦羅ソバは 品切れですよ」

八 :「おバーさん お見事 一本

  与太郎 あっさり 返り討ちにあっちまってやんの

  おめーの魂胆など 見え見えだよ

  吹雪ジュンだなんて ねー おばあさん

  おばあさんは どっちかと言うと 30年後の深田恭子だな

  フカキョン 60歳ちゅーところだな」

婆 :「まーまー 八さんまで 言ったでしょ 天婦羅ソバは 品切れですよ」

熊 :「こらー 与太郎 八 見え透いたことを

  ねー ご隠居

  しかし 本当に ご隠居は 幸せ者ですなー ウラヤマシー

  こんな良い奥さんで 八んとことくらべれば おおちげーだ」

八 :「こらー いい加減に しねーか

  オレのカカーに 何か文句でもあんのか 

  泥べったで おめーらに 何か迷惑かけたか バカやろ

  おバーさんがダメなら ご隠居にとりいって

  天婦羅ソバに ありつこうなんて さもしい奴らだ

  そうは 問屋が卸さねーつーもんよ

  世間は そうは甘くねーんだぞ

  バカも休み休みにしねーと 死んだら 閻魔に舌引っこ抜かれるぞ」

与 :「そーだ 閻魔で思い出した 泥べったの話ではねーだよ

  <あの世>の話だよ ねー ご隠居 

  アノヨー <あの世>は 本当にあるのだべか」

隠 :「そうそう 本題は <あの世>でしたね 

  泥べったの話ではなかったですね」

八 :「ご隠居 いい加減 泥べったから 離れて下せーよ 頼みますよ」

隠 :「失礼 失礼 ご免なさいよ 八さん

  ところで 熊さんは <あの世>は存在する派ですね」

熊 :「へえ そうなんで <この世>はちゃんと存在している

  だから <この世>がある限り <あの世>も存在するっちゅーもんで

  <この世>だけだと バランスが良くねーですだ」

隠 :「なるほどね 八さんは どうですか <あの世>は あると思いますか」

八 :「どっちかと言うと あるか 無いかは条件次第だな

  <あの世>とやらに うめー物があれば <あの世>は存在する

  うめー物がなければ そんなものは無いだよ」

隠 :「なるほど そーきましたか 正解かも知れませんね

  じつは 私もそれに近い考えですよ 

  人は誰でも死ぬ時が来ますよ

  人は 死んだら どうなるのか と言う不安を持ちがちですよね

  死んだら 一巻の終わりよ とキッパリ割り切る人もいますが

  いやいや 死後の世界があるのよ と望みをつなぐ人もいるようですよ

  この死後の世界が すなわち<あの世>と言われているようですよ

  いわゆる <あの世>を設定して この<あの世>をすごく良いところと説いて

  死に恐怖を感じている人がいれば

  その恐怖を無くしてあげたり やわらげてあげよう としたりするのですね

  また <この世>で善行すれば 死後に すごく良い<あの世>へ行けるが

  反対に悪いことばかりしていると 死後に 

  とても恐ろしい<あの世>へ落ちる

  とか説いて <この世>をより良くしようとしたりするのに

  利用されることもあるようですよ

  中には これを利用して 一儲けしてやろうなんと言う族もいたりしますが

  べらぼーに高価な壷など買わさられないように 気をつけましょう

  と言うようなことで

  <あの世>が あるか 無いか と言うのは その人の考え方によりますが

  一般的には 

  信じるか 信じないかの世界に関わることのようで

  だから 信じたり 信じないと言う立場の相違によって 

  あるとか 無いとかの主張がなされたりするのでは

  ないのではないのでしょうか」

与 :「あのー ご隠居 回りくどいことは 無しにして

  オラにも 分かるよーに スキーッと やって貰えねーべか」

隠 :「スキーッと ですか

  そりゃー あなたは ケーキを食べながらアイスコーヒーを飲んでいれば

  良いのでしょーが

  この手のことは 中々 一筋縄では 行かないものなのですよ」

与 :「えー 縄がたんないのー どこかで見つけてきますべか」

熊 :「ばーか 一筋縄でいかねーちゅーことは

  二筋 三筋 といろいろと考えなければ 成らないちゅーことだ」

与 :「二筋 三筋ー

  オラ 三筋だったら 知ってるだよ」

熊 :「嘘こくでねーよ 一筋が分からねー単細胞が 三筋が分かるかよ」

与 :「オラ 知ってらー ちょっくら やってやるから よく聞けや

  ♪♪♪ 男命を みすじの糸に 

      かけて 三七(さんしち)二十一(さいのめ)くずれ ♪♪♪

  どうだ 上原敏の「流転」だ まいったか」

熊 :「あほー そんな昔の歌 今時 知ってるやつは いねーぞ

  若い奴らは なおさらでー 全然 知らねーぞ」

八 :「おーよ 若い奴らが知ってるもんか

  知ねーくせに そんな古い歌 なんて知ってるやつを 馬鹿にするだよ

  ふざけやがんなつーの 知らねーくせしやがってよ

  知らねーやつは 知ってる奴を 尊敬しろっちゅーの

  知らねーくせに 偉そうに威張りやがって なー」

与 :「そーだ そーだ そのとーりよ 言ってやれ 言ってやれ」

熊 :「だけどよー 「流転」は 三筋の<糸>だよ <縄>じゃーねーぞ

  縄じゃー 三味線の音は 出ねーべ

  やっぱり 与太郎はオッチョコチョイだな」

与 :「なにー 縄でも糸でも似たよーなもんでねーか

  細かいことで 四の五の言うなちゅーの」 

隠 :「あのー 盛り上がっている最中で 恐縮でございますが

  基本的に 話が明後日(あさって)の方向へ行ってませんか」

八 :「いやいや この程度のことは まだ 明日レベルだよ

  明後日(あさって)となると こんなもんでは すまねーよ」

与 :「そーだーよ 明々後日(しあさって)レベルになると 

  ご隠居では 無理だな

  絶対ついて来られねーべ」

隠 :「これは どうも 恐れ入りました

  どうか 今日レベルの話に戻して貰えませんかね」

与 :「ご隠居にそー言われると しゃーねーな

  ご隠居専属のボランティアとしては 

  ご隠居の希望を容れねーわけには 行かねーだよ   

  よーし いーか ライブに戻すぞ」

八 :「なんだー コンサートでも始めるのか

  オラ この間 AKVのライブに行って来ただそ 

  そりゃー もー えがったぞー

  ピチピチ チラチラチラーってよ」

与 :「また 混ぜこぜにするでねーだよ

  <あの世>の話に戻すちゅーことだよ」

八 :「あー そーか

  ご隠居 縄と糸はどっちがいいべ」

熊 :「八ー いい加減にしろよ

  縄に決まってるだろーが」

与 :「いーや 糸でも大差無いだよ」

隠 :「あのー また 明後日(あさって)の方向へ行く気ですか」

熊 :「そんじゃー 政治的手法で 中をとって 縄と糸の混紡と言うことで

  どーだべ このへんで 手をうったら」

隠 :「・・・なんだか 雰囲気が クラス会の幹事会の打ち合わせと

  似た雰囲気すね

  各自 得意の話題を勝手勝手に持ち出して

  アオウミガメがどうのとか

  半分になった錠剤の片割れは どうしたとか

  本題のスケジュールの話は どこぞへふっ飛ばして

  その内 腹減ったな 昼飯食いに行くべ なんて 

  10分間で済みそうなことを 1回で決めかね 

  2回めも 殆ど似通った話で 盛り上がって・・・と言う噂ですよ」

熊 :「ご隠居 何をぶつぶつ言ってるんでやす

  オイラは 特に耳が遠いわけではねーですが

  ちょいと 聞き取りにくいんでやすが」

隠 :「いやいや こちらのことですよ 

  それでは 縄と糸の混紡と言うことで行く事にしましょう

  しかし この混紡は 何なのでしょうね いったい 何に使うのですかね

  ・・・・・

  そうですね <あの世>は この縄と糸の混紡に似たところがありますよ」

八 :「そーですけー どこが似ているのですかい ご隠居

隠 :「どこがと言われますと そうですね

  なんだか 訳が判らないところでしょうかね」

熊 :「訳が判らないところですけー

  <あの世>とは 訳の分からないところなのですけー ご隠居

隠 :「そのようですよ 色々なことが 言われているようですが

  実態のはっきりしないもののようですからね」

熊 :「そーか 与太郎 八 判ったぞー

  <あの世>とは おめーらのことだ

  おめーらは ここに存在してるから だからよー

  <あの世>も存在すると言うことだぞ」

与 :「なにー 何で<あの世>が オラ達のことだと言うんだよ」

熊 :「ご隠居が たった今 説明してくれたろーが

  <あの世>とぁー 訳の判らないものだと

  訳の判らないものと言やー

  おめーらをおいて他にはねー

  まさに おめーらが <あの世>そのものだ 判ったか」

与 :「なに言ってやんでー

  おめーこそ 訳のわからねー事 言いやがって

  この<あの世>野郎」

隠 :「ちょっと ちょっと あなた達

  どうして そう 明日を通り越して 

  明後日(あさって)の方へ 行ってしまうのです

  お願いしますよ お三人とも」

熊 :「お三人ともー 

  オイラも 与太郎と八と同レベルと言うことですかい

  と言うことは ご隠居だけが<この世>で

  オイラ達は <あの世>と言うことですかい」

隠 :「いやいや そう言うことでは ありませんよ

  弱ってしまいますねー ほんとうに 

  まー とりあえず アイスコーヒーを飲んで ケーキを食べて 

  一息入れましょう」

八 :「さすが ご隠居 よく心得ていますだ

  ディスカッションが もめた時には 甘いもので 一息入れさせるのが 

  効果があるだよ 昼飯を入れるのもいいだよ」

隠 :「そうなんですよ 例外もあるように聞いていますが・・・」

八 :「例外があるのですかえ」

隠 :「噂によると クラス会の幹事会 昼飯の後 ますます元気づいて

  明々後日(しあさって)どころか 後明々後日(ごしあさって)の方向へとね

  なんか そのような雰囲気だったと言う噂ですよ」

八 :「後明々後日(ごしあさって)ー 

  後明々後日(ごしあさって)は お目にかかったことはありませんぜ ご隠居

隠 :「ものの喩えですよ」

八 :「そういう ご隠居だって 明後日(あさって)レベルに 

  達してはいませんかちゅーの」

隠 :「うっかり 引き込まれてしまいますね 何たって 

  強力なウイルスですからねー

  話題を元に戻しましょか」

熊 :「本当に <あの世>は あるんですかい ご隠居

隠 :「<あの世>をどのように定義するのかにもよることでしょうが

  一般に言う<あの世>が あるのですか と問われて これでございますと

  物的に見せることができる物とは違って

  <あの世>は 観念的なものでしょうから これが<あの世>ですと 

  目の前に出すことができませんから 中々説明が難儀なんですよね

  混ぜこぜに される前に言ったように 

  たとえば 信ずるか 信じないか と言った性格を持つものでしょうから

  ある と信じている人にとっては あるでしょうし

  無い と信じている人にとっては 当然 無いと言うことなのでしょうね」

与 :「ご隠居 ある とか 無い とか 信じられる人は 

  それで良いかも知れねーけんど

  ある か 無いとかが判らず 信じるも 信じないも判らねー             

  チンプンカンプンのオラみてーのは どーなるだよ」

隠 :「どっちつかずのヘロヘローっとしている場合ですか」

与 :「ご隠居 どっちつかずは いいとして

  その ヘロヘローっ て言うのは なんですかい

  なんか 心太(ところてん)の端くれが 咽の入り口にへっているようで

  すっきり しないだよ」

隠 :「そんなことは 気にしなくて 良いことですよ 殆ど意味はありませんから」

与 :「そんなものですけー すっきりしねーな

  当分心太(ところてん)を食うのはよすべ」

八 :「与太郎 しっかりしろ こんな事でヘロヘロするんじゃーねーよ

  夏は 心太(ところてん)だよ 良く冷やしてよ 

  関西では 黒蜜をかけて食べるそーだよ 

  関東では 酢醤油が一般的のようだが

  そーだな 与太郎の場合は ハイカラーに ブルーハワイでやってみれや

  また 生き返るぞ きっと」

権 :「と言うことは オラは オーソドックに イチゴつーことか」

熊 :「こらー 権太 いきなり飛び入りかよ 

  おめーみてーのは 早いとこ <あの世>へ行っちめーや

  おめーの顔見ると 暑苦しくて しょーがね

  ご隠居 冷房もっと下げていいだか」

隠 :「いやー 節電の折柄 ほどほどにお願いしますよ

  それにしても カルテット 勢ぞろいですなー

  いよいよ 強力になってきましたねー

  これでは とても午前中では 片がつきませんよ」

権 :「よーし そんじゃー 昼飯とするかー 丼の梅家へ行くベー

  心太(ところてん) 試してみるベー」

隠 :「いってらっしゃーい

  なんだか クラス会の幹事会にいよいよ 似てきましたねー」

権 :「ご隠居 けーったよ 

  あー 食った 食った もー 食えねー」

隠 :「おかえり

  権太さんは 何を召し上がったのです

  まさか 心太(ところてん) 試したのではないでしょーね」

権 :「何をって 決まってるでねーか 心太(ところてん)丼よ

  そのために 梅家へ行ったのではねーすですか」

隠 :「梅家さんに そんなメニューはありませんよ」

権 :「ご隠居 オラを誰だと思ってんです

  丼食いの 権ちゃんですぜー

  丼の梅家は オラー 常連中の常連 梅家はオラでもってるよーなもんで

  だから オラの注文は 何でも作ってくれるだよ

  この間は えらく簡単だと言って すごく喜ばれただよ <ななつぼし丼>

  梅家のメシは コシヒカリ を使ってるだよ

  丼の基本は 何と言っても メシだよ

  丼は どうのこうのと言っても メシがまずけりゃ 話になんねー

  <ななつぼし丼>は こしひかりの上に

  ホッカ ホッカのななつぼしを たっぷりかけるだよ

  見た目 メシだけ 誰が見ても メシだけ

  これが 本物のツーの丼と言うものよ メシっ喰いの究極の丼は これよ

  梅家のシェフが 手間かからないと たいそう喜んでたよ

  因に オラー ななつぼしは デー好きだが ○○コはデー嫌いだよ

  なに 意味が判らない

  意味が分からない時は ハハハ と 適当に誤魔化しておけばいーだよ

  しょせん どーでも 良いことなんだから

  しかし 今日のは ちょっと 手がこんでやしたよ

  ホカホカのコシヒカリを 少しよそって 

  その上に 心太(ところてん)を薄く敷くだ

  そして また ホカホカのコシヒカリを幾分盛るだよ 

  そして その上に 心太(ところてん)をたっぷり 富士山のように盛るだよ

  心太(ところてん)のサンドウイッチてなもんよ

  そして いちごシロップをたっぷりかけるだよ

  これだけではねーだよ 仕上げは やっぱり マヨネーズだな

  マヨネーズを ソフトクリーム型に ビシッと 決めるだよ

  最後は 黒こしょうを ぱらぱらと これで かんせーよ

  どーでー ご隠居 特注<権ちゃん風心太(ところてん)丼>でー」

隠 :「それを 召し上がって 来たのですか」

権 :「おーよ 今日は アイスコーヒーとフルーツケーキの後だったから 

  ちょっと控えて 2杯でやめただよ」

隠 :「権太さんが これでは 与太郎さんはどうなるのです 

  聞きたくないですねー」

与 :「ご隠居 それはねーだよ なんと言っても オラのがメイエベントだべ」

隠 :「本当に おっしゃるんですか この暑いのに 寒気がしてきましたよ」

与 :「ご隠居 遠慮はいらねーだよ 後のお楽しみもあるだから」

隠 :「おバーさん 胃薬を持って来て下さい 予告だけで 気分が・・・」

与 :「ご隠居は 相変わらず遠慮深いんだから

  オラのは 立場上 権太に引けを取るわけには行かねー 

  と言う縛りがあるだよ

  それで 基本は <心太(ところてん)丼>だからよ 

  ホカホカのコシヒカリのご飯を 少しよそって 

  その上に 心太(ところてん)を薄く敷く

  ここで 権太とは違う 一ひねりいれるだよ

  マグロを乗っけるだよ 漬けにしたやつよ 幾分高級感がでるだよ

  そして また ホカホカのコシヒカリを幾分盛るな 

  そして その上に 心太(ところてん)をたっぷり盛る 

  決して けちっちゃーだめだよ

  ここ迄は 権太とほぼ同じだが 盛り方が 権太は富士山だが

  オラは エベレストだべ まず ここで権太との差が 

  はっきりとつけておくだよ

  そして お決まりのブルーハワイシロップを タップリかけるな

  もうこれだけで よだれが 垂れそうだな うまそー

  権太はここで 仕上げに マヨネーズと行っただか まだまだ 甘いだよ

  オラの場合は ここ迄は ほんの序の口よ 

  これからのトッピングが見せどころよ

  丼は 何と言っても 見てくれが勝負よ 

  見ただけでガツッンとこなくてはな

  まず 誰でもデー好きな 国民食 カレーをかけるな 

  少し驕って カツカレーとしただよ

  なーに ここまでは まだ 平凡よ 

  オラの場合は ブルーハワイだからな 何と言っても 

  アイスがなくてはダメよ

  アイスは 欠かせねーだよ

  カレーの上に ソフトクリームを乗っけるだよ もーたまらねーな

  さらに ここからドドメを刺すわけよ

  これも 常識と言えば常識だか 

  納豆の出番となるわけよ よーく糸をひかせてよ    

  辛しを効かせて ちょっとイカの塩からで隠し味を付けとくのがミソよ

  この後 ようやく たっぷりのトマトケチャップとなって

  その上に おろしたチンスコーの粉をパラパラーとやって

  これだけではねーよ ポテトチップスの袋の底に溜まったクズも 

  パラパラーとやって

  さらに 七味も パラパラーとやるだよ 風味づけと言うやつだ 

  最後は 駄目押し的だが ここでガリガリ君を ズブッとおっ立てるだよ 

  ここに 輝く 与太郎さん特注<ジュゲム風心太(ところてん)丼>の完成よ

  どーでー ご隠居 けっこうインパクトがあるでやんしょー」

隠 :「まさか 与太郎さん これをおかわりしたのではないでしょーね」

与 :「おかわりでは 権太と同じではねーだか

  オラの場合は トリプルよ 

  これだけではねーだよ 

  こんなすごいもの自分だけ楽しむと言うのは もはや犯罪だ

  オラの正義感が許さねーだよ

  オラ ご隠居の専属ボランティアだよ

  ご隠居とおバーさんの分を テイクアウトしてきただよ 試してくんろー」

隠 :「目眩がしてきました おバーさん 救急車を手配して下さい」

  ピーポー ピーポー ピーポー

隠 :「皆さん 一足お先に <あの世>とやらを 確かめに行って参ります」

 

  お疲れさんでございました お後が宜しいようで