《停念堂閑記》47

「停念堂寄席」38

 

《SP与太郎クンとご隠居さん》2

 

〔SP与太郎クンの神様 〕1

 

 〈 神様創造  〉1

 

 与太郎さんの頭にくっついているSPは、スーパーの略です。

すなわち “スーパー与太郎さん” と言うことで 期待を込めたSPです。

マーケットの名前ではございません。蛇足ながら。

 たわいもない話で、恐縮でございますが、笑い話と申しますか、バカ話と申しますか、閑にまかせての下らない話です。要は、定年後の暇つぶしです。

 余程閑を持て余しておられるお方、酔狂なお方は、御付合い下さいませ。 初めに、お断りしておきますが、本当に馬鹿馬鹿しい 話ですよ。それを、御承知の上で御付合い下されば、幸甚でございます。何卒、御寛容の御心でお願い申し上げます。

 

 

与:「ご隠居 留守かい 

  専属ボランティア与太郎さんですよー」

隠:『はいはい 与太郎さんかい 留守ではありませんよ

  うっかり 留守にすると 勝手に留守番をする自称留守番の達人がいますので

  留守にはしないように気をつけています

  それから 言っておきますが 鍵の隠し場所は 替えましたからもう 鍵探しは   諦めて下さい』

与:「ご隠居 無駄な抵抗だよ  盆栽用のジョウロの中なんぞに隠したって 

  オラには ちゃんとお見通しだよ」

隠:『エー なんで知っているんです』

与:「おら 昨日 ご隠居が 帰宅したのを偶然見ただよ

  そしたら ご隠居 ジョウロの中から 鍵を取り出しただよ

  その現場を 目撃しただよ  たった それだけのことよ 手間はねーだよ

  先日は 虎屋羊羹を ごちそーさんでした 

  やっぱり羊羹は 虎屋に限るだよ ご隠居

隠:『与太郎さん 虎屋さんから 幾らか頂いているのですか

  えらく虎屋さんに 肩入れですね』 

与:「いや そうではねーだよ  こういうことは こまめにやっておけば

  そのうちに “夜の梅”の一棹も届くんでねーかと 思うだよ」

隠:『そんなこと あるわけないでしょー』

与:「ご隠居 虎屋さんは なんと室町時代から 羊羹を作っていただよ

  皇室御用達の老舗の羊羹屋ですだ 

  江戸時代 には 貴重な輸入砂糖を 長崎で 原価で買い付ける特権を

  許されていたようですだよ」

隠:『そうですね 老舗ですね 練りが念入りの羊羹ですね』

与:「んだ よく練られていて 堅作りだよ」

隠:『だから ヨーカンデで食べなければならないのでしょ

  与太郎さん 駄洒落は これで宜しいですか

  これを やらせるために 虎屋さんを 引合いにしたのでしょー』

与:「ご隠居も 段々 オラのこと分って来たみてーで 

  世話なくて済むようになって来ただな」

隠:『それにしても まったく また 鍵の隠し場所 替えなければ』

与:「ご隠居 無駄なことは 考えず

  出掛ける時は 一声掛けて 錠かけて 鍵はオラに預けましょう」

隠:『これは どーも ご親切に』

与:「ご隠居 とにかく 出かける時は 鍵をオラにあづけておけば 

  それが 一番安心というものだよ」

隠:『それが 一番危ないのですよ まったく 油断も隙も 

  ありませんね 本当に』

与:「ところで ご隠居 馬鹿馬鹿しい話は これっくれーにして

  今日は もちっと 格式の高い でーじな話があるだよ」

隠:『格式の高いのときましたか 

  とびきり間抜けな話ではないでしょうねー

  いったい 何事ですか』

与:「ご隠居に 何事ですか と言われると

  オラも 言わねー訳には いかねーと言うもんだ

  オラは なんちゅったて ご隠居専属のボランティアつーもんだからな

  ご隠居に 一時たりとも 退屈させては もーしわけねーだよ

  ご隠居支援閑つぶしNPO代表としてはな」

隠:『それはそれは 恐れ入ります 

  私はこう見えても閑ではありませんよ

  いろいろと やらなければならないことが沢山あるのですから

  はやいところ 用事を言ってくださいよ』

与:「また ご隠居 そんなハッタリかまさなくても でーじょーぶだよ

  オラ 何時もご隠居のところ 覗いてるだから 

  ご隠居のおっしゃいますところの お忙しそーな退屈さを

  よーく 知ってやすから どーぞ お気遣いなく」 

隠:『骨がおれますねー さっさと 用事を言ってくださいよ』

与:「ご隠居がそこまで言うのならば 言って聞かせるベー

  オラは 頼まれたら 嫌とは言えない 質(たち)なもんで」

隠:『はいはい 分かりました

  ちゃつちゃと 要点を かいつまんで お願いします』

与:「それでは 事が事だけに 姿勢を正して 

  言わせてもらうことにするべ」

隠:『おやおや 与太郎さんらしくもなく 今日は 神妙ですな

  いったい 何のお話でしょうか』

与:「その 何と言うか 話の中身は かなり難解なものだよ 

  軒下での立ち話と言うのも何なので・・・」

隠:『これは これは 気がききませんで 失礼致しました

  どうぞ お上がり下さい

  オバアさん 与太郎さんですよ 

  お茶とお茶うけを お願いしますよ』

与:「なんか 催促したみてーで どうも・・・」

隠:『いえいえ 毎日のことで なれてますよ

  ところで 早速ですが その難解な話とやらを 窺おうではありませんか』

与:「ヘエ それが はなはだ 突然で恐れ多いことでやすが 

  それが 《神様》のことなんで ヘエ」

隠:『これはこれは 《神様》ときましたか

  なんぞ 恐ろしい夢でも 見たのですか

  ひょとして バチのあたりそうな』

与:「いや そうではねーですだ 純粋な疑問と言うものですだ」

隠:『これはこれは 失礼致しました 

  気を悪くしないで下さいよ

  悪気があったわけでは ありませんから』

婆:〔さーさー お茶が入りましたよ お煎餅もどうぞ〕

与:「これは 何時も お世話をお掛けしますだ

  今日も 相変わらず お奇麗ですだ 奥様 

  オラは勿論 熊も八も 奥様のファンですだ

  今度 ファン クラブを作ろうか と相談してますだ」

婆:〔まー 与太郎さんたら 相変わらず お上手ばっかり〕

与:「いやいや とんでもねー 本当ですだよ」

隠:『ちょっと 与太郎さん よいしょ し過ぎですよ』

与:「とんでもねー おら 本心からそのように 思っているだよ

  ご隠居は 本当に幸せ者ですだよ」

隠:『その点については 特に 異論はありませんがね』

与:「また すんなりと 肯定しやすね ご隠居

  ここは 普通ならば 照れながら  

  いやいや そんな とかなんとか 来るものですだよ

  照れてる ご隠居を 見るのが 楽しみなのだから

  そこを なんなく 肯定されると 今日の楽しみの一つが

  無くなってしまうだよ」

隠:『それならば 仕切り直しで いやいや とやりますか』

与:「ここに及んで やってもらっても ちょっとねー

  明日は うまく 自然体でおねげーしますだ」

隠:『では 明日迄に 練習しときますから

  けっこう 骨が折れますなー』

与:「それでは お茶を頂きやすだ

  先日は 虎屋羊羹を どうも 御馳走さんでこぜーやした

  やっぱり お茶請けは 羊羹が 一番 カステラは二番

  くらべて 今日は 塩煎餅ね 

  甘いものの次は塩味も いいもんだべ いただきやすだ」

隠:『甘いものの方が よーございましたか?』

与:「いやいや 塩煎餅も 好物でやすから」

隠:『それでは 《神様》へ行きましょうか 

  どうなすったのでしょー』

与:「その 極めて 素朴な 疑問ですだ

  《神様》は 本当に いるだか ? ちゅう事ですだ」

隠:『これは ストレートに おいでなさいましたね

  与太郎さんは どのように思っているのですか ? 』 

与:「ご隠居 よく耳をかっぽじって 聞いてくだせーよ

  オラは 《神様》は 本当に いるだか ? と尋ねているだよ」

隠:『はいはい ですから 与太郎さんは どう思っているのか ?

  とお聞きした 次第ですよ』

与:「ご隠居 しっかりしてくだせーよ

  質問しているのは オラ だよ

  オラが わからねーから こうして わざわざやって来て

  お茶を 頂きながら お伺いしてるだよ

  その オラに 質問してどうするだよ」

隠:『はーはー そう言うことね これは失礼いたしました』

与:「いやいや ご隠居に謝られては 

  ボランティアのオラの立場上 ちょっと 弱るだよ

  オラは 尋ねる方

  ご隠居は 答える方

  要するに 役割分担を 明白にしておいた方が 分かり易い 

  と言うもんだべ」

隠:『これは これは 重ね重ねのご指摘 ごもっともで

  それでは そのように 進行することにしましょう』

与:「いやいや 出過ぎたことを申しやした 

  なにせ SPを冠している 建前上 ちょっとね

  ところで 《神様》は 本当にいるだか ? 」

隠:『これは 難しい 質問ですよ

  《神様》ねー 

  いるようで いないようなところがありますからねー

  いると言えば いる

  いないと言えば いない

  と言うことで どーでしょうね』

与:「ご隠居 オラに分かるように おねげーしますだ

  ぼやけてて いるのか いないのか 分からねーだよ」

隠:『さすがは SP与太郎さん 分りが早いですねー

  いるか いないか 分らないのが 《神様》ですよ きっと』

与:「ご隠居 さっぱり 分らねーだよ

  いるなら いる

  いないなら いない

  と ハッキリして下せーよ

  それにょって 100円がオラの財布から 出て行くか 居残るかの

  重大事が 絡んでいますだ」

隠:『はあー 与太郎さんの財布から100円がですか』

与:「そうですだ もし 《神様》が本当にいるとすれば

  オラの財布から 100円が出て行ってしまうだよ」

隠:『《神様》がいたら 100円が出て行くのですか』

与:「そうですだ

  オラ これから神社様へ行って お賽銭100円を奮発して

  お願いごとを してきますだ

  いなければ 神社様には 行ってもしようがない と言うもんだよ」

隠:『あー それで100円ね』

与:「ご隠居の返答次第では これがなんと 3億円になりますだ」

隠:『えー 3億円ですか ? 』

与:「この間 ジャンボ宝クジを 買っただよ

  だから 《神様》が本当にいるとすれば 当ように

  これから おねげーに 出掛けるだよ おねげー料100円」

隠:『えー 100円元手に 3億円ですか

  それは ちょっと 虫が良過ぎるのではないでしょうか』

与:「いなけりゃー 行ってもしようがないだよ

  と言う訳で 3億円は ご隠居の舌先3寸にかかっているだよ」

隠:『そんな 責任を私に持って来ても 無理ですよ

  私だって 宝クジ買ったことありますよ 

  神棚に供えて 拝みましたが

  今迄 全然当ったタメシはありませんよ』

与:「ご隠居 神棚に お賽銭上げただか」

隠:『いいえ 家の神棚ですから いちいち お賽銭は上げませんよ』

与:「ご隠居 それはだめだべ ただで 3億円は 

  《神様》だって やってらんねーだよ

  3億円当選したら 鳥居の一つも 奉納させてもらうとか なんとか

  賽銭の100円は その手付けだとか なんとか言わなくては」

隠:『与太郎さん なかなか 手慣れてますな

  今まで ご利益は ありましたか』

与:「それが 一向に ねーんですだ

  100円のお賽銭で 前の7億円は かすりもしませんでしたよ

  それで 《神様》の存在の有無に 疑問が生じただよ

  物知りのご隠居に 聞きに来たと言う次第で」

隠:『なるほど そういう いきさつですか

  そのような動機だとしますと なかなか 気がもめるでしょう

  3億円が絡みますとねー どうしたものでしょうかねー』

与:「ご隠居 頼みますよ 

  《神様》 いますかね いませんかね

  早いところ 白黒付けてもらわねーと

  他の誰かが 《神様》に3億円を おねげーされてしまうと

  ちょっと 分が悪くなるかも知れねーですだ」 

隠:『先着順 と言うわけではないでしょうが

  どのように 言いましょうかね・・・』

与:「ご隠居 とんと歯切れが悪くなってきましたよ

  何時ものように ポーンと結論をおねげーしますだ」

隠:『そう 急かされましても この手のことはねー

  与太郎さん あなた 以前にも なけ無しの100円で

  こともあろうに 7億円の宝クジが当選するように

  《神様》にお願いしたのですよねー

  当然のこととして 外れたようですが

  その時 与太郎さんは 《神様》は いると思いましたか それとも

  いない と思いましたか』

与:「だから はじめは いると思って 100円を投資したわけで

  ところが 一向に結果がでないので 

  《神様》の存在に 疑問が湧いて来たと言うわけで 

  100円まんまと してやられちゃった というわけでして」

隠:『してやられましたか それは お気の毒と言うよりありませんが

  と言うことは 

  与太郎さんは 初めは《神様》がいると信じて 

  お賽銭100円と引き換えに 7億円のお願いをしたわけですから

  その時 与太郎さんの心には 

  《神様》が存在していたと言うことでは ないでしょうか

  《神様》がいると信じたからこそ 100円ものお賽銭を上げたのですよね

  だから 《神様》はいたのですよ』

与:「と言うことは 以前はいたが 7億円が 外れたとたんに 

  いなくなった と言うことですかい」

隠:『まー 与太郎さんの場合は そのようですね』

与:「ご隠居 与太郎さんの場合は そのようだって

  それでは 人によって 

  《神様》は いたり いなくなったりするのですけー」

隠:『まー そのようなことではないのでしょうか

  要するに 信ずる心の世界の事でしょうから

  いると 信じている心には 《神様》は存在するでしょうが

  いると 信じていない心には 

  《神様》は 存在しないことになるのではないでしょうか』

与:「その 《神様》がいる いないは 

  それを 信じるか 信じないか に掛かっている と言うことですけー」

隠:『さすがは SP与太郎さん 飲み込みが早いですね』

与:「と言うことは 《神様》がいる と信じていれば

  100円投資すれば 3億円ゲット となるわけだな」

隠:『飲み込みの方は いまいちのようですね』

与:「いやいや 飲み込みは 早い方でやすだ

  ほれ 塩煎餅なんか パーリパリのカーリカリで

  お茶で ゴックン へい 一丁あがり てなもんですよ」

隠:『なるほど 見事なものですねー

  人には 一つ二つ 得意なものが あるものですなー

  いやいや 感心いたしました』

与:「なんでしたら 羊羹で やって見せても いいだよ」 

隠:『いえいえ それには及びませんよ

  まー 要するに 《神様》の存在の有無は 

  人それぞれで 信ずる世界のこと と言うことではないのでしょうか』

与:「とすると ご隠居 オラは 

  神社様へ 行った方が 良いということだべか」

隠:『ですから 信ずるのであれば 行けばよし

  信じないのならば 行っても仕方ない と言うものではないのでしょうか』

与:「では やっぱり 信じていれば 3億円ゲット と言うことだな」

隠:『いやいや それはどうか 分かりませんよ

  今ハッキリ言えることは 

  与太郎さんが 神社様に お願いに行くとすれば

  100円が 与太郎さんの財布から出て行く と言うことです

  3億円ゲットは 何の保証もございませんよ』

与:「信じて お願いしても また してやられる と言うことだか

  いまいち すっきりしねーな」

隠:『まあ 100円で 3億円ゲット と言う魂胆が そもそもね

  あまり 欲を画かない方が 無難ではないですか

  とにかく ジャンボ宝クジを買ったんでしょ

  それならば 《神様》にお願いしなくても 

  当たるチャンスがあるではないですか』

与:「いやいや ご隠居 宝籤道は そんな甘いもんや おまへんで

  当選の確率といったら もう殆ど0に近いものですだ

  そこで 少しでも確率を高める為に 《神様》にね

  ちょっと ご協力を と思いやしてね

  ところで ご隠居も お宅の神棚に向かって

  パチ パチ と手を叩いているだよな

  あれも やっぱり その 確率を高めようとの魂胆ですかい」

隠:『与太郎さんには かないませんな 

  白状しますと 実は それも無いではないですよ

  しかし まー 正直にいいますと 

  これまでの習慣と言うものですかね』

与:「と言いますと やっぱり かなりの期待を込めて

  いろいろと お願い事を と言う訳でやすかい」

隠:『いえいえ そんなに強い期待をしているわけでは ありませんよ』

与:「と言うと 単なる 気休めですかい」

隠:『そこまで 言ってしまうと 身も盖もありませんが

  まー 《神様》宜しくお願いしますね

  と言った 気軽なものですね』

与:「と言うと ご隠居は 《神様》がいるか いないか

  と言うことになると 幾分は いる と言う立場ですかい」

隠:『幾分 と言われますとね 答に困るところもありますが

  《神様》なんているものか と思うよりは

  《神様》はいる と信じていた方が 

  日々の生活に ささやかな潤いがあるように思うのですよ

  しかし 普段の日常生活の中では

  あまり 《神様》の存在を強く意識しては いませんね

  人間 なんのかのと言っても 

  自分本位のご都合主義のところがありますから

  その ご都合次第で 時に 《神様》の存在を強く信じたくなる 

  と言うことですよ きっと

  与太郎さんが ジャンボ宝クジで 一発を期待する時

  突然 《神様》に期待するのと 同じですよ』

与:「と言うことは 常日頃から 

  そのー《神様》と御親交を深めておかないと 

  いざ ここ一番と言う時

  御利益が無い と言うことですかね」

隠:『与太郎さんが そのように信ずるなら 

  そのような事ではないのでしようか 

  しかし 結果が どう出るかはね 保証は無いように思いますが』

与:「と言うことは 抽選日まで 《神様》におねげーしたので

  今度は きっと3億円と うきうきして 心待ちに過ごせる

  と言うことが ご隠居のおっしゃる ささやかな潤いというやつですかい」

隠:『まあ そう言うことでは ありませんかね』 

与:「ところで ご隠居 《神様》って 何時から いたのですかい」

隠:『これは またまた 難題ですねー

  私も 教えてもらいたいものですよ 

  誰か 知りませんかねー』

与:「ご隠居 《神様》と人間 どちらが先に 地球上に現れたんかね」

隠:『私も あまりよくは知りはしませんが 

  深く考えたことはありませんので 明確には言えませんが

  人間が 先のように思われますね

  日本の昔々の話には 《神様》が先で 《神様》が日本の国土を創り 

  そこに天孫を送り込んだ と言う話がありますが

  このような話自体 人間が創ったものでしようから

  やっぱり 人間が先のように思いますが

  《神様》は 何かをキッカケにして

  人間が 創造したもののように 思いますが

  どうでしょうね』

与:「キッカケと言うと どんなことだべ」

隠:『そのー 《神様》にも 色々な性格の《神様》が ありましてね

  その創造のキッカケも それぞれ異なるのでは ないのでしょうか』

与:「そんじゃー 性格から教えてもらうべ

  《神様》にも 性格の良いのと 悪いのがいるのけ」

隠:『そっちの性格からきましたか 

  それでは どのようなのが良くて どのようなのが悪いのか

  その基準を はっきりさせておかなくては なりませんな』

与:「それは 決まっているだよ

  3億円当ててくれるのが 良い《神様》

  100円取っておきながら 当ててくれねーのが 悪い《神様》だべ」

隠:『その基準ですか

  それだと 殆どの《神様》は 悪い《神様》に近いのではないでしょうか

  いくら 《神様》でも 3億円当てるのは 難儀なことだと思われますよ

  まれに まぐれ当りは あるかも知れませんが・・・』

与:「なんだかだ言っても 《神様》は 頼りねーな」

  『与太郎さんの基準ですと なかなか《神様》も大変だと思いますよ

   与太郎さんのような方が たまたま 同じ神社にお参りして 

   続けて宝クジに 当りでもした場合は もう 大変でしょうね 

   あの神社様は 宝クジに御利益がある 

   と言うことで話題になるでしょうね きっと

   しかし その当る確率は 殆ど 宝クジに当る確率と

   同じぐらいでは ないのでしょうかね

   《神様》にお願いしなくても 当る人は当りますからねー

   お願いされたからと言って 

   《神様》は なにするわけでもないでしょうから』

与:「《神様》は なんにも しねーだか

   よほど性格がワルだなー」

隠:『あのねー 与太郎さんね 

  《神様》にも 色々な性格の《神様》がある と言ったのは

   そのー 性格が良いとか 悪いとか と言うのではなくて

  《神様》が創造された キッカケによって 

  《神様》の存在に違いがあるのではないのか と言うことですよ』

与:「ご隠居 もう少し オラにも 分るように 言って下せーよ」

隠:『あのね うんと分り易く言えばね

  なにかを キッカケとして 

  そのキッカケと関係する《神様》が創造されるのではないのか

  と言う事ですよ

  たとえば まったくの まったくの たとえば ですよ

  与太郎さんが 私の家の庭ある 石に 

  宝クジが当りますようにと お願いして

  それから 宝クジを買ったところが 

  みごとに 3万円が当った

  として ごらんなさい』

与:「あの ご隠居 それはどの石だべ」

隠:『たとえば と言ったでしょ

  そこの庭石に頼んで 宝クジがあたれば 

  私は 今頃 大金持ちですよ』

与:「はー たとえばねー

  ご隠居 たとえばにしては 3万円は ちょっと けちってねーだか

  3億円だとしても ご隠居が損するわけでは ねーだよな

  それが たったの3万円ですけー」

隠:『いえいえ 3万円が セーイッパイの限度額です

  3億円にでもしたものなら 与太郎さん 

  あなに そこの石に抱きついたり

  持ちかえって 床の間に飾ったりで 

  大騒ぎするに決まってますよ 3万円が適正額です』

与:「さすがは ご隠居 オラの性格を良く知ってるだなー」

隠:『毎日の御付合いですらねー 自然と分りますよ』

与:「それで 当たりの3万円は 何時もらえるだ」

隠:『もらえません たとえばの話ですから

  たとえば 3万円当ったのは 石にお願いしたからだと

  与太郎さんが思って また 石にお願いして 宝クジを買ったところ 

  またまた 2万円が当った としますね

  そうしたら 与太郎さんは もう 石に頼めば

  宝クジは 当るものと 信じてしまうわけですよ

  すなわち その石に宝籤を当てる 《神様》が

  宿っている と思い込むのですよ』

与:「ご隠居 2万円では ちょっと 淋しいだよ」

隠:『では 2万5千にしましょうか』

与:「ご隠居も 見かけによらず ケチだね」

隠:『そういう 話では ないでしょ

  2回も 続けて当れば

  勘違いし易いタイプの与太郎さんのことだから

  もう 石にお願いすれば 宝クジは 当るものと 信じてしまうでしょ

  と言う話ですよ

  その石に 《神様》が宿っているなどと信じ込み

  《神様》を創造することになると言うことですよ』

与:「ご隠居だって 仮にだよ

  5千万円が 連続で当ったとしたら どうですだ

  もう お石様 扱いで 床の間に ピカピカに磨いて

  座布団まで敷いて オラに見せないように 

  コッソリ 1人じめにするのではねーだか」

隠:『えー 5千万円が 連続でですか 1億円ですよ

  これは ちょっと 事件ですよ 与太郎さんでなくても 

  穏やかで なくなるでしょーね』

与:「もー まったく ご隠居はずるいんだから

  オラは 3万円 と 2万5千円で

  自分は 1億円だなんて 差の付け過ぎですだよ

  この間は 今の社会は貧富の格差が大き過ぎる とか 何とか

  偉そうなこと 言っていたくせに 

  この格差は いってー どこからくるのだべ」

隠:『これは これは 悪うございました

  たとえばの話ですから 気を悪くなさらないで下さいよ

  あーそーですね

  オバアさん 与太郎さんに コーヒー お出しして

  ケーキも添えて』

与:「まったく ご隠居も 結構 分り良いのだから

  おバーさん 気を使わねーでくだせー ケーキなんて

  オラ どっちかと言うと みたらし団子派 ですから」

隠:『与太郎さんだって しっかりしているではないですか

  ご自分の好きなものを ちゃっかりと

  しかし コーヒーに みたらし団子の組合せは

  与太郎さん らしくて良いですね

  これが 通というものですか』

与:「そー 言わなくとも ご隠居にも 分けて上げますだよ」

隠:『そー言う 問題ではなくて

  なにかを キッカケとして ある事を信じたくなる心が 

  人間には あるでしょ と言う 話ですよ

  それが 《神様》創造となる場合があるのではないのか

  と言うことですよ

  そのキッカケの違いで 色々な《神様》が創造されることになる

  と言うことを 言いたかったのですが

  与太郎さんが 金額にこだわるものだから 話がそれちゃうのですよ』

与:「へーへー 分ってますだよ 

  話をこのように もっていけば

  シブ茶と塩煎餅が 

  コーヒーと みたらし団子に変身することも 想定済みだよ

  ご隠居とのつき合いは 何と言っても なげーことだから」

隠:『与太郎さんには まったく かないませんよ』

与:「ところで ご隠居 その キッカケ と言うものだが

  どんなのが あるのだべ」

隠:『やれやれ 難儀ですなー 漸く 本題に戻って来たようで

  キッカケ は 色々でしょうね 

  最も 原初的なものとしては 

  やっばり 自然の脅威だったのではないでしょうか

  雷 大風 大雨 地震などなど 

  人間の生活に強い関わりのある自然現象に見られる恐ろしさでは 

  ないでしょうか』

与:「たとえば カミナリ様がですけー ご隠居

隠:『そうですよ いま 与太郎さんは 

  カミナリに 様 を付けて 言いましたよね

  それは きっと カミナリに敬意をはらったことになるのですよ

  カミナリが機嫌を損ねると ピカピカ ゴロゴロ ドーン なんて 

  大暴れされると恐いですからね

  だから カミナリ なんて呼び捨てにしないで

  様 づけで 言ったりすることになる のではないでしょうか』

与:「それで カミナリが 《神様》にどうして なるんだべ」 

隠:『それはですね ずーっと昔 ハジメ人間が現れたころ 

  きっと カミナリが すごく暴れていたことがあったのですよ』 

与:「オラ 去年8月23日に 札幌駅JRタワーさのぼっただよ

  はじめは見晴らしが良かったけんど 俄に悪天候になったかと思うと

  展望窓の外に 白いものがチラホラしてるだよ

  一緒にのぼった 日本一暑い所と名乗っている熊谷から来ていた人が

  〈あれは何です〉 と言うだよ

  何です と言われたって あれは雪に決まっとるだよ

  低気圧が 通過しただよ

  展望室は 地上160メートルだそうだから 下は雨でも

  これくれーの高さで 雪になることがあるのだと ビックリしただよ

  いくら北海道とは言え 真夏にだよ」

隠:「与太郎さん それは珍しい経験をしましたね」

与:「そしたら 今度は カミナリのオンパレードと来たもんだ

  ピカピカ ゴロゴロ ドーンドーン と そりゃー 見事なもんだったよ

  あちこちに 落っこちるは 落っこちるは

  それが 眼下に見えるものだから けっこう すごい光景だっただよ

  もー カミナリが大暴れ

  地表近くで 光ったのが 落ちた所だべな」

隠:『近くでの カミナリは 稲妻とほぼ同時に ドーンと来ますからね

  恐ろしいですよね』 

与:「以前に 積乱雲の黒っぽいの出ていて その中が かなり暗くなっていて 

  その中がポーット赤味が差していただよ 

  そしたらその赤味の中が 

  たくさんの大型線香花火のように パチパチと 

  まさに閃光のジャブを打ち合っているかのような 

  カミナリを見たことがあるだよ 不気味なものだっただよ」    

隠:『そうでしょう それで ハジメ人間は 

  ものすごく カミナリを恐怖に感じたのですよ』

与:「ビカビカ ゴロゴロ ドーン ときやしたら

  そりゃー もう キモ潰しますだよ 

  クワバラ クワバラ なんて言ったって どうにも ならないだよ」

隠:『ハジメ人間は カミナリを ピカピカ ゴロゴロ ドーン

  と言う現象で 認識したのでしょうね きっと

  初めは カミナリなんて言う 呼名も無かったろうし

  とにかく ピカピカ ゴロゴロ ドーンを 恐れたでしょうね

  今は カミナリがどうして発生するのか 大体のことは 

  知っている人が多いと思いますが

  ハジメ人間は ピカピカ ゴロゴロ ドーンは

  タダタダ 得体の知れない 恐いものだったのでしょうね』

与:「犬だって ビビリますからね カミナリ様に

  ビックリして 足が痙攣したようで ケンケンしてただよ」

隠:『犬が ケンケン どのような格好ですか それは

  与太郎さん やってみて下さいよ』

与:「手が前足だとしますでしょ 足が後足でね

  前右足と後左足が 痙攣したとするだ そうしたら

  左前足と後右足で こう ケンケン 

  ご隠居 なにやらせるだよ」

隠:『与太郎さんが つまらない駄洒落を言うからですよ』 

  それでですね ハジメ人間は

  この ピカピカ ゴロゴロ ドーンを引き起こす

  得体の知れない 何かの存在を感じたのではないのでしょうか』

与:「ピカピカ ゴロゴロ ドーンの支配者だな」

隠:『そうです そうです ピカピカ ゴロゴロ ドーンを

  引き起こす 得体の知れない 強力なものが存在すると 思ったのですよ

  そして それを 恐れたのですよ きっと

  そこで この得体の知れない無いものに 

  どーか ピカピカ ゴロゴロ ドーンを発生させないで下さい

  とお願いすることに なったのではないか と思うのですよ』

与:「なるほど 目には見えない すごい威力を持つ 

  オッカネー ものにだな」

隠:『そうです そうです それで このピカピカ ゴロゴロ ドーンを

  支配する 強力なものの存在を信ずるようになり

  どうぞ 怒らないで 静かにしていて下さい 

  と機嫌をとるようになったものと思われます 

  この ピカピカ ゴロゴロ ドーンの支配者を 

  後でカミナリを引き起こす《神様》

  と言うことになったものと 思われるのですが 

  どうでしょうね 与太郎さん』

与:「どうでしょう と言われたって オラ ハジメ人間では ねーだから 

  なんとも言えねーが

  ご隠居が そのように言うのであれば オラ ご隠居を信用するだよ

  オラ ご隠居の1番弟子だから 

  熊は2番弟子 八は8番ではなく3番弟子ですだ」

隠:『はー そういうことになっているのですか

  何だか スカのような 頼りの無い 集団ですなー

  それはともかく ピカピカ ゴロゴロ ドーンをキッカケとして

  カミナリに関する《神様》が 創られたもののように 思われますね』

与:「と言うことは ピカピカ ゴロゴロ ドーンを

  キッカケとして 創られたのが カミナリを引き起こす《神様》だとすると

  ツルン スッテン ボキッをキッカケに創られる《神様》は なんだべ」

隠:『ツルン スッテン ボキッですか

  滑って 転んで 骨折した状況のようですが

  これを キッカケとして 創られる《神様》ねー

  さしずめ 氷の《神様》と言うところでしょうか

  でも あんまりピンと来ませんね』

与:「ご隠居 それでは ドボーン ブクブク クサー を

  きっかけとして出来た《神様》は なんだべ」

隠:『与太郎さん クイズやってるわけではありませんよ

  いったい 何の《神様》なのですか』

与:「ご隠居 聞いて驚かねーで下せーよ

  ドボーンは 落っこちた時の音

  ブクブクは 沈んだ時の音

  クサーは 浮き上がって後の感激の声ですだー 

  総合すると 肥だめに落っこちたことをキッカケとして 

  創られた 肥だめの《神様》ですだー」

隠:『与太郎さん 貴方ね 今時 肥だめは無いでしょー』

与:「いやいや この間 熊と一緒に 八の田舎へ行っただよ

  そしたら 現役では無かっただけんど

  以前に 使われていた古い肥だめが残っていただよ

  そこに 雨水がたまっていただが

  熊の野郎が はまりやがって くせーのなんのって

  肥だめの《神様》に 足引っ張られただよ」

隠:『与太郎さん またいい加減なバカ話を ほどほどにして下さいよ

  あのね ピカピカ ゴロゴロ ドーンは 

  たまたま カミナリを例にしただけであって

  語呂合わせが 《神様》の創造と関係すると言うことではありませんよ

  だから 

  ツルン スッテン ボキッ や 

  ドボーン ブクブク クサー のような ゴロ遊びは不要ですよ

  人間にとって 肥溜めの神は あまり必要とはしていないのではないですか

  与太郎さん以外には

  要するに 自然の驚異を見たハジメ人間が そこに底知れぬ不気味さを感じ

  恐れおののいて どうか 暴れないで下さい 

  と祈る存在のものを創り上げた

  それが 後に言う《神様》と 言われる存在になって行ったのではないのか

  と言うことですよ

  だから 原初的な《神様》は

  雷 大雨 大風 地震 地崩れ 津波など

  ハジメ人間に 直接脅威を与えるような性格のものが

  多かったのではないのでしょうか

  そして ハジメ人間の生活に 

  最大の影響力を持つ存在として

  太陽神を創り出したもののように 思われますね

  特に 太陽の場合は 昼と夜の交替に関係するので

  太陽が出ている日中は 人間は 周辺がよく見えるわけですが

  太陽が沈んで暗くなると 周辺がよく見えなくなるわけで

  そうすると暗闇の中で 何がおこっているのか 

  人間の心の中に暗闇によって生ずる不安が発生するわけで

  その不安が 恐さに感ずる場合が多いので 

  この昼夜の交替を支配する太陽が

  すごい力を持つ存在となったものと思われるのです

  そして 人間社会にとって 極めて重要な意味を持っている

  農作物の出来不出来が日照の具合によって 

  左右されることが 経験的に分ると

  一層 人間社会が太陽の力に負うとこが 大きいと気がつき

  太陽信仰が発生する側面をも持っているのであろうと思われるのです

  そして  

  その《神様》を信ずる人々が多数になると

  その《神様》の威力が より大きくなり 

  いつしか 強力な《神様》が存在することになって

  その象徴として なにか目に見える物質的なものを祀るようになったり

  またそれを社(やしろ) 

  すなわち 神社に祀るようになったものと思われるのですが』

与:「ご隠居 と言うと 肥溜めの《神様》をお祀りする場合

  〈肥溜め神社〉を 造ることになるだか」

隠:『信者さんが 多くなれば そうなるかも知れませんね』

与:「と言うことは 目に見える信仰の対象は 担桶(たごおけ)かね」

隠:『まあー そのあたりですかね』

与:「それでは ご隠居の庭に 造ることにすべー」

隠:『ちょっと 与太郎さん 何を考えているのです

  冗談では ありませんよ』

与:「そう言わず ご隠居に 神主さんになってもらうべ

  担桶(たごおけ)の中身は 毎日 オラの新鮮なものと取り替えるだから」

隠:『毎日 その新鮮なものを 私に拝ませるつもりですか』

与:「熊と八のも お供えさせることにするべ」

隠:『バカも いい加減にして下さいよ

  そんなに〈肥溜め神〉が必要なら 

  与太郎さんの家に造ればいいではありませんか

  私は そんな《神様》信じませんからね

  だいたい 何のための《神様》か はっきりしないではないですか』

与:「ボランティアとして ご隠居を退屈させてはなんねー と思ってさ」

隠:『それはどうも恐れ入ります

  しかし 〈肥溜め神社〉の神主さんは 謹んでお断り申し上げます』

与:「そうですかい 久々のヒットかと思いやしたが

  残念なことですだ  

  では そのうちに なんぞ面白そうなのを見繕っておきますだよ」

隠:『いえいえ そのようなご心配は ご無用ですよ』

与:「初めは 自然の驚異を恐れて いわば自然神が 色々と

  創られただな そして 自然の災いが起きないように

  その神々におねげーし お祀りするようになっただな」

隠:『与太郎さん 飲み込みが良いですね』

与:「飲み込みは 良い方だとさっきも言っただべ

  また 塩煎餅でやってみせるだか」

隠:『一度で結構ですよ

  自然に関わる万物には みな神が宿るとするような 

  実に 多種多様な《神様》が 創造されたのですよね

  天の神 地の神 海の神 山の神 火の神 水の神などの系統の

  神々は 実に 沢山 創造されたものと思われますね』

与:「大体 分っただよ

  ところで オラとこの カミさんは なに系統だべな」

隠:『決まっているでしょう 山の神ですよ』

 

 

お疲れ様で御座いました。

お後が宜しいようで