《停念堂閑記》56

「停念堂寄席」47

 

平家物語 ? 》

 

[その1]

 

ようこそのお運びで ありがとう存じます

相変わらずの与太郎さんとご隠居のバカバカしいお笑いでございます

しばしの間 おくつろぎく下されば 幸いでございます

 

与 :「ご隠居 留守かい

  ご隠居専属ボランティア与太郎さんですよ」

隠 :「はい はい 与太郎さんですか

  今日も また ご苦労様です」

与 :「ご隠居 今日は ひょっとして お出かけではねーでしょーね」

隠 :「残念でした ひょとしませんよ 何処へも参りません 一日中在宅です」

与 :「あーよかった 今日は 出掛けられると ちょっと 具合が良くねーだ

よ」

隠 :「エッ 何時もと 調子が違いますよ 私を出掛けさせておいて

  その隙に 留守番をしようと言う魂胆ではないのですか」

与 :「へー 今日は ちょっと 事情がありやーして

  御在宅でねーと 困るんでやんす」

隠 :「どーかなさいましたか 与太郎さん

  お身体に変調をきたしたのでは ございませんか」

与 :「へー ちょっと 悩んでますだよ」

隠 :「エーッ 悩んでいるのですか 与太郎さんが・・・

  それはめったにないことですよ

  取り敢えず 救急車の手配しましょうか」

与 :「ご隠居 オラが悩むと いきなり救急車ですけー」

隠 :「それは与太郎さん 早期発見 早期治療が最も基本ですよ

  悪化しないうちの手当が第一です 一刻も早い方がいーですよ」

与 :「そうですけー それでは 取り敢えず 二台 おねげーするべーか」

隠 :「二台もですか  いくら重症とは言え 一台でいーのではないですか」

与 :「いーや 二台必要ですだ」

隠 :「一台でいーですよ」

与 :「いーや もう一台 ご隠居の分が必要だよ」

隠 :「エー 私の分ですか」

与 :「そーですだよ オラは付録みてーなもので ご隠居が本体てーもんだよ」

隠 :「私が本体で 与太郎さんが付録のような存在ですか」 

与 :「そーですだよ ご隠居 本当は ご隠居一人では体裁が悪いので

  オラを道ずれにしょうと言う魂胆だべー

  いーだよ オラ ご隠居ボランティアだから 喜んで手助けするだよ」  

隠 :「はー どう言うことです」

与 :「そーだ 一台でいーですだ ご隠居は オラの付き添いのような顔して

  同乗すれば 近所の人には ばれずにすむと言うもんだ

  病院についたところで 入れ替わることにするべ」

隠 :「えーッ 与太郎さん どう言うことです 話がぜんぜん見えませんよ」

与 :「だから ご隠居の救急車を呼びたい事情は よく分かっただから 

  だから オラをダシに使って 救急車を呼べばいいだよ

  救急車が来たら オラがアンポンタンの顔をして 乗り込むだから

  ご隠居はその付添いと言うことで一緒に乗り込めばいーだよ

  ボランティアとして ご隠居の一大事を ほっておくことはできねーだよ

  万事 オラにお任せ下せー」 

隠 :「そうですか アンポンタンは 地でいけそーですからね

  それでは 与太郎さん 万事お任せ致しますから 是非お願い致しますよ」

与 :「オラ ご隠居に 是非と言われると」

隠 :「断れない質(たち)なのでしょう」

与 :「それでは ご隠居 救急車 大型にしましょうかね 小型でいーですか

ね」

隠 :「せっかくですから 外車の一番高級車を お願いできますかね」

与 :「エエ よーございますよ ベットにキッチン シャワー付きのが いー

ですだよ」

隠 :「与太郎さん あなたねー キャンピングカーと 取り違えてませんか?

  もー そろそろ前置きは このくらいで いーのではないですか」

与 :「ご隠居が 乗って来るものだから 今日の前置きは

  何時に無く充実しただなー

  ものは序でと言うから キャンピングカーで

  何処ぞへ出掛けるとすべーか」

隠 :「ほどほどがいーですよ もー結構です 

  それより 与太郎さん 何か悩み事の相談があるのではないのですか

  上がって ゆっくりお伺いすることにしましょう」

与 :「それでは ちょっくら お邪魔しますだ」

婆 :「あーら 与太郎さん いらっしゃいませ 

  いつもいつも ご苦労さまです 

  おじーさん いつも楽しみに 待ってるんですから

  今日も どーぞ 宜しくお願いしますよ」

与 :「いーや 奥様 いつ見ても お若くて きれーですだ

  オラ 大ファンの吹雪ジュンと 三〇年後のフカキョンと 武井咲ちゃん

  のお姉さんと

  一度に 面会できたようで もうワクワクするだよ」

婆 :「まー 与太郎さんたら 相変わらず おじょーずばっかり」

与 :「とんでもねー 本当ですだだよ

  あとで ツーショットの写真をおねげーしますだ」

隠 :「ちょっと お二人さん なにを盛り上がってるんです

  いーかげんにして下さいよ

  おばーさん 持ち上げられたいきおいで お茶をお願いしますよ」

婆 :「はいはい それでは 少々お待ち下さい」

隠 :「与太郎さん いーがけんに おねがいしますよ

  このごろ おばーさん すっかりその気になってるんですよ

  ネットで 着物やバック 化粧品など ずーっと 調べてるのですから

  毎日のように 通販の配達が来るのですよ」

与 :「いーではねーですか いー奥様で ご隠居は 幸せ者だな」

隠 :「まー その そー言われればね 特に 否定はしませんが

  ちょっと テレますよ

  与太郎さん 今日の出来は どーでしたかね」

与 :「いーんでねーの このごろ だいぶ板に付いてきやしたよ」

隠 :「そーですか 与太郎さんが そーやりなさい と言うので やってます

が なんか バカバカしくも 感じますよ」

与 :「ご隠居 こういう時は 適度のテレを入れて楽しむものですだよ

  その ほのぼのとした 感じをかもしだしてよ

  その時に オラ ボランティアとしての充実感を感じるだよ

  ここで悩んでは ダメですだよ」

隠 :「そうだ 与太郎さん 

  なにか悩み事があったのではなかったのではないですか」  

与 :「それですだよ 

  今 オラ サッパリ分からず 手こずってることがあるだよ

  その事を 是非 ご隠居に教えてもらいてーと思いやして」

隠 :「与太郎さん 痛いところ突いてきますね

  私は 与太郎さんに 是非とお願いされると」

与 :「断れねー質(たち)なのでしょ」

隠 :「与太郎さんには かなわないですね

  ところで 何でしょーね 教えて欲しいと言うことは

  ほどほどのところでお願いしますよ

  あまりにもスットボケタことは お断りですよ」

与 :「実はね ご隠居 

  ご隠居も知ってのとーり オラ ちっちえ平家(ひらや)に住んでるだよ 

  ところが この間 駅前の本屋で

  平家(ひらや)のことについて書いた本を見つけただよ

  それで 平家(ひらや)に住んでいるヤツは

  どんな生活をしているのかなー と思って 買ってきただよ」

隠 :「エーッ 与太郎さんが よりによって 本を買って来たのですか

  だ だいじょーぶですか 

  与太郎さんが本を買うなんて めったにあることではないですよ

  取り敢えず 救急車の手配しましょうか」

与 :「ご隠居 オラが本買ったら いきなり救急車ですけー」

隠 :「それは与太郎さん 早期発見 早期治療が最も基本ですよ

  悪化しないうちの手当が第一ですよ 一刻も早い方が良いですよ」

与 :「それじゃー また 救急車 二台呼ぶ事になりますだよ

  となると 話をおさめまでに やや暫くかかるだよ それでもいーだか」

隠 :「冗談ですよ ここで 蒸し返されては たまりませんから

  次へ行きましょう」

与 :「本を買ったのはいーだか ところが 内容を確かめねーで買って来ただ   

  よ

  それで 読んでみようとしたところ

  これがチンプンカンプンで さっぱり分らねーだよ

  それで ご隠居に ちょっと 教わるベーかと 思いやしてね へー」

隠 :「はいはい 本の内容ですね

  ところで その本 横文字で書かれてはいませんよね」

与 :「それは 大丈夫ですだ ちゃんと縦書きですだ」

隠 :「縦書きと言っても 漢文で書かれたものではありませんよね

  日本語で書かれていますか」

与 :「ご隠居 でーじょーぶですだよ

  オラ ボランティアだよ ご隠居をてこずらすことは 持ち込まねーだよ 

  ご安心下せー

  ところが 縦書きは縦書きですだか 一見日本語によく似ているだか

  それがまさに日本語か と問われると その どーしたもんだべ

  ようするに 初っぱなから チンプンカンプンだだよ

  実は 懐に入れて 持って来てるだよ」

隠 :「持って来ているのでしたら 話が早いですよ

  差し支えなければ 見せて下さいよ」

与 :「それでは 実は これですだ」

隠 :「なんだか 生あったかいですね」

与 :「へー 胸の辺りであっためていただよ

  オラ こう見えても 胸毛がはえてるだよ」

隠 :「へー ケがはえてるのですか

  どーりで この本がヘーケ物語と言うのですね」

与 :「ご隠居 一人でなに分けの分からねーこと言ってるだよ」

隠 :「ですから この本は「平家物語」(へいけものがたり)と言うのです

  と言っているのですよ」 

与 :「ご隠居 何を言うだよ オラが買って来たのは

  「平家(ひらや)物語」と言うやつだよ

  胸毛とは 一切かんけーねーだよ」

隠 :「失礼 失礼 胸毛とは何ら関係がありません

  が 平家(ひらや)とも関係ありませんよ」

与 :「エー 平家(ひらや)の話ではねーのけー 

  オラ てっきり平家(ひらや)の話だと ばっかり思っていただよ

  なんだか いきなり 肩すかしくっちまったな

  どーりで 初っぱなから 全然訳の分からないことが書かれているだよ

  一体 何が書かれているだよ ご隠居

隠 :「これは 昔々 今から大まかに言って九〇〇年ほど前に

  日本の政治を牛耳っていたのが 平氏一族でね もの凄い勢力を持ってい

  たのですよ

  平氏で無い者は 人ではない なんて言って威張っていたとか」

与 :「ご隠居 何を隠そう オラ 近藤と言うだよ

  近藤は近江に下った藤原氏一族ですだ

  むかし藤原氏も えらい勢力者だったと 聞いてるだよ

  平氏は 藤原氏より 強かっただか」

隠 :「そうでしたね 与太郎さんは 近藤さんでしたよね

  ただし 近江近藤さんとは何ら関係なく

  明治になって 苗字をつける事になった時

  名主さんが 近くに藤の花が咲いてたいので 近藤さんでどうです

  と言うことになって 近藤さんと言う苗字になったんでしたね」

与 :「ご隠居 ここで それをばらさなくとも いいでねーの

  だまってれば 藤原氏の末裔か と勘違いする人が居たかも知れねーのに」

隠 :「これは どうも失礼いたしました

  近江近藤さんとは 何ら関係ない近藤与太郎さんのおっしゃるとおり   

  本物の藤原氏は これまた 凄い勢力者でしたよ」

与 :「ご隠居 何ら関係ないとか 本物とか それは もーいいだよ

  平氏は 藤原氏より強かっただか」

隠 :「そうですね 藤原氏道長の時などの全盛期は凄い勢力を持ってました

  ね

  しかし その藤原氏の力が衰えを見せ始めた頃

  平氏が力を持ち始めるのですよ

  それで 結局は藤原氏を凌いで 最強になるのですよ

  平清盛などは 凄い勢力者だったようですよ  

  しかし やがて その平氏も力を落として 滅びることになるのですね

  誰でも よく知っている源平の争いですね 

  義経の ヒヨドリ越えの逆落とし

  壇ノ浦の八艘跳びの話などは よく知られてますよ

  この平氏の盛衰を物語っているのが 「平家物語」と言う本なのですよ

  平家(ひらや)とは なんの関係もありませんよ」

与 :「なんだ そんな本だっただか 

  オラ すっかりまちげーて 買って来てしまっただなー

  てっきり 平家(ひらや)に住んでいる

  オラや熊や八みてーなやつの話かと思ってただよ

  ところで ご隠居 平氏の連中は どんな家に住んでただ

  平家と言うだから やっぱり平家(ひらや)住まいをしていたのではねーけ」

隠 :「そー言われますとね

  当時は 今のような高層ビルがあったわけではないですから

  平氏と言えども どっちかと言うと 与太郎さん的な表現によれば

  常日頃の生活は ヒラヤ住まいと言うことになるのでしょうかね」

与 :「そーでしょー そーでなくては

  平家なんていう名前にはならないだよなー

  やっばり 平家(ひらや)住まいだっただよ ちょっと身近に感じられるな」

隠 :「与太郎さん あのね 平家 平家 と言いますが

  これは 住まいの平家(ひらや)作りの家とは 直接関係してませんよ

  平(たいら)と言う名前ですから

  与太郎さんのところで言えば 近藤家と言うのと同じですよ

  近藤作りの家なんてないでしょ」

与 :「ご隠居は 何がなんでも 平家(ひらや)を否定したいだか」

隠 :「そう言うことではないですよ

  与太郎さんが内容を知らずに 間違えて買って来た

  「平家物語」と言うのは 平氏一族の盛衰を書いた物語ですよ

  と言うことです」

与 :「だとすると 「平家物語」には

  平家(ひらや)のことは 一切書いてねーだか」

隠 :「だから 何度も言っているように

  平家(ひらや)作りとは なんら関係がないのですよ」

与 :「んだば 何が書かれているか ちょっくら 聞かせてもらうべ」

隠 :「結構 難儀なことになりそうですよ」

与 :「ご隠居も お手上げだか

  それならそれでいーだよ 無理強いはしないだよ」

隠 :「どんなものか 初めの部分を ちょっと 読んでみますか」

与 :「ご隠居 そんなにむきにならなくてもいーだよ

  どーせ 訳の分からないものだから」

隠 :「ちょっと 読んでみますよ 良く聞いていて下さいよ

  それでは いきますよ 覚悟はいーですか 与太郎さん

  夜中 トイレに行けなくなっても 知りませんよ」

与 :「ご隠居 そんな脅かしっこなしですよ

  ウナされてチビったら ご隠居のせいだからね」

隠 :「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。」  

与 :「チョ チョ チョット 待って下せーよ ご隠居

  日本語でやって下せーよ いきなり外国語はダメですだ」

隠 :「日本語ですよ 日本語 今はあまり聞き慣れないでしょうが」

与 :「ウソだー そんなわけねーだよ

  オラ生まれて以来この方 聞いた事がねーだよ

  そんなこと聞いたって 何にも分らねーだよ」

隠 :「それではね 少し読んでは その意味を解説することにしますから

  分からない事があったら すぐきいて下さっていーですからね」

与 :「それでは せっかくだから そーしてもらうべ」       

隠 :「まずね 一番最初の部分は

  「祇園精舎の鐘の声(ぎおんしょうじや の かね の こえ)と読みますよ」

与 :「だから ご隠居 さっきから言っているように 日本語でやって下せーよ」

隠 :「だから 日本語ですよ いーですか これから 意味を説明しますからね

  まず 「祇園精舎」と言うのはですね

  普段の生活の中では あまり耳にすることはありませんよね

  〈ぎおんしょうじゃ〉と 初めて聞く人は

  与太郎さんのように それって 日本語ですか と思うでしょうね」

与 :「ご隠居 本当に 日本語ですけー

  そのうち しょうじゃない なんて言うのではねーだべなー」

隠 :「与太郎さん ここで駄洒落をかますのですか

  ここは しょうじゃないでしょー」

与 :「失礼致しやした しょうじゃ 次ぎにお進みくだせー」

隠 :「しょうじゃ 続きをやりますよ ちゃちゃ入れないで下さいよ

  〈ぎおんしょうじゃ〉と言うのは 仏教用語ですからね

  普段はあまり耳にしませんよね」 

与 :「エー 仏教ですけー あのお釈迦様の」

隠 :「そーですよ

  昔 インドガンジス川中流域に

  コーサラ国と言う国があったとのことです

  お釈迦様が お生まれになられた国ですね

  〈祇園精舎〉とは そこにあった寺院の一つと言われていますよ

  それでね コーサラ国に

  スダッタ(須達多)と言う大金持ちがいたと言うことです」

与 :「ハイ 質問 それは鳥の話でやんすか

  孵化して 何日くれーで 巣立ったのですけー」

隠 :「与太郎さん 駄洒落のチャチャは困りますよ

  スダッタは 身よりのない人を助けたりする

  心のやさしい人だったと言われています

  その彼が ある時 お釈迦様の説法を聞いて ひどく感動しましてね

  お釈迦様の説法の場として

  寺院を一つ寄付したいと 思いついたのだそうです

  そこで あちこち 場所を探しましてね

  ちょうどよい所を見つけたのだそうです

  それで その持ち主であるジェータ太子に

  その土地を譲って欲しい と交渉することになったと言うことです」

与 :「ハイ 質問 ジェータ太子は 自衛隊の人だったのですだか」

隠 :「与太郎さん 駄洒落のチャチャは困りますと言ってるでしょ

  ところが ジェータ太子は 土地が欲しいのならば 

  欲しい分 金貨を敷き詰めたら その分を譲ってやる

  と言ったのだそうです

  そうしたら スダッタは言われたとおりに

  金貨を敷き詰め始めたのだそうです

  そうしたら ジェータ太子は もともと冗談に言ったことだったので

  もうビックリしてしまい こころよく譲渡してくれ

  さらに 樹木を寄付してくれて

  そこに建てる寺院の建設にも 協力してくれたのだそうです

  このようにして スダッタとジェータ太子の好意で出来たのが

 〈祇園精舎〉と呼ばれることになる寺院なのですよ

  そして ここで お釈迦様が説法を行ったと言うことですよ

  仏教にとって 聖地とされていると言うことです」

与 :「へー その〈祇園精舎〉へ行けば

  お釈迦様から 直接 有難いお説教を 聞くことが出来たのですかい」

隠 :「厳しい修行の末 悟りを開かれたお釈迦様のお話を

  じかに聞けたようですよ」

与 :「ご隠居 お釈迦様は どんなお話を したのですかね」

隠 :「与太郎さん ここで そうきますか」

与 :「だって ご隠居

  〈分からない事があったら すぐきいて下さっていーですから〉と言った

  ではねーだか」

隠 :「まだ 覚えていました? たしかに

  そんなこと言ってしまった気がしますね」

与 :「ご隠居 しっかりして下せーよ 確かに聞きましただよ」

隠 :「確かにですか 確かにねー まいりましたねー

  お釈迦様の説法の話になると かなりの時間がかかりますよ」

与 :「いーだよ オラ 今日は 一日中 ご隠居ボランティアの予定だから

  ぜんぜん 問題ねーだよ ノープロプレムちゅうもんだよ」

隠 :「ノープロブレムねー オーノーちゅうものですねー」

与 :「ご隠居 何か言っただか」

隠 :「イエイエ 独り言ですよ」

与 :「ご隠居 独り言ですけー 

  独り言を言うようになったら 気をつけた方が良いだよ

  なんだったら 救急車手配すべーか」

隠 :「とんでもない 救急車なんか 呼ばないで下さいよ」

与 :「しかし 早期発見 早期治療が第一ですだよ ご隠居

隠 :「与太郎さん あなたつまらないことは よく記憶してますね ほんとーに」

与 :「ご隠居 しんぺーはねーだよ

  オラこう見えても江戸っ子

  宵越しの記憶は 持たねーから 一晩寝たらころっと忘れるだから」

隠 :「江戸っ子ねー 

  以前は 奥多摩生まれの 多摩っ子と言ってませんでしたか

  タマゴではないだよ なんて言ってたではないですか」

与 :「あー あれね あの時は 多摩っ子 今日は 江戸っ子ですだ」

隠 :「まったく いい加減なんですから」

与 :「へー いい加減なところが 江戸っ子のいーところで へー」 

隠 :「だいたい 与太郎さんの話っぶりは 江戸っ子風ではないですよ」

与 :「ご隠居 気にしねーでいーだよ オラ 江戸っ子江戸っ子だか

  ちょっと 在方の外れの方の江戸っ子ですだから」

隠 :「在方の外れの方と言っても 限度がありますよ 

  深川生まれの神田の育ち と言うのが

  生粋の江戸っ子 と言われているようですが

  奥多摩まで行ってしまうと もう 江戸っ子と関係がないですよ」

与 :「ご隠居 気にしねーでいーだよ

  オラ 生粋の奥多摩生まれ 奥多摩育ちの江戸っ子

  熊は 生粋の木更津生まれ 木更津育ちの江戸っ子ですだよ

  いやさー お富てーなもんですだ

  八は 生粋の横浜生まれの 横浜育ちの浜っ子の江戸っ子よ」

隠 :「そんな無茶な 本物の江戸っ子に 叱られますよ

  オッチョコチョイなところは 少し 似ていますが」

与 :「ご隠居 そんなこと 気にしねーでいーだよ 気分のもんでーですだから

  江戸っ子たー 五月のコイの吹き流し 口はでかいが ハラワタは無し 

ちゅーもんだよ」

隠 :「気分の問題ね

  ところで お釈迦様のこと 本当にやるのですか」

与 :「本当ですだよ 是非是非 おねげーしますだよ

  ご隠居 是非と頼まれると 断れねー質(たち)なのでしょー

  越谷生まれの江戸っ子としては」

隠 :「与太郎さん 冗談もいーかげんにしてくださいよ 

  私は 江戸っ子だなんて 一度も言った覚えはありませんよ」

与 :「いーですだよ 気分のもんでーですから

  それより ちゃっちゃと お釈迦様の事について 教えて下せーよ

  そしたら オラ 明日 熊と八の江戸っ子つかまえて

  説法してやるだから

  釈迦に説法ではねーだよ 江戸っ子に説法と言うもんだ」

隠 :「与太郎さん かんたんに ちゃっちゃと なんて言いますが

  これはなかなか難しいことなのですよ」

与 :「でーじょーぶ でーじょうぶですだよ

  ご隠居なら でーじょうぶ 

  迷ってはならねーだよ 自信を持って 少しずつ

  あせらずに 一歩一歩やれば いーだよ」

隠 :「なんだか 説法を受けてるような気になってきましたよ 与太郎さん

  スッカリ 自信が無くなって来た気がしますよ」

与 :「ご隠居 四の五の言わず ちゃっちゃと おねげーしますだ」

隠 :「それでは 一歩ずつ まいりましょーか

  よく言われている事を かい摘んで見ることにしますが

  なかなか分かり難いことが多いですよ

  と言うか ほとんど分からないことだらけ

  と言った方が いーようですよ と前置きして

  まず お釈迦様についてですが

  はじめに お釈迦様は どこでお生まれになったのかと言うと

  一般的には インドネパールの国境付近と言われています

  いろいろな説があって 明白でないところがありますがね

  インドネパールの国境付近に 釈迦族が住んでいて

  その釈迦族の王の子として 誕生したと言われています

  生年月日は 正確にはわかっていないようですよ

  大雑把に 紀元前七世紀から 前五世紀と言われていますが

  およそ三〇〇年間もの幅がありますからね

  はっきりした証拠が分からないのですね」

与 :「ご隠居 オラ 知ってるだよ お釈迦様が生まれたのは 四月八日だよ」

隠 :「そうですね 日本では 

  一般に 四月八日に お釈迦様の誕生祭が行われていますね

  何年の四月八日なのですかね」

与 :「決まってるだよ それはお釈迦様のお生まれになった年ですだよ」

隠 :「そう来ましたか 与太郎さん だから 何年のと聞いてるのですよ」

与 :「それを答えるのは ご隠居の番ですだよ オラは一回休み」

隠 :「与太郎さん 上手く逃げますね それでは 私も 一回パスです」

与 :「ご隠居 ルールを決めてねーだよ

  何回パス出来るか 決めておかねーと切りがないだよ」

隠 :「ここで ルール作成の会議に切り替わるのですか 時間かかりますよ」  

与 :「時間がかかるのは困るなー ではパスは無しと言うこで行くベー

  両者イエローカード一枚ずつと言うことだな」

隠 :「それでは 与太郎さん

  お釈迦様のお生まれになられたのは 何年の四月八日ですか」

与 :「ご隠居 まだそれで来るだか さては 

  イエローカード三枚に追い込んで オラを退場させようと言う魂胆だな

  ここはなんとか 煙に巻いて 切り抜けねーとやばいな」

隠 :「与太郎さん 何かいいましたか」

与 :「いやいや 独り言ですだ 気にしねーで下せー」

隠 :「おや 与太郎さん お若いのに 独り言ですか 

  独り言を言うようになったら やばいですよ

  悪化しない内に 手当した方がいーですよ

  取り敢えず 救急車手配しましょうか」

与 :「救急車は いーですだよ 話が長くなるから

  ところで ご隠居 お釈迦様が生まれる一日前

  四月七日に生まれた人 誰だか知ってるだか」

隠 :「そんなの 多数いるのではないですか」

与 :「それはそーだけんど 仏教ではなく 他の宗教関係で有名な人だよ」

隠 :「そんなことぐらい知ってますよ じょーしきですよ

  キリスト教宣教師 フランシスコ ザビエルでしょ」

与 :「エー 知ってるだか

  しかし じょーしきと言うのは言い過ぎだべ 

  普通そんなこと知らねーだよ」

隠 :「いやいや じょーしきですよ 与太郎さんが持ち出すようなことですから」

与 :「んだば ザビエルの正式な名前 知ってるだか」

隠 :「それも じょーしきですよ 

  ザビエルのお父さんは フランシスコ ジャッコアと言うのですよ

  お母さんは アスピルクエタと言うのですよ

  それで ザビエルは ピレネー山脈の麓に住んでいたバスク族でね 

  バスク族では

  父親の名前と母親の名前を並べて

  その後に本人の名前を並べる習慣があったのですよ

  したがって ザビエルバスクの正式名は

  フランシスコ ジャッコア アスピルクエタ イ エチェベリーアと言う

のですよ

  すなわち エチェベリーアと言う名前なのですよ

  ザビエルは 通称ですね ザビエル城で生まれたからね」

与 :「ご隠居のじょーしきは 舌咬むようだな まいったね これは」

隠 :「与太郎さん 煙に巻けなくて 残念でした」

与 :「ご隠居 ちゃんと聞こえてただな 参ったね こりゃー また イエロー

カードだな」

隠 :「与太郎さん あと一枚で いよいよ退場ですよ 楽しみですねー」

与 :「イヤイヤ これからだよ とんだヤブヘビだったな 話を戻すべ」

隠 :「そーですね 残念ながら

  お釈迦様のお生まれになった年月日は 具体的は

  いろいろと 疑問があって ハッキリしてはいないようですよ」

与 :「んだば 名前の方はどうだべ」

隠 :「今度は 名前で来ましたか

  今 話に出ていた ザビエルですが

  色々な書物に当ってみると その名前の書き方が随分沢山あるそうですよ

  以前 それを調べた人がおりましてね 六〇近い表記があるとの事ですよ」

与 :「と言うことは お釈迦様さまも 沢山ありそーだな ご隠居

隠 :「これも多そうですね

  本名はは ゴーダマ シッダールタとかシッダッダといいますね

  ザビエルザビエル城生まれだったので ザビエルと言われた様ですが

  お釈迦様も 釈迦族の出だから 釈迦と呼ばれるようになった様ですよ

  釈迦牟尼(しゃかむに)と言う名前をよく聞きますが

  牟尼は聖者の意味で

  したがって 釈迦牟尼は 釈迦族の聖者と言う意味だそうです

  釈迦牟尼世尊 釈迦牟尼仏陀 釈迦牟尼仏 釈迦牟尼如来など

  類似の呼称が多くある様ですね

  略して釈尊(しゃくそん)とか 

  釈迦尊 釈迦仏 釈迦如来と呼ぶことが多いとか

  世尊 仏陀 ブッダ 如来などとも言われますね

  仏典(お経の本)では

  釈迦牟尼世尊 釈迦尊 釈尊(しゃくそん)

  釈迦牟尼仏陀  釈迦牟尼仏 釈迦

  釈迦牟尼如来  釈迦如来(しきゃじらい)

  多陀阿伽度(たたあかど)

  阿羅訶(応供)(あらか)

  三藐三仏陀(正遍智)(さんみゃくさんぶっだ)

  と言う呼称が多いとか 言われていますよ

  ちょっと 与太郎さん やけに静かではありませんか

  起きてますか 与太郎さん」

与 :「おっといけねー オラ こういうお堅い話になると

  途端に お釈迦になってしまうだよ」

隠 :「しっかりいてくださいよ 与太郎さん

  それにしても タイムリーに いー事おっしゃるではないですか

  お釈迦になるなどと」

与 :「オラ 子供のころから このようなお堅い話になると

  もう いけねーですだ

  お釈迦も いーとこですだ もう アリガタクなって

  コックリとしてしまうだよ」

隠 :「その お釈迦になると言う意味ですが どういう意味か知ってますよね」

与 :「もうダメだ 役に立たなくなる と言うような意味で使いますだよ」

隠 :「そのとおりですよね

  どうして そのように言われるようになったのか知ってますか」

与 :「それは お釈迦様の説法を聞いていたら

  スッカリ有難くなって 居眠りしてしまうからでねーですか」

隠 :「アリガタクなって居眠りするのは 与太郎さんではないですか」

与 :「そのとーり 子供の頃からだよ もう 病気と言ってもいーだよ 重症」

隠 :「そーではないようですよ

  昔 鋳物職人がね 阿弥陀様の像を造ろうとしていたところ

  うっかり間違えて お釈迦様の像を造ってしまったのだそうですよ 

  それで お釈迦様の像は 使い物にならなかったので 

  使い物にならないことをお釈迦になる

  と言うようになったとか言うのだそうですよ  

  その他にもね 与太郎さんのような江戸っ子がですね

  〈ひ〉の発音ができず 〈し〉と言ってしまうことが多くてね

  火事で丸焼けになって 家などが使い物にならなくなった時に

  〈ひが強かった〉と言うところを

  〈しが強かった〉と言ったりしたのを

  お釈迦様の誕生日 四月八日(しがつようか)と掛けて

  使い物にならなくなる事を お釈迦になる

  などと言うようになった とも言われていますよ

  与太郎さんや私の駄洒落の相当上を行っている洒落ですね

  与太郎さん 私たちも お釈迦様にあやかって

  食べるだけでなく 精進しなれけばなりませんね

与 :「へー なるほどね 考えてますだなー 精進 精進ですだなー

  しかし 精進揚げばかりでは 飽きて 元気が出なくなるだよ」

隠 :「またね 博打でね 持ち金を使い果たした上

  着物まで取られて スッテンテンになることも

  お釈迦になると言うのですよ

  これはね お釈迦様は お生まれになってすぐに

  天と地を指差されたと言う事ですが

  四月八日の花祭には お生まれになったままのお姿の像に 

甘茶をかけますよね

  お生まれになった時の像なので スッポンポンですよね それで

  身ぐるみ剥がれて スッテンテンなにることを

  お釈迦になると言うようになったとも 言われていますよ

  これも 上手くかけたものですね」

与 :「甘茶をかけたからだな」

隠 :「その程度のかけっぷりでは あまり感動しませんよ

  子供のころ 四月八日の花祭りには お寺へ行って

  小瓶に お釈迦様の像にかけた甘茶を貰って来ましたね

  これを飲めば お釈迦様のように賢くなるとか言われて 

  あまり得意な甘さではありませんでしたが 少しばかり飲みましたよ」

婆 :「さーさー 与太郎さん お茶にしますよ」

与 :「タイミングがいーだな まさか甘茶ではねーでしょうね」

婆 :「なんだったら 甘茶にしましょうか」

与 :「いえいえ それには及ばねーだよ へたに 甘茶をやろうものなら

  ご隠居に カッポレを踊らされてはたまりませんから」

婆 :「あら 与太郎さん カッポレをおやりになるのですか」

与 :「と とんでもねーですよ できません

  それにしても 武井咲ちゃんのお姉さん風の奥様

  今日のお茶の装置は ちょっと大袈裟でやすね」

婆 :「今日はね ウーロン茶にしますから

  先日 お茶屋さんに立ち寄ったところ なんだかだ言われて 

  結局 ウーロン茶のセットを買わされちゃったのですよ

  今日は そのお披露目といったところですよ」

与 :「急須も茶碗も かなり小ぶりでやんすね 何です このお盆風のものは」

婆 :「お茶碗は 小ぶりで幾分縦長になっているでしょ

  これをお湯受けの盆に 人数分並べましてね

  まず 急須に 茶葉を適量入れましてね 

  熱いお湯を注き 盖をするでしょ

  そして 急須と茶碗に 上からお湯を こう掛けるのですよ 

  茶碗が暖まるでしょ

  そして お茶碗のお湯を流して空にしましてね 

  急須のお茶を注ぎましてと

  それも流してしまいましてね 伏せておくのですよ 

  急須のお茶も全部流してしまいますよ

  そして 急須に新たにお湯を注いで しばらく置くのですよ

与 :「えー せっかく入れたのに 最初のお茶流してしまうだか 

  もってーねーだよ」

婆 :「最初の一煎目は 洗い流す意味なのでしょうね

  その間に お茶碗をとって 鼻の近くに持って行き 香りを嗅ぐのですよ」

与 :「こう 臭いだけの茶碗を嗅ぐのですけー

  あ ウーロンの香りがするだよ」

婆 :「そーです ウーロン茶のほのかな香りを 楽しむのですね

  そうこうしている間に 急須のお茶が程よく出来たのを見計らって

  それをお茶碗に 少しずつ回し入れしましてね

  それを 頂くことになるのですよ」

与 :「なるほどねー 普段ぞんざいに飲んでいる ウーロンよりうめーでやすね

  武井咲ちゃんのお姉さん風の奥様 この作法は何と言うのですけー」

婆 :「与太郎さん その手には乗りませんよ 

  横千家とか 斜向い千家とか 言わせようとしているのでしょ」

与 :「へへへ バレたか」

隠 :「何を詰まらないこと言っているのです

  おバーさん お茶のお替わりを下さいよ」

婆 :「あら おジーさん 何かお忘れではございませんか」

隠 :「えー またですか ほどほどにお願いしますよ

  それでは これでいーですか 咲ちゃんのお姉さん風のおバーさん」

婆 :「ハアーイ 

  分かっているのなら 最初から言えばいーのに ねー 与太郎さん」

与 :「そうですよ そうですよ ねー 咲ちゃんのお姉さん風の奥様」

婆 :「そーですよねー」

隠 :「あなたら いい加減にして下さいよ 本当に」

婆 :「それでは 与太郎さん どーぞ ごゆっくり」

隠 :「本当に こんなジュゲムまがいのこと やってられませんよ 与太郎さん

  それでは さっさと お釈迦様の方に戻りますよ

  どこまで話しましたかね」   

与 :「甘茶の話までですだよ」

隠 :「あー お釈迦様の誕生した年月日の話でしたね

  とにかく 具体的には明白ではないようですよ

  次は どうしましょうか そうだ 出家して 厳しい修行の末

  悟りを開くことになるところは 欠かせませんね」

与 :「ご隠居 いよいよヤマ場だなー 

  とにかく やさしく 分かりよくやって下せーよ 

  小難しくなると オラ すぐに コックリ病が出るだからな

  オラは 心地よくって 一向に構わねーだが

  ご隠居は そーは行かネーだな 独り言になってしまうからな

  老人が 独り言を始めると 用心しなくてはなんねーよ

  こんな時 救急車を呼ばなくてはならネーだが

  肝腎のオラは コックリで意識不明だから これは 弱っちまうな

  ご隠居 どーしたらいーだべ」

隠 :「与太郎さん お釈迦様について

 教えて欲しい と言い出したのは 与太郎さんですよ

  その本人が 意識不明になって どーします

  救急車呼びますよ 本当に 起きていて シッカリ聞いて下さいよ」

与 :「それでは ご隠居 オラをコックリさせねー方策を 考えて下せーよ」

隠 :「えー 話を そっちへ振るのですかー 弱りましたねー

  そーですね それでは 与太郎さんは駄洒落が好きだから

  私の話を聞いてて タイミングよく 駄洒落をかます とか 

  突っ込みを入れる と言うのはどうです

  これならば コックリせずに済むでしょ」

与 :「さすがは ご隠居 そーきやしたか 

  そーとなりゃー コックリしている閑はネーな

  よーし それでめーりやしょー」

隠 :「それでは 行きますよ」

与 :「はい ご隠居 何処へ行くのでやすか」

隠 :「いきなり 突っ込みですか これでは 前へ進めませんよ」

与 :「ちょっと かーるい 練習ですだよ」

隠 :「それでは 始めますよ

  お釈迦様は お生まれになったとたんに 七歩歩き

  右手で天を指し 左手で地を指して

  〈天上天下唯我独尊〉とおっしゃった と言う話が伝わってますよ」

与 :「生まれたとたんに 七歩あるいただか

  と言うことは 八歩目でコケタだか」

隠 :「まさか そう言う意味では無いでしょー

  百万歩あるいたなんてすると どこか遠く迄行っちゃいますからね

  七歩ぐらいが ちょうど良かったのではないのですか」

与 :「ご隠居 ボケですけー

  突っ込みは オラの役 と言うことは ポケはご隠居の役だか」

隠 :「まー 二人しかいませんからねー そういうことになりますね」

与 :「そーだな ボケてもらった方が 突っ込みやすいと言うもんだ

  ところで ご隠居 〈天上天下唯我独尊〉とは どう言う意味だべ」

隠 :「簡単に言えば〈世界中で 私が一番偉い〉と言う意味ですね」

与 :「生まれたとたんに 大した自信家ダッタのだなー お釈迦様は」

隠 :「お釈迦様の名前が シッダッダなので この駄洒落になったのですか

  〈シッ〉は どこへ行ってしまったのですか 〈シッ〉は」

与 :「ここにあるだよ 〈シーッ〉 お静かにおねげーしますだ

  一眠りしますだから」

隠 :「冗談でしょ ここで居眠りされては たまりませんよ

  〈シッ〉かり起きていて下さいよ」

与 :「おっ ご隠居もそー来やしたか

  ところで ご隠居 お釈迦様 生まれたとたんに

  本当に こんなことシッダッダか」

隠 :「おー 続いてきましたね

  まさかね 生まれた途端にこんなことするわけありませんよね

  後世の人が お釈迦様の偉さを讃えて造った逸話でしょうね」

与 :「オラ ダッタら 生まれた途端に

  〈ご隠居 留守かい〉と言った と言うことになるかも知れねーだな」 

隠 :「きっと そーなりますね だから 居眠りしないで下さいよ

  それでですね シッダッダ様は すくすくと聡明で立派な青年に

  ソダッタということですよ」

与 :「ソーダッタのですけー ご隠居

隠 :「ソーダッタのですよ それでね 一六才の時に

  ヤショーダラーと結婚したと言うことです」

与 :「へー 一六でですけー さすがは お釈迦様さま スピーディーだな

  ちゃんと やることはやってただなー

  しかし 今だと高校一年生だよ 生活費はどうしたのかね

隠 :「いやいや シッダッダ様の家は お金持ちでしたから

  そんな心配は少しも無かったのですよ

  しかし ですね シッダッダ様は成長するにしたがって

  色々なことを深く考えるようになったようですね

  人間としての個人的な悩みや社会的な色々な事柄に対して

  多くの疑問を持たれた 何とかしなくてはならないと

  思うようになられたようですよ」

与 :「そーですだよ こー見えて オラも 色々悩みがあるだよ

隠 :「当ててみましょーか」

与 :「ご隠居 予想屋さんもやるだか」

隠 :「これがね 与太郎さんについての予想は

  かなりの確率で当ると思いますよ

  与太郎さんの心を読むことができますから」

与 :「エーッ オラの心を 読めるだか ご隠居

隠 :「読めます 読めます 分からない文字は 一字もありませんよ」

与 :「それじゃー ひつと読んで下せー 外れたら 昼飯おごって下せーよ」

隠 :「はいはい それでは 与太郎さん 行きますよ」

与 :「ご隠居 この期に及んで どっかへ 行っちまうだか」

隠 :「その行くではありませんよ では行きますよ

  ハラへってきたなー そろそろ 昼だなー 天婦羅ソバでも出ないかなー

  天婦羅は 車海老に限るなー 三本載っていると たまらねーな

  と どうです」

与 :「ピンポン ピンポン ピンポン 大当たり 

  さすがは ご隠居 ドンピシャリでやんす」

隠 :「どーです ピッタリでしょー」

与 :「エビ天の本数まで当てるとは 恐れ入りやした

  ご隠居 こんなにピッタシ的中させることは ただごとではねーですだよ

  こんな超能力を 眠らせておくのは もってーねーだよ

  こーなりゃー 駅前で 占を開業するべ

  世の為 人の為 とにかく人助けになるだよ 

  きっとみんな大喜びするだよ」

隠 :「私が 占をですかー それはダメですよ 

  私の予想の範囲は 極めて狭いですから

  手っ取り早く言えば 与太郎さん限定ですから

  与太郎さん的に表現すれば 

  与太郎さん専属予想屋さんですから 他の人は対象外ですからね」

与 :「えー オラは ご隠居専属のボランティア

  ご隠居は オラ専属の予想屋さん と言う事ですけー」

隠 :「まー そんなところですよ」

与 :「と言うことは オラのことについて

  なんでも的中できる ちゅーことだな

  それでは 早速で恐縮だが

  今度のジャンボ宝クジ 当り番号教えてくだせーよ

  宜しくおねげーしやすだよ」

隠 :「それは 与太郎さん ダメですよ」

与 :「えーッ どーしてですだ オラ関係のことは

  ピッタシ的中するのではねーのですけー」

隠 :「そーですよ しかし 宝クジの番号は

  与太郎さんそのものではないでしょー

  全く対象外ですから 的中するわけはないじゃないですか」

与 :「エー 宝クジの番号は 対象外ですけー

  じゃー オラ関係ではどう言うことになりますだ」

隠 :「与太郎さんについては ジャンボ宝クジなんて 当りっこありませんよ

  これは かなりの高確率で ビッタリ的中しますよ

  ジャンボなど ハズレです スカ」

与 :「ご隠居 そんなに自信もって スカまで言うだか」

隠 :「断言します スカです」

与 :「ご隠居に そこ迄 予想されたのでは ジャンボ買うのヨソーかなー」

隠 :「そー来ましたか 与太郎さん」

(つづく)