《停念堂閑記》59

「停念堂寄席」50

 

「常識談義」

 

本日も、ヒマ潰し処「停念堂閑記」に、ようこそお出で下さいました。

厚く御礼申し上げます。

本当に、よくいらっしゃいました。大歓迎で御座いますよ。

おヒマなお方、心より、大歓迎で御座いますから。

今日も、退屈なヒマ潰しに、どうぞお付合い下さいませ。

話は、毎度の代わり映えのしない、アホくさい、バカバカしい、クダラないの三拍子を兼ね備えた、行き当たりバッタリのアホくさい、バカバカしい、クダラない話で御座います。

なんで、アホくさい、バカバカしい、クダラない話をするのか、と言われますと、そんなこと決まってるではないですか。

立派な、意義深い話は、難しくて出来ないからですよ。

私だってですね、たまには、気の利いた話をしたいもの、とは思わなくはないのですよ。

しかしですね、これが中々困難なのですよ。

人には、生まれながらにして、得手・不得手が御座いますからね。

気の利いた話は、元来不得手なのですよ。中々出来ないのです。

出来ないことは、結論的に、出来ないのですよ。

出来ない事は、出来ない。だからやらないの。判り易い論理でしょう。

一方、アホくさい、バカバカしい、クダラない話の方は、どちらかと申しますとね、少しばかり、得意なのですよ。性格的に性に合ってる、と言うのですかね。とは申せ大したことは無いのですが。

ものごと、出来映えだけを問題にしてはいけませんよ。大事なのは、それに取り組む姿勢ですからね。

アホくさい、バカバカしい、クダラない話が目標。大した姿勢だわ。ホンマ。

とにかく、ヒマ潰しが、そもそもの主たる目的で御座いますから、この路線から外れないように、極力配慮して、参らなければならないのですよ。

ところで、今日は、前回に続きヒマ潰しにスリバチとスリコギを使いませんよ。スリバチとスリコギは、今日もお休みです。休息を与えないと、ブラックだとか言われますからね。

今日は、前回に続けて 与太郎さんと、ご隠居とおバーさんに登場して貰うことにします。

それでは、まいりましょう。

まったく 実に たあいもない バカバカしい話で御座います。

どうぞ悪しからず、お願いいたします。

 

与:「ご隠居 留守かい 留守番に来ただよー」

隠:「与太郎さんですか 生憎 留守では御座いませんよ」

与:「ご隠居 たまには お出かけ下せーよ オラが責任をもって留守をあずか

  るだから」

隠:「そうは問屋が卸しませんよ 易々とは留守には致しません

  以前 与太郎さんが オラは留守番の達人だなんて あまりにも執拗に 

  留守番をせがむので しょうがなくお願いしたら 帰ってみたら あなた

  消化器を2本も買わされていたではないですか」

与:「それは 留守番をしてたら 消防署の方から来た と言うセールスマンが

  やって来て 今日は 特別サービスで 2本買ってくれたら 半額にする

  と言うので これは買い得だ ご隠居の豪邸が火事になっては てーへん

  だと思って 気を利かせて 買っておいただよ お年寄りに気を遣うのは

  世の常識ですだよ」

隠:「私のところには 既に 3本用意してあったのですよ 合計5本 結講ジャ 

  マなのですよ」

与:「大丈夫ですだよ 冷蔵庫に入れておかなくとも いたみはしねーだよ」

隠:「どこに 冷蔵庫に消化器を保管している人がいますか」

与:「ご隠居 備えあれば 憂いなし これは常識ですだよ」

隠:「常識も 度を超すと非常識となります」

与:「大丈夫ですだ 使い道はオラがちゃんと 考えてあるだから」

隠:「えー 使い道ったって 消化器の使い道は決まってますよ」

与:「たとえば オラとこで ボヤを出したとしたら ご隠居が 消化器5本担

  いで 駆けつければ 消防車より役に立つかもしれねーだよ」

隠:「私が 消化器5本も担いで 与太郎さんちのボヤ消しに 駆けつけるので

  すか」

与:「ご隠居 備えあれば 憂い無しですだ これは 常識ですだよ」

隠:「何処の備えに気遣っているのですか まったく 油断ならないのですから

  ところで 与太郎さん 今日は平日ですが お仕事は どうしました」

与:「お仕事でごぜーやすか お仕事は休みですだよ」

隠:「何時も 金曜日は お仕事でしょー」

与:「それは 何時もの 金曜日のことですだ」

隠:「と言うことは 今日は 何時もの 木曜日の次の日の金曜日とは 違うの

  ですか」

与:「ご隠居 今日は 土曜日の前の日の金曜日ですだよ だから仕事は休み」

隠:「はー 木曜日の翌日の金曜日と 土曜日の前日の金曜日は 違う金曜日な

  のですか」

与:「それは全然違うだよ 普通の木曜日の次の金曜日は オラ仕事があるだよ

  ご隠居とこんな話 してらんねーだよ 

  しかし 今日は明日の土曜日の前の金曜日だから 仕事は休み」

隠:「えー 与太郎さん なんだか 話が見えませんよ 長引きそうですね

  寒いので 上がって お茶でもしながら とくと 窺おうではございませ

  んか」

与:「いーだよ オラ 今日は 1日中休みだから

 

  それじゃー おジャマしますだ ご隠居のところは いつもキチンと片付

  いてますだなー 毎日 掃除して 整理整頓してるだか」

隠:「おバーさん 与太郎さんですよ お茶をお願いしますよ

  そーですよ 毎日 掃除をして 整理整頓しておかないと なんとなく落

  ち着かないのですよ」

与:「へー 落ち着いて どーしようと言うだよ」

隠:「別段 どーしようと言うことでは御座いませんが 何時もの習慣でしてね」

与:「まー こうして整理整頓しておけば 地震対策にはなるだな」

隠:「えー 地震対策ですか 整理整頓しておくと 地震が起きないのですか」

与:「まさか そんなこと 整理整頓地震予防のおマジナイだと思もうだか 

  ご隠居の常識では」

隠:「さすがに そんなおマジナイは 効き目が御座いませんでしょ 与太郎

  んの常識ではいかがですか」

与:「違うだよ 地震の予防ではなく 地震が起きた時のことだよ」

隠:「整理整頓しておくと 地震が来た時に 何か 良いことでもあるのですか」

与:「これがありますだよ オラの知合いの人だが この人は なんでも 適当

  に 部屋の中に積み上げる習慣があるだよ いつも 地震がある度に 積

  んである物が崩れるだよ」

隠:「なるほど 崩れると壊れたり また もとに戻すのに 手数がかかります

  なー」

与:「いや 元に戻す手数は そう掛からないだよ 主に 本なのですだが ま

  た 手当り次第に 適当に積み上げればいいだから さほど手数は掛から

  ないだよ 積み上げる前段階が てーへんなのですだよ」

隠:「と言います 何か 問題がおありなのですか」

与:「おありなのですだよ これが 部屋の外にいた時に地震が来た時が てー

  へんなのですだよ 

  部屋に積んである本が崩れると ドアが開かなくなるだよ 部屋にへーれ

  なくなるだよ それで ドアをとにかくわずかでもこじ開けて そこから

  手を突っ込んで 本を1冊ずつ取り出すだよ 手が届かなくなると棒切れ

  を捜して来て それで本を引っ張るだよ この作業がなかなかてーへんで 

  部屋に入れるようになる迄は 悪戦苦闘ですだよ

  ご隠居のお部屋は そーゆうことには ならねーだよ」

隠:「そーですか それは骨が折れるでしょーな」

与:「そーですだよ 棒切れがキャシャな時は 骨の前に 棒切れが折れるだよ

  そーしたら また 別のを捜すのに骨が折れるだよ ちょうど良い手頃な

  棒切れなど なかなかあるものではねーだよ」

婆:「いらっしゃいませ 与太郎さん お茶をどーぞ」

与:「おじゃま致しますだ 深キョンちゃんのお姉さん風の奥様 今日もまた 

  とてもお若くて お奇麗で まるで成人式を迎えたばかりのようですだ」

隠:「与太郎さん 深キョンちゃんは もう30歳を超えているのでしょー その 

  お姉さん風が 成人式を迎えたばかり と言うのは 可笑しくありません

  か 常識的に言って」

与:「全然 可笑しくなんかねーですだよ 誰が見たって 常識ですだよ」

隠:「それはやっぱり 可笑しいですよ 与太郎さん」

婆:「おジイさん 私が深キョンちゃんの姉さん風で しかも 成人式を迎えた

  ばかりのようでは 何か 不都合でも御座いますか おジーさんの常識で

  は 

  与太郎さんは ただただ 正直なだけでは 御座いませんか」

隠:「そーですか 与太郎さんの正直では 私は ひからびたボーダラだそうで

  すよ ちょと 差があり過ぎでは御座いませんか ちゅーの」

婆:「本当に 与太郎さんは正直なんだから ピッタリですよ 常識人ですわー」

隠:「おバーさん もー いい加減にして下さいよ 調子にのっちゃって すっ

  かり与太郎さんに乗せられちゃって これでは ケーキでも出さなくては 

  なりませんよ」

婆:「とっくに 用意して御座いますよ 与太郎さんには モンブランとチョコ

  ケーキのダブルですよ」

隠:「与太郎さんには ダブルですか 因に 私の方はどうなってます」

婆:「おジーさんのは 御座いませんよ 糖分は当分控えるようにお医者さまに

  言われているでしょー これは常識ですよ」

隠:「おバーさん それはないでしょ 贔屓が過ぎませんか」

婆:「それでは おジーさんは 特別 ひからびたボーダラから チーズタラに

  格上げしてあげますから」

隠:「タラから 離れませんか ちゅーの」

婆:「それでは 与太郎さん ごゆっくり」

与:「お世話をおかけ致しますだー 深キョンちゃんのお姉さん風の奥様」

隠:「もう よして下さいちゅーの」

与:「お優しい奥様でねーの チーズタラに 思いっきり 格上げして貰えたで

  はねーですか よかっただなー ご隠居

隠:「思いっきりねー 与太郎さんの常識ではそのようになりますか」

与:「そーですだよ 二階級特進てなもんだよ」

隠:「二階級特進でないと どーなるのです」

与:「そーだな コマイ(氷下魚)の寒干といくか なかなかいい味してるだよ」

隠:「コマイ(氷下魚)の寒干ねー タラからコマイ(氷下魚)に代わっただけでは

  御座いませんか」

与:「それじゃー ホッケの寒干では どーですだ」

隠:「ホッケの寒干ですか」

与:「作り方は コマイ(氷下魚)もホッケの寒干も ボーダラといっしょだよ 

  寒風にさらして作るだよ」

隠:「タラが コマイ(氷下魚)やホッケに代わっただけではないですか」

与:「そーですだ ひからびてコチコチ 漬物石を台にして 金槌でトントンと

  叩きほぐすだよ 深キョンちゃんのお姉さん風の奥様に 一声かけると 

  漬物石と金槌が届けられるシステムになってるだが どーします ご隠居

隠:「よして下さいって ほんとーに もー もっと ましなのは ないのです

  か」

与:「それでは 特別ですだよ 特別に三階級特進で 鮭トバでどーですだ」

隠:「鮭まで出世しましたか 鮭トバでトドのつまりですか」

与:「ご隠居 鮭はトドではねーですだ トドは普通の名では ボラですだ

  出世魚で 幼魚の時はオボコ 次に イナと呼ばれるだよ イナになると

  背ビレがピントとしていて なかなか格好良いだよ 寒干にされてピント

  なっているのとは 違うだよ 念のために イキがよくて ピンとしてる

  だよ だから 江戸時代には威勢の良い若い衆を たとえて鯔背だねーと

  言っただよ そして 成魚になってようやくボラと言う名前になるだよ 

  これが更に成長すると トドと言われるようになるだよ トドと呼ばれる

  ようになると 1メータほどにもなるだよ。以前 鳥羽 鮭のトバとは違う

  だよ三重県鳥羽だよ 鳥羽水族館に行った時に 港の岸壁から大きな

  魚がうようよ泳いでるのが見えただよ なんと言う魚か聞いたところ ト

  ドだよと教えてくれただよ 水族館から放出される水に食べ残しの餌が沢

  山含まれていて それを食べて大きくなるんだってさ 普通のボラの3・4

  倍も大きいので ビックリしただよ

  それで これ以上成長しても名前は変わらないだよ トドが最終だよ だ 

  からこれで終り と言う時に トドのつまり となるだよ トバのつまり

  とは言わねーだよ

  因に ブリも スズキも 出世魚で 成長と共に呼び名が変わるだよ 

  釣り人の間では 釣り上げた本人は これはブリだ とか スズキだーと

  自慢するだか 隣の釣り人は 悔しいから いやいや それはまだイナダ

  (ハマチ)だ フッコだと言うだよ タイも地方によっては 幼魚のことを

  チャリコと言ったりするだよ 自転車のことではねーだよ 自転車の方は

  チャリンコ タイの子供のチャリコは チャリンコには乗らねーだよ こ

  れは常識だよ」

隠:「与太郎さんは なかなか 魚についての知識が豊富ですねー」

与:「いやいや なんのなんの常識を抜けねーだよ」

隠:「ところで ボーダラから コマイ(氷下魚) ホッケの寒干を経て ようや

  く鮭トバに辿り着きましたが どれも 乾燥してコチコチですなー」

与:「ご隠居 まだ 不満だか それでは 特例中の特例で すげーでっけーの

  にしやすか」

隠:「なんです その特例中の特例と言うのは」

与:「ご隠居 おどろくでねーだよ ビックリして お茶をひっくり返しちゃー 

  なんねーだよ

  救急車呼んでおくだか 覚悟は出来ているいるだか ご隠居

隠:「出来てます 出来てますよ 与太郎さん さー どうぞ どっからでも」

与:「そーれ いくだどー クジラの寒干でー どうでー 参ったか ご隠居

隠:「クジラの寒干ー いくらなんでも それは行き過ぎでしょー

  ビックリする以前に アホくさくて ひっくり返ってしまいますよ」

与:「これくれー バカバカしれば この話の目的は 達せーですだな」

隠:「もー アホくさくて ヒマ潰しには もってこいですなー

  それでは 本題に戻しますよ もー すっかり 忘れていたのではないで

  すか

  木曜日の翌日の金曜日と土曜日の前日の金曜日の話 さー 常識のある説

  明をお願い致しますよ 与太郎さん」

与:「さすがは ご隠居 忘れていなかっただなー」

隠:「サー 与太郎さん 常識で判るご説明をお願い致しますよ」

与:「ご隠居 そんな 大袈裟なものではねーですだ 常識を出すまでもねーこ

  とですだよ」

隠:「えー そーなんですか」

与:「そーですだよ 今日は 明日の土曜日の前の金曜日 オラは仕事が休み

  それは 明日の土曜日は オラが働いている 叔父さんの店の月に一度の

  特売日ですだ 安いよ 何でも ボーダラもおいてあるだよ だから特売

  日の前日の金曜日は オラは休みだよ」

隠:「ボーダラは どうでもいーですが 特売日の土曜日の前日の金曜日は 準

  備で忙しいのではありませんか それなのに何故休みが貰えるのですか」

与:「それだから オラは休みとなるだよ 忙しいだから 常識だよ」

隠:「どう言う 常識だとそーなるのですか」

与:「簡単な話だよ 叔父さんが言うには 与太郎 お前がいると 仕事のジャ

  マになる だから 特売の準備で忙しい金曜日と特売日の当日は 来なく

  ていー と まー こう言うことになるだよ 叔父さんの常識らしいだよ」

隠:「なーるほど」

与:「ご隠居 なーるほどとは どう言うことだ 叔父さんの常識に納得してい

  るだか それが ご隠居の常識と言うものだか」

隠:「します します すごくします 納得です 叔父さんは まさに常識人で

  すよ」

与:「おーい 常識は どこあるだよ」

隠:「いまや 常識は 至る所に それぞれ個々のところに あるようですなー」

与:「それじゃー 明日は特売日だ オラと一緒に ボーダラを買いに行くべー

  オラ 叔父さんの店では 顔がきくだよ ご隠居には うんとまけさせる

  だよ お買い得ですだよ こんな時に 買いだめしておくのは 常識です

  だよ」

婆:「お待たせ致しました 与太郎さん ケーキをどうぞ」

与:「これはこれは 深キョンちゃんのお姉さん風の奥様

  奥様も 明日は 特売に行きますべー」 

婆:「うちでは ボーダラは間に合っておりますよ おホホホホホ」

 

お疲れ様で御座いました

お後がよろしいようで