《停念堂閑記》48

「停念堂寄席」39

 

《SP与太郎クンとご隠居さん》3

 

与太郎クンの神様  〕2

 

 〈 神様創造 〉2

 

 与太郎さんの頭にくっついているSPは、スーパーの略です。

すなわち “スーパー与太郎さん” と言うことで 期待を込めたSPです。

マーケットの名前ではございません。蛇足ながら。

 たわいもない話で、恐縮でございますが、笑い話と申しますか、バカ話と申しますか、閑にまかせての下らない話です。要は、定年後の暇つぶしです。

 余程閑を持て余しておられるお方、酔狂なお方は、御付合い下さいませ。 初めに、お断りしておきますが、本当に馬鹿馬鹿しい 話ですよ。それを、御承知の上で御付合い下されば、幸甚でございます。何卒、御寛容の御心でお願い申し上げます。

 

与:「ご隠居 留守かい 

隠居専属ボランティア与太郎さんですよー」

隠:『はいはい 与太郎さんかい おあいにく様 在宅ですよ 

与太郎さんが お留守番の達人なら

私は 在宅の達人になろうと 目下努力中ですよ』

与:「ご隠居 お留守番の達人と言うのはあるだが

在宅の達人と言うのは 聞いたことがないだよ

在宅の達人とは どんなんだべ

引き蘢りにしては オラが声かけたら 直ぐに飛び出して来るだから

引き蘢りの達人には ほど遠いし どのへんが達人なんだべ」

隠:『与太郎さん ご近所に こんなバカな会話を聞かれると 

恥ずかしいので はやいところ お上がんなさいよ』

与:「ご隠居も けっこうカッコツケ屋さんだな

大阪では エエカッコシー と言うだよ

そこへ行くと オラはハラくくってるだから 何てこたーねーだよ

そこが 凡人と 達人の違いと言うもんだべ」

隠:『そんなこと 大声で話さないで 早くお入りなさいよ

お巡りさんが来たら怪しまれますよ』

与:「それは大丈夫だよ すでに手は打ってあるだから

お巡りさんとは この間 とことん 納得の行く迄 話し合って 

オラのこと良く理解させてあるだよ 何のしんぺーもねーだよ

巡回中の交番のお留守番をしてやる と言ったら えらい慌ててただよ

お巡りさん このごろは オラを見かけたら

大急ぎで交番へ引き返してしまうだよ」

隠:『それはそれは たいしたものですねー

とにかく さっさと 上がって下さいよ』

与:「ご隠居が そこまで言うのなら オラ」

隠:『嫌とは言えない質(たち)なのでしょう どーぞ どーぞ』

与:「ご隠居 おらの決めゼリフを とっちゃー ずるいだよ」

隠:『さーさー どーぞ 

おバアさん 与太郎さんですよ

催促されないうちに お茶をお願いしますよー』

与:「それでは ちょっくら 失礼しますだ

隠居も どーぞ くつろいでくだせー いま お茶が来るだから」

隠:『これは どーもご丁寧に 恐れ入ります

ところで 今日は どんな御用でしょうか』

与:「まあ ご隠居 そう慌てずに 

まずは 時候の挨拶からいくとするべ」

隠:『時候の挨拶からですか 

何だか 久しぶりに お逢いした時のようですね

毎日のように 逢っているのに」

与:「親しき仲にも 礼儀ありと言うでねーですか

隠居に 教わったことですだよ

では めーりますだ

隠居 心の準備はいいだか ? 」

隠:『はいはい できてますよ』

与:「はい は一回でいいだべ」

隠:『これはどうも 失礼いたしました』

与:「このところ 寒い日が続いておりますだ」

隠:『そうですね 真冬日が続いてますね』

与:「2回続けて 週末に大雪が降っただ

隠居は 御無事でごぜーやしたか ? 」

隠:『驚きましたね 大変な大雪でした 

うちの庭で 60センチ以上積もりましたよ』

与:「ご隠居の庭に 60センチ以上も積もっただか

オラとこでは 全然積もらなかっただよ」

隠:『エー そのようなことはないでしょ

与太郎さんのところとは 斜向いなのですから』

与:「オラとこには 庭がねーだよ

だから 庭には一切積もらなかっただよ」

隠:『まあ そう言われれば そうですが』

与:「ところで ご隠居 雪の下敷きには なりませんでしたかい」

隠:『御蔭さまで 大丈夫でしたよ』

与:「オラ ご隠居が雪の下敷きになって

冷凍物になっちまったのではねーか と心配しただよ」

隠:『冷凍物にですか

と言うことは 今の私は 解凍後と言うわけで

 

ちょっと 与太郎さん バカバカしいのでよしましょうよ

あなた 雪の朝には いち早くとんで来て

お決まりの “ご隠居 留守かい” も言わずに 

家の前の除雪をしてくれたではないですか

大変助かりましたよ 有り難うございました』

与:「いーや ボランティアとして 当然のことですだ

ここが オラの腕のみせどころちゅーもんですだ」

婆:〔与太郎さん いらっしゃいませ

今日も ご苦労様です 雪の時には 本当に助かりましたよ

ありがとう ございました

お茶は 与太郎さん御注文の紅茶にしましたよ

シナモン バーをお付けしました どうぞ〕

与:「これはこれは どうも」

隠:『これは は一回でいいのでは 与太郎さん』

与:「ご隠居 ちゃちゃ入れないでくださいよ」 

隠:『茶は いま入れたばかりですよ』

与:「ご隠居 ここで駄洒落ですかい 

この紅茶は シナモン(品物)が良いなんて 言うつもりではないだべな」

隠:『これは 見事に切り返されましたなー』

与:「それにしても きょうもお奇麗ですだー 奥様」

婆:〔与太郎さん 相変わらず お上手を どうぞ ごゆっくり〕

与:「お手数をおかけしますだ

隠居は 本当に幸せ者だな あんな良い奥様で」

隠:『いやいや そんな 照れてしまうではないですか

 

与太郎さん こんなもので どうでしょう』

与:「まーまー と言うとこだべ」

隠:『まーまー ですか あれから練習したのですよ

これが 簡単なようで なかなか 難しいのですよ』

与:「まーまー と言っているのだから 良しとするべー

難を言えば まだ ちょっと 堅いだよ

こう なめらかーに 淡いテレと言うものがね

そこはかとなく滲み出るように ならなくては 達人にはなれねーだよ」

隠:『達人ですかあ こんなのに達人なんてあるのですかー』

与:「あるだよ 全国大会があって 優勝すると 達人を名乗っていいだよ」

隠:『本当ですか そのようなこと 聞いたことありませんよ」

与:「ご隠居 あまりムキにならねーで下せーよ

冗談に 決まってるだよ 真面目に 練習までして 

熊と八にも教えてやるべー」 

隠:『与太郎さん 熊さんや 八っぁんまで 巻き込まないで下さいよ

与太郎さんだけで 目一杯なのですから』

与:「冗談 冗談ですだよ ご隠居 本当に 真面目なんだから

ちょっとは オラを 見習って下せーよ」

隠:『与太郎さんをですか 

75年かけて培って来た私のイメージが

ガラガラと音を立てて 瓦解してしまいますよ』

与:「ご隠居 また 大袈裟な」

隠:『冗談ですよ 与太郎さんをちょっと見習っただけですよ』

与:「オラの場合は 基本が冗談で出来ているだから問題ないだか 

隠居の場合は 本気と冗談が 時々 チグハグになるだよ

オラのように 一本筋をツーッと通しておかなくては なんねーだよ」

隠:『これは これは どうも お見それ致しました』

与:「これは は一回でいいだべ」

隠:『どうも 口癖でして 以後 気をつけますよ』

与:「ご隠居 紅茶 ナマラうめーな」

隠:『与太郎さん ナマラときましたか 知ってますよ 

北海道弁ですね 大阪弁の メッチャ ゴッツー に似てますよね 

大阪弁で メッチャ旨い ゴッツー旨い というのと似てますよ』

与:「シナモンの香が なんとも言えねーだよ

これは かなりの高級品だな 

隠居 なんぞ コメントはねーだか」

隠:『またまた 与太郎さん 何を企んでるのですか

よもや このシナモンは 良い しなもん だなんて 

言わせようとしているのではないでしょうね』

与:「ご隠居 それではダメだよ

このニッキは 上等なシナモンだと ひと捻り入れねーと

シナモン と しなもん ではマンマではねーだか

歌丸師匠だったら 座布団取とってしまうだよ」

隠:『これは 迂闊でした 以後 精進致します』

与:「ところで ご隠居 先日は 《神様》の創造について

教えていただき どうも有り難うごぜーやした

先日は いわゆる自然神についてでやしたが

今日は 自然神以外のを教えてもらうべと思って やって来ただよ」

隠:『このところ 与太郎さん すっかり神がかっていますね

さては まだ ? 億円を企んでいるのではないのですか』

与:「ご隠居のお察しどおりですだ

オラ いま 《神様》を研究してるだよ

最も 御利益のあるのを突き止めようと思っているだよ

なんたって 5億円のジャンボ宝籤がかっているだよ」

隠:『それは それは 気合いが入るでしょうね』

与:「そんなわけで ご隠居 今度は 自然神以外のをおねげーしやすだ」

隠:『先日は 自然神の創造について 想像してみましたね』

与:「ご隠居 さらっと来ましたが 駄洒落ですかい」

隠:『いやいや 与太郎さん あまり気を回さないで下さいよ 偶然です 

神格化される対象は 色々あるようでして 先日話した自然神の場合には

自然現象と自然物があるようですよ』

与:「自然現象の方は 雨 霰 雪 風 雷 地震 津波などだな」

隠:『そうですね 他に 日食 月食 朝 昼 夜とかもそうですね』

与:「朝 昼 夜とかもですけー」

隠:『たとえば 1日が朝 昼 夜と毎日繰り返すでしょー 

これがどうしてか と言うことに疑問を持ったハジメ人間がいて

これが《神》の仕業ではないのか と思っても不思議ではありませんよね

ここに《神》が創造されるわけですね

また 夜になると陽が落ちて 暗くなるでしょう

与太郎さん 真夜中の真っ暗闇は 怖く無いですか』

与:「ご隠居 どうして そんなこと 知ってるだよ

オラ 真っ暗闇には 何か不気味なヤツが潜んでいるのではねーかと 

おっかねーだよ

実を言うと 夜中にトイレに行くのが ちょと おっかねー気がするだよ

気をつけねーと ちびっちゃうだよ」

隠:『そうなんですよ かく言う私も』

与:「ご隠居も ちびっちゃうだか」

隠:『違いますよ いまだに 真っ暗闇には 

何か不気味なものを感ずることがある と言おうとしたのですよ』

与:「ご隠居 その時 やっぱりちびるだか」

隠:『与太郎さん ちびるのからは ひとまず 離れませんか』

与:「ちびるのは たまーにだからな

オラ真っ暗闇は でーきれーだよ

あそこには ぜってー おっかねーのが潜んでいるだよ」

隠:『人間は 誰でも 暗闇に対して  

不気味さや恐怖を感じたりする場合があるようですよ

そこで 怖い暗黒の《神》を創造したり

逆に 暗黒の《神》から救ってくれる《神》が創造される場合が

あるのではないでしょうか』

与:「ご隠居 どっちに転んでも 《神》の創造はできるだなー」

隠:『こう言っては 何ですが 

《神》の創造は 人間の都合によるのでしょうからね

何等かのキッカケがあれば 《神》は創造されることがあるのでしょうね』

与:「自然物の方はどうだべ」

隠:『主に 木 岩 石 などですね 

物の概念をもっと広げると 山 森 林 川 沼 湖 海 

そして さらには 太陽 月 星 なども対象となるでしょうね』

与:「自然に存在する物であれば 何でも良いだか」

隠:『その物と 何かのキッカケがあれば 大体何にでも 

理屈をつけて《神》を創造できそうですよ 

但し 多くの人々が それに納得するがどうかは分りませんけどね』

与:「木や岩や石に 《神》が宿るだか ご隠居

隠:『人間の心には 今で言う 神秘的なものを感ずる何かがあるようで

その神秘的なものを感じ易いと言う人がいて 

その人の心に響く 特定の木や岩や石などがあるようですよ

それに接した時に 《神》を感ずることになるらしいでいよ』

与:「どこにでも あるような 木や岩や石ではダメと言うわけだか」

隠:『何か特徴があった方が 良いみたいですね

神秘的な感じが より強いようなのが 良いようですよ

しかし 感ずる人の感覚や都合によるでしょうから

特に 変わったものでなくても 

神格化される場合もあるのではないでしょうか』

与:「結局は 人間の都合で なんでも良いと言う訳だか」

隠:『何かを企んで ある種の《神》を創造してやろうと計画した時には  

それに相応しい理屈を付けることができれば 

あまり特徴のあるものでなくとも良いようですよ』

与:「ご隠居 庭の一番右端の あの置石 

なかなか神秘性を漂わせているでねーか

何か 特別の臭いが漂ってますぜ」

隠:『あれにですか 与太郎さんは あれに神秘性を感ずるのですか

別のものが漂っているような気がしますが』

与:「ご隠居 別のものって何ですだ」

隠:『この間 何処かの猫が あの横でウの字をしていったのですよ』

与:「なに ウの字をしていっただか どこの猫だべ」

隠:『何だか 与太郎さんの家の猫に似てましたよ』

与:「うちの マタがかー 帰ってどやしつけてやらねば」

隠:『与太郎さんのうちの猫ちゃんは マタと言う名前なのですか』

与:「タマではねーだよ ひっくりげーして マタと言うだよ

続けて呼ぶと タマとまちげーるだよ」

隠:『では ワンちゃんの名は チポと言うのですか』

与:「ご隠居はさっしが 良いだなー

ポチではねーだよ チポと言うだよ 続けて呼ぶと ポチと間違えるだよ」

隠:『与太郎さんは ひっくりがえすのが好きですねー』

与:「今朝も 味噌汁 ひっくりげーして カミさんに どやされただよ

ひっくりかえすのは 犬と猫だけにしろって」

隠:『それでは 奥様のお名前は ミカさんとおっしゃるのですか』

与:「ご隠居 よく知ってるだなー」

隠:『だって 与太郎さん うちのカミさんと言ったではないですか

これで ピーンときましたよ』

与:「ご隠居 オラのカミさんのことは こっちに置くとして」

隠:『そっちに置いちゃうのですか とても良い奥様で

与太郎さんは 本当に幸せ者ですよ』

与:「その点については 特に 否定はしねーだよ」

隠:『おや あっさりと 肯定ですか

こう言う時には 一応 いや そんな・・・

とか ちょっと 照れるのではなかったのですか』

与:「いーや オラのカミさんは 良いカミさんだよ

特に 照れることはねーだよ」

隠:「与太郎さん それはずるいですよ 

こう言う時には 私には ちょっとテレルものだと

練習まで させておいて』

与:「そうでしたっけ オラには ちょっと 記憶にねーだよ」

隠:『また 政治家みたいに 与太郎さんには まいってしまいますね』

与:「そんな事より 《神様》の方ですだよ ご隠居

隠:『そうでした 与太郎さんは すぐ話そらすんだから

自然の脅威を《神様》のせいと見ることが 

原初には行われたものと見られますが

ハジメ人間も 時間の経過に伴い 段々賢くなるようですよ』

与:「ご隠居 時間が経過すると 人間は 段々 賢くなるだか」

隠:『なるようですよ 経験を積み重ねることで 

色々と知識が増えるでしょうし

また 思考して 色々なことを 考え出すようになるようですよ』

与:「オラも 時間が経つと 賢くなるだか」

隠:『それはもー すごい勢いで 進化してますよ

先ほども ニッキ シナモンで1本獲られましたからね

だてに SPを冠するようになったようではないですよ』

与:「よし シナモンをネタに 

隠居から1本とったと 今日の日記につけておくべ」

隠:『与太郎さん 中々やるではないですか

私も シナモンをネタに 与太郎さんに一本とられたと

今日の日記に書くことにします』

与:「ご隠居 二番煎じは 頂けネーだよ 

オラは 二番煎じは シナいモン」

隠:『ちょっと苦しいところですが そんなモンでしょうね』

与:「ご隠居 モンだけですけー」

隠:『それはそうと 

ハジメ人間は いわゆる自然神を恐れ 

自然災害を被らないようにと

その《神様》をお祀りして 

《神様》の怒りを鎮めようとしたものと思われますが

そのうちに 自分の都合に良いように 

自分に味方してくれる《神様》の存在を 考え出すようになるようですよ』

与:「自分に都合のいい《神様》を存在させるだか」

隠:『人間社会で 特に 権力を志向する人は

自分の力だけではなく 《神様》を利用して

自己権力の強化を 図るようになるようですよ』

与:「《神様》をバックにつけるだか」

隠:『まー そういうことでしょうね』

与:「どんなふうだったんだべ」 

隠:『見ていたわけではありませんから よくはわかりません

あくまでも 想像ですが

多分 初めは 既に創造されていた自然神

利用したのではないのでしょうか』

与:「雨とか 風とか 雷とかだべか」

隠:『たとえばですよ

日照り続きで 飲み水が不足したり

また 作物が枯れてしまいそうになった時には

雨の《神様》が 機嫌を悪くして 雨を降らせないのでは

と考えるのですよ

そして  

雨の《神様》に どうか機嫌を直して

恵みの雨を降らせて下さいと お願いするわけです

すなわち 雨乞いをするわけですよ』

与:「豪雨後の洪水も困るだが 日照りの水不足も困るだよなー

水洗トイレが使えなくなるだよ」

隠:『ハジメ人間の水洗トイレが どのようであったのかは ともかくとして

水不足は 人間にとって大変困ることです

だから 神頼みでもなんでもやるわけですが

なかなかその願いが通ぜず なおも晴天が続いていた時に

誰かが 気の利いた雨乞いをしたところが

待望の雨が降った としたら』

与:「カッパ踊りでも やっただか」

隠:『カッパ踊りをしたか タコ踊りをしたかは さだかではありませんが』

与:「ご隠居 タコ踊りも 雨乞いに効くだか」

隠:『タコだって 水がなければ困るでしょう』

与:「海の水まで 干上がるだかー てーへんな日照りだな」

隠:「与太郎さん ちゃかさないで下さいよ

もしも この雨乞いの後に 本当に雨が降ったとしたならば 

この雨乞いをした人が 《神様》を動かす力があるのでは 

と思い込まれることもあるのですよ

これが 2度3度と続きでもしたら この人は その集団の中では

《神様》を動かす すごい力を持った人として 特別な存在となり

何かにつけて 強い影響力を持つようになるのですよ

すなわち このように何かをキッカケとして 

偶然あるいは 故意に《神様》をバックとして 

その集団に 強い影響を与える権力を持つ者が 出現するというわけですよ』

与:「なるほどねー 《神様》を動かす 存在の者ねー

なかなか 抜け目のないヤツですね きっと」

隠:『人間には 権力志向や利益獲得の欲望があり その欲求の強い人は

時に《神》を利用して その欲求を叶えようとして

既存の《神》を利用したり

新たな《神》を創造したりするようですよ』

与:「で どんなのがあるのですけー」

隠:『最も典型的なのは 自分は《神》だと 言い出す人がいますよ

突然 お告げがあったとか 何とか 言い出して』

与:「誰かが 突然 私は 《神》だと言い出すだか

そんなこと言い出したって なかなか信用できねーだよ

突然 オラが《神様》だ と言い出したら

隠居は 信用するだか」

隠:『そりゃー もう 一も二もなく すぐさま 信用しますよ

他ならぬ 与太郎さんですから』

与:「ご隠居 ご隠居もかなり調子良いだなー」

隠:『まさか 本人を目の前にして 信用しない とは言い難いでしょー』

与:「ほら やっぱり 信用してねーではねーだか」

隠:『いや そう言う事態になれば もう いち早く きゅー・・・』

与:「何でがす ご隠居 きゅー・・・ と言うのは」

隠:『いやー きゅーっと 一杯やろうではと 言うことですよ』

与:「ご隠居 とぼけちゃって 救急車呼ぼうと言う魂胆ではねーだか」

隠:『与太郎さんには 叶いませんね 一番良い病院を紹介しますから』

与:「そんなこと言って良いだか 

《神様》宣言をしたオラが 

もしも ジャンボ宝籤を連続して 当てでもしたら 

それでも ご隠居は 救急車呼ぶだか」

隠:『とんでもない もう 庭に祠を建てて

与太郎大権現様をお祀り致しますよ』

与:「場所は さっきの置き石の所ではねーだべな」

隠:『やっぱり あそこが一番適していますかねー

毎日 マタちゃんが 新鮮なウの字をお供えしてくれますよ』

与:「まったく ご隠居ときたら 結構エゲツネーだな

オラ 顔負けだよ

とりあえず その時には ご隠居 神主さんをおねげーしやすよ」

隠:『はいはい 承り かしこまり かしこまり まおすー』

与:「ご隠居 神主さんやってたことあるだか」

隠:『冗談ですよ 冗談』

与:「分かってますだ 

ところで 自分が《神様》だと 言い出す人もいるようだが

他の人に 《神様》にされてしまう場合もあるだか」

隠:『それは 先ほどの例のように 雨乞いに成功して

皆の生命を守った人などが 

《神様》のように仰がれる場合が あるのではないでしょうか』

与:「その他には ねーだか」 

隠:『そうですね 良く知られているのは 菅原道真平将門でしょうね』

与:「天神様だな オラも知ってるだよ 湯島天満宮に祀られているだよ

オラ 梅の花を見に行って来ただよ」

隠:「与太郎さんが 梅の花見ですか 

本当は 別にお目当てがあったのではないですか』

与:「もう ご隠居にかかると お手上げですだ

本命は 甘酒ですだよ オラは やっぱり 梅より甘酒だな

甘酒は うめーよ うめーよ ホーホケキョ なんちゃって」

隠:『結局は 駄洒落ですか

天神様の方は どういたしました』

与:「湯島天満宮には 梅が沢山あるだよ

オラ 梅については ちょっと ウルセーだよ」

隠:『大声を出さないで下さいよ 

与太郎さんの “ちょっと ウルセーだよ”は 

往々にして 大声の方ですからね 要注意ですよ』

与:「ご隠居 用心深くなっただな 

今日は ちょとウンチクを語るだよ

梅は花の後 実がなって 梅干しにするだよ 

梅干しのタネを割ると中に 仁があるだよ これを天神様と呼ぶだよ」

隠:『与太郎さん よく御存じですね』

与:「道真公も 可愛そうに 901年 藤原時平との政争に敗れて 

遠く九州大宰府左遷され ついに 梅干しにされて 

タネの中に閉じ込められてしまっただよ」

隠:『与太郎さん それはちょっと 珍説ですよ

太宰府左遷されたまでは良いですが 

梅干しにされてしまったと言うのは初耳ですよ』

与:「イーヤ オラや八や熊の間では 常識だよ」

隠:『それは いわば与太郎さんグループの

著しく狭いエリアにおける常識ではありませんか 

いったい 誰が言い出したことですか』

与:「言い出しっぺか それは 言わずと知れた オラだべ 

オラをおいて他にはあんめー」

隠:『やっぱり そうではないかと思いましたよ

どうして そのようなことを 言い出したのですか』

与:「ご隠居 オラが甘酒を飲んで うとうとしていたら

突然 大菅公のお告げがあっただよ

要約すると 太宰府左遷された大菅公は えらく落ち込んでしまっただと

今でもよくある 優秀と言われていた子が お受験に失敗して

引き蘢りになることがあるではねーだか

秀才で聞こえていた大菅公も 例外ではなく 引き蘢りになっただよ

いくら声をかけても 部屋から出て来なくなってしまっただよ

心配した お付の者が お腹がすくだろうと

梅干しおむすびを差し入れしただよ

そしたら 大菅公 情けなや 一層 梅干しの仁になってしまいたい

と 思ったと言うだよ 

そしたら 何と そのようになってしまったと言うだよ」

隠:『本当ですか 与太郎さん でまかせではありませんか』

与:「やっぱり ご隠居を騙すことはできねーだな

全然 信用されてねーだよ ない知恵絞ったのに

それでは どうして 仁を天神様というだか」

隠:『よくは知りませんが 

朝廷で権力を振り回していた藤原一族を 思わしくなく思っていた人もいて

そんな中で 道真公は 能力を発揮して 右大臣にまでなりましてね 

藤原氏を押さえるような存在になったのですよ

そんな道真公に期待をする人がいたのですよ

そのようになった道真公の存在が 気に入らなかった藤原時平らが 

陰謀を巡らせて道真公を 太宰府左遷したのですよ

道真公は 都の邸宅の庭に 

桜 松 梅などを植えて たいそう愛でていたそうです

ところが 太宰府左遷が決まると 主の居なくなってしまう

桜は 嘆き悲しんで ついに枯れてしまったそうです

そして 松と梅は 道真公の後を追って 

太宰府目指して 飛び立ったそうです 

ところが 松は途中 今の神戸市須磨のあたりで 落下してしまい

梅だけが 太宰府にたどり着いたと言う話があります』

与:「梅だけが うまく太宰府まで飛ぶことができたのですけー

隠居 一言コメントあるだか」

隠:『それでは 簡略に一言 

そうです ウメーこと飛んバイ(梅)』

与:「ちょっと 苦しーが よしとするべ」

隠:『話を戻しますと

そんな事情で 道真公と梅は切り離せない関係になったのでしょね

それがもとで 庶民の間で 梅干しと道真公の関係が創り出され

梅干しの仁を 天神様と言うようになったらしいですよ

本当か どうかは はっきりしませんが』

与:「天神様は オラ好きだよ コリコリとして ちょっと酸っぱくって

オラ 幾つも食べただよ 少しは利口になっただべか」

隠:『どうりで 時々 おっしゃることが 飛んでることがあると思ったら

飛び梅天神様をバックにつけてたんですね』

与:「ご隠居も 調子いいだな

梅干しのタネを奥歯で割るのが これが骨が折れるだよ

皮の柔らかめのを選んでやらねーと 歯を痛めるだよ

隠居は 止めて下せーよ 入れ歯壊すだよ

えらく高くついてしまうだよ 気をつけねーと」

隠:『小さい頃 遠足でおにぎりを食べた後 タネを石で砕いて

天神様をとったりしましたね 

強くやりすぎて 天神様までグチャグチャに潰れちゃったりして

時々 頭の回転が鈍くなるのは あの時のせいですかね』

与:「ご隠居 誰のこといってるだよ ひょっとして オラの」

隠:『とんでもない 与太郎さんは いつもターボフル回転ではないですか』

与:「またー ほんとに ご隠居は 調子がいいのだから」

隠:『それはともかくとして 道真公の死後 疫病が流行ったり 

天災が続いたりして あまり良いことがなかったようで

これは 道真公の祟りだと言う人が現れて 

そこで その怒りを鎮めなければ と言うことになり

天満宮を建てて そこに道真公をお祀りすることになったようですよ

結局 道真公は 天神様と仰がれるようになり 

その秀才にあやかろうと 学問の神様として 

ひろく信仰の対象となったようですよ』

与:「道真公を左遷に追い込んだ藤原氏の方は どうだべ」

隠:『藤原氏は もともとは 中臣氏と言い 

釜足の時に中大兄皇子らと語らって 

大化の改新を行ったことで有名ですね

後に 中大兄皇子即位して 天智天皇となり 

中臣鎌足は 藤原姓を下賜されて 

藤原鎌足と名乗るようになるのですが

中臣氏は 日本古代神話に現れる神を祖としているようですよ

奈良県桜井市の山奥 多武峰(とうのみね)の談山(たんざん)神社

藤原鎌足を祀った神社で すごく立派ですよ 秋の紅葉が見応えありますよ

とても広い領地を持っていたようで

藤原氏は 奈良時代から平安時代には すごい勢力を持っていて

その後も 広大な領地を持っており

後で 勢力をもった織田信長は いち早く多武峰(とうのみね)に検地を命じ 

多額の税を課したのでよく知られていますよ

 

藤原だけではなく

藤の付く姓は もともとは藤原氏と関係があったようですよ

都を離れて 地方に住み着いた藤原氏もいて

たとえば 遠江(とおとおみ 今の静岡県西部)に住み着いた藤原氏

遠藤姓となり 近江(おうみ 現在の滋賀県)に住み着いた藤原氏は 

近藤姓を名乗るようになったと言われていますよ』

与:「エエーッ 近藤と言うのは 元は藤原だったのですけー」

隠:『全部が全部そのようであったのか どうかはともかくとして

近江藤原氏は 近藤姓となったと言われていますよ』

与:「ヒヤー ご隠居 何を隠そう オラの苗字は近藤と言うだよ

オラ 正真正銘の近藤与太郎だす」

隠:『そうでした そうでした 与太郎さんは 近藤さんでしたね

以前に 与太郎さんに苗字を 尋ねた時に 

コンド コンドと言っていたことがありましたよね

あれは この次に教えると言ったのではなく 近藤と言っていたのですね

後で 近藤さんだと言うことが 分かったのですよ』

与:「ちゅーことは オラの祖先は 藤原氏で 

その祖先は 中臣氏ということで 更にその祖は 《神様》だか」

隠:『その可能性は あるかも知れませんね

世が世であれば 私らのような庶民は 拝謁できなかったかも知れませんね

平安時代藤原氏の勢力は 絶大でしたからね

幕末期に北方の探検をやった近藤重蔵 

新撰組隊長の近藤勇とも関係があるかも知れませんねー』

与:「またまた ご隠居は すぐに載せるんだから

オラの近藤は 明治になって 苗字をつくることになった時に

オラ家の近くに藤の花が咲いていただよ それで

名主さんが 近藤という苗字を付けてくれたと伝えられていますだ」

隠:『それは 残念でした 黙っていれば 

ご先祖は《神様》だと 言えたかも知れないのに

一言 多かった様ですね』

与:「ご隠居も それを先に言ってくれれば いいだよ

つるっと 喋っちまったでねーか おしいことしたなー

ところで 平将門の方はどうですだ」

隠:『将門は 神田明神に祀られていますよ

10世紀の中頃 関東に遣わされた奈良朝廷の役人でしたが

色々な経緯が有って 朝廷に背き

東国に独立の政権を 打ち立てようとした人ですよ

結果的には失敗してしまいますが 

奈良政権に馴染まない関東武士の間では 

将門は すごく人気があったようですよ

それで 神田明神に祀られて 関東では未だに人気がありますよ』

与:「オラ 湯島天満宮に行ったついでに 

神田明神へも行って来ただ 天神様から歩いて10分程だよ 

将門を信仰している人は 胡瓜を食べないのだって

隠居 知ってただか」

隠:『知ってますよ 結構 知っている人は多いですよ

江戸っ子は 将門贔屓でね

胡瓜の断面が 将門の家紋に似ているから

恐れ多くて 食べないのですよ

江戸っ子は 大体がおっちょこちょいでしょ

だから 粋がって 胡瓜食べたいくせに 食べないんですよ』

与:「ついでに 神田明神下へも行って来ただよ

なにしに 行ったか分かるだか ご隠居

隠:『分かりますよ 明神下と言えば 平次親分でしょ』

与:「ご隠居は なんでも良く知っているだな

平次親分が住んでいた所に 石碑が建てられているだよ

注意しないと見落としてしまうだが 

隣に 子分の がらっ八の小さい碑もあるだよ

どうせなら 恋女房お静さんの碑も建てればよかったのに

これは無いだよ」

隠:『野村胡堂の“銭形平次捕物控”は 良く知られていますね 

全部で383話もあるそうですよ

カッコ良いですね 平次親分 寛永通宝を シュッ シュッとね』

与:「しかし ご隠居 寛永通宝に当ったぐれーで 倒れるだか

ちっとは イテーだろうが 倒れるほどのことではねーだべ」

隠:『そこが 平次親分のすごいところなのですよ

きっと マー君でも及ばないですよ』 

与:「ご隠居 それはねーだよ マー君の速球 150キロ まともに喰らったら

当りどころが悪いと 気絶するだべ 即入院だよ

 ところで 寛永通宝は 今の価値だと どのくれーだべ」

隠:『江戸時代後期の頃を背景とした落語

“時蕎” と言うのがありますよね

勘定の途中で “何時だ” とやって 1文ごまかして 儲けようとして

反対に 損をしてしまう噺

あのソバ1杯が 銭16文 すなわち 寛永通宝16枚ですから

その位の価値ですよ

今 ソバ1杯320円とすれば 1文は20円

1杯480円とすれば 1文は30円

1杯640円とすれば 1文は40円 と言ったところですね

江戸時代は ソバは今より割高の食べ物だったのではないでしょうか

因に 幕府貨幣は 金貨 銀貨 銭貨の3種類でしたよ

これらを 用途に応じて 両替店で交換して使っていたのですよ

この幕府公定交換レートは

金貨小判1両は 銀貨60目(匁) 銭4貫(4000文)でしたよ

ところが 厄介なことに 実際には 市場レートが立ちまして

レートが変動するのですよ 

市場では 小判1両が 銀56~58匁ぐらいの相場だったようですよ

銀貨は 基本的には ハカリで目方を計って使う貨幣でした 

3種類の貨幣を 取っ替えながら使うのは 不便だったでしょうね

仮に 銭1文を30円とすると 小判1両は12万円程の価値となりますね

千両箱1個だと 1億2千万円 

重量は 時々改鋳されて重さが違いますが

家康の時に鋳造した慶長小判だと 箱の重量を含めると

1箱 25キロ程になるようですよ』 

与:「て言うと これを小脇に抱えて 

屋根の上をピョンピョン逃走した鼠小僧は すごい怪力だっただな』

隠:『与太郎さんだったら きっと ヨタヨタですね』

与:「ご隠居 駄洒落ですケー ヨタヨタで悪かっただな

隠居は 語呂が悪くて 駄洒落にもならねーだよ」

隠:『怒らないで下さいよ 冗談 冗談ですよ

話を戻しますと

菅原道真 平将門が神格化されて 

神社に祀られているのは よく知られていますが

他に 徳川家康も有名ですね 

東照大権現として 日光東照宮に祀られていますね 

元和2年1月21日(1616年3月9日? ← 元和2年1月1日が1616年2月17日 1616年の2月が28日までとした換算) に 家康は鷹狩りに出掛け 

その夜半丑の刻(2~4時)に発熱し 以後病床に着いたようですよ』

与:「鷹狩りで 猪でもとって 牡丹鍋でも 食い過ぎただか」

隠:『それがね 牡丹鍋ではなくて 

夕食に 鯛(甘鯛 ? )の天婦羅を 食べたそうですよ』

与:「エー 鷹狩りで 甘鯛をとっただかー

いくらなんでも 鷹が甘鯛をとるのは無理だべ

甘鯛は かなり深い海底にいる魚だよ 駿河湾でよく獲れるだよ

ペンギンにでも 頼まないと獲れないべ 

鷹狩りではなく ペンギン狩りではなかっただかー」

隠:『ペンギン狩りなんて あるわけないでしょ』 

家康のいわば諜報係をしていた京都豪商で 

朱印船貿易家でも知られている茶屋四郎次郎が 

当時 長崎にポルとガル人が もたらした天婦羅の製法を習い

家康に御馳走したのだ と言うような噂もあるようですが

真相はどうでしょうかね』

与:「要するに 徳川家康は 鯛の天婦羅の食い過ぎで 死んだのケー」

隠:『この時には 実はね 家康胃癌でね かなり進んでいたようです

それで胃が弱っていたところに 食べ慣れない 天婦羅が 

良く無かったのでしょうかね

同年4月17日 75才で没したと言われています』

与:「因に オラだったら 鯛より海老の天婦羅が好きだよ

天婦羅は やっぱり 車海老だな

隠居 聞こえてるだか」

隠:『このところ とんと 耳が遠くなりまして 困っていますよ』

与:「ご隠居 補聴器つけたらどーだ」

隠:『いえいえ まだ その必要はないですよ』

与:「ご隠居 ちゃんと 聞こえてるでねーか」

隠:『聞き取れないこともあるのですよ 内容によっては』

与:「もー ご隠居には かなわねーな

ところで 家康は 天婦羅食って死んだので 《神様》になっただか」

隠:『まさか そんな 天婦羅大権現なわけはないでしょ

徳川家康はね 死に際して 

自分は 日本の守護神となると言い残したそうで  

それで 死後 静岡久能山東照宮に祀られましたが

後に 日光東照宮に祀られるようになったのですよ

与太郎さん 家康の遺訓と言うのが残っているのですが 知っていますか』

与:「どんなんですけー」

隠:『次のようですよ 

  人の一生は重荷を負て遠き道をゆくがごとし、いそぐべからず。不自由 を常とおもへば不足  なし、こころに望おこら  ば困窮したる時 を思ひ出すべ し。堪忍は無事長久の基、いかりは敵  とおもへ。勝事ばかり知りて、まく る事をしら  ざれば、害其身にいたる。おのれを責て人を   せむるな。 及ばざ るは過たるよりまされり

どうです 与太郎さん なんか感ずるところがありますか』

与:「そーだなー オラ 

 こころに望おこらば困窮したる時を思ひ出すべし

と言うところが 気に入っただな」

隠:『なるほど どうして この部分が 気に入ったのですか』

与:「だってよー 何か望みごとが出来た場合は 

困窮した時の事を思い出せ と言うのだべ

と言うことは 分かり易く言えば

今のオラの望みごとは なにちゅーったって 

ジャンボ宝籤を当てることだよ

貧乏で苦しいる生活の状況を思い出して

ジャンボを 当てなくてはならないだよ オラに ビッタリだよ」

隠:『そうきましたか 流石にSP与太郎さんですね

東照大権現様も さぞかし 驚いていることでしょうね』

与:「早速 東照宮へお参りした方が 良いだべか

だけんど 日光は ちょと 遠いな」

隠:『上野にも 東照宮がありますから こっちの方か近いですよ

しかし ご利益が 期待できますかね』

与:「東照大権現様は ご利益ないだか ご隠居

隠:『ご利益のほどは よく知りませんが

与太郎さんが気に入った 遺訓の部分の意味は 分かり易く言えば

何か欲しくなった時には 貧乏だった時を思い出して 我慢しなさい

と 言うことだと思いますよ

与太郎さんとは かなり意見が 合わないのでは』

与:「そんなんでは 困るだよ オラ 湯島天神様と神田明神様には

ちゃんと ジャンボ当選を祈願してきただよ

ついでに 平次親分にも 

子分のがらっ八には 頼んねーので 特に お願いはしなかっただよ」

隠:『今はねー 何処の神社様でも 祈願成就に関わることは

 世界平和 国家泰平 家内安全 五穀豊穣 出世開運 商売繁盛 

 社運隆昌 試験合格 交通安全 必勝 縁結び 子宝 安産 厄除

 病気平癒 健康長寿 工事安全 地鎮などなど

なんでも手広くやっている様ですから

全部祈願すれば 一つぐらいはご利益に預ることは 

できるのではないですか』

与:「ご隠居 何となく 力が入ってない感じだなー

もっと もっと 気合いを入れねば 《神様》に通じないだべ」

隠:『与太郎さんが 力入れ過ぎなのですよ』

与:「他に 有名人で《神様》になった例は ないだか」

隠:『そうですね 織田信長豊臣秀吉も 神社に祀られてますよ

信長の方は 明治2年(1869)に 明治天皇の命により 

織田氏の子孫が居た今の山形県天童市建勲神社が造営されて 

そこに祀られたそうですが 

その後 京都市北区船岡山に移されたそうです

秀吉の方は 大阪城内の豊国神社に祀られていますよ

こちらも 明治天皇の命により 明治6年に 

京都阿弥院峯墓前に本社が造営されたのですが 

その後 大阪中之島に移り 更に 今の地に移されたらしいですよ

家康と共に 稀なる偉業を成し遂げた人物ですから

《神》と仰がれるに相応しい存在なのでしょうね

難局突破・大願成就・立身出世などに ご利益がありそうですよ』

与:「京都 大阪まで 祈願に出掛けるのは てーへんだなー

ジャンボ外れたら 交通費だけでも かなりの損失だよ

人で 《神様》になった場合は 他にもあるだか」

隠:『何を持って《神様》とするのか と言う 

概念規定にもよるでしょうが

靖国神社には 戊辰戦争 日清戦争 日露戦争 第一次世界大戦 

支那事変 第二次世界大戦などの軍人・軍属等が 祀られていますよ

その他にも お国の為に命を落としたとされる方々も 含めると

護国の英霊としての主祭神の数は 246万柱を越えているとのことです

これらを含めると 大変な数ですね』

与:「オラも 死んだら 《神様》になれるだべか」

隠:『なれるのではないでしょうか 

神式による葬儀を行なえば 《神》として祀られるのではないでしょうか』

与:「与太郎大明神に なれるだか ご隠居

隠:『誰かが そのような取り計らいをすれば どうか分かりませんが

普通は そのようにはならないと思われますよ』

与:「与太郎大権現もだめだだか」

隠:『ですから たとえば 与太郎さんを褒め讃える人がいて

これは 《神》として 奉賛するに値すると認めた方が おられる場合は

その方向で行動すれば あるいはなれるかも知れませんよ

しかし それには それなりの 実態が伴わなくては

なかなか 難しいのではないでしょうか』

与:「ひょっとして ご隠居は ?

 その気はねーだか」

隠:『またまた 与太郎さん そのような事は聞かないで下さいよ

本人を目の前にして 答えに窮するに決まっているでしょ』

与:「と言うことは 早い話が ねーと言うことだな」

隠:『まーまー 落ち着いてくださいよ

庭に 鳥居 祠でも建てるはめになったら えらいことですよ』

与:「そのへんが ご隠居の限界ということだな

与太郎大権現をお祀りすれば もう ジャンボがバンバン当るだよ」

隠:『これはどーも お見それ入りました

もう 生権現様だけで結構です

鳥居 祠はごめんですからね』

与:「ところで ご隠居 他に 創造された《神様》は ねーだか」

隠:『そーですね 日本の《神様》と言えば

8世紀の初頭につくられた「古事記」と「日本書紀」などに

いわゆる神代の話が 書かれており

また その後につくれた「風土記」などに 

多数の神々が見られますね

古事記」と「日本書紀」は 作成の目的や方法が異なるので

まったく同じことが 書かれていると言うことではないようですよ

日本書紀」は 当時 8世紀初頭 国家形成にあたり 

モデルとしていた中国(隋 唐)のやり方を真似て 

大陸からの渡来人を混じえて編纂されたもので

中国などの影響があるようですよ

そのような観点からすると

古事記」の方は 天皇家についての伝承を記したもので

日本の古い時代の神々については 近隣の国の影響もあるようですが

古事記」の方が 面白いかも知れませんね

本来的には いつの頃か 日本で創造された神々について

何等かの目的のもとに まとめられたのでしょうが

現代人の感覚・知識では 納得の行かない部分が多くあるようです

細かに分析すると 矛盾しているところも多々あって

信用出来ないと 嘆く方も多いようですが

本来 何時の頃か 何等かの都合があって 

誰かが創作した幾つもの話を継ぎ接ぎして 

創った《神》の話でしょうから 

終始一貫 揺るぎない話とは ならないのではないでしょうか』

与:「ご隠居 解説が長いだよ

手短に 要点を ポーンとやってもらえないだか」

隠:『あなたね 簡単に ポーンとなんて 言いますが

ポーンとやると 誤解される事が多くて 困るのですよ』

与:「だから ご隠居 そこんところを 

なんとか ポーンと と言ってるだよ」 

隠:『それでは 与太郎さんのたってのリクエストなので

ポーンとやりますか』

与:「ジュゲムは いいから とっとと やってくだせーよ」

隠:『ここで ジュゲムなんて持ち出されると 

話が いよいよ長引くことになりますよ

やりますか ジュゲムを』

与:「ご隠居 オラが悪かった ジュゲムは撤回するだよ

要点だけ ツーと頼むだよ

長々やられると 初めに聞いた部分が どんどん忘れて行くだよ

説明の無駄というものだよ」

隠:『それでは ポーン ツー とやりますよ

与太郎さん 心の準備は良いですか』 

与:「準備は 万端だよ 早いところ ポーン ツー とやってくだせー」

隠:『では いきますよ

アマテラスオオミカミ 以下多数の神々が見られます 以上』

与:「ちょと ちょっと ご隠居 これだけですけー

これでは あまりにも 愛想っけねーだよ」

隠:『与太郎さんが ポーン ツー とやるように言ったではないですか』

与:「悪かっただ あやまるだ ご隠居 

適度に 宜しく おねげーしやすだ」

隠:『まったく 骨が折れるのだから

どの程度にやれば良いのですか

ホドホド ホドホド と言うくらいですか』

与:「そーですだ ホドホド ホドホドでおねげーしやすだ」

隠:『また 適当なんだから 

だいたい ホドホド ホドホドなんて

どの程度か 分からないでしょー』

与:「そこを何とか ホドホド と言うことで」

隠:『もう まったく ホドホド にしてくださいよ

あのね 「古事記」では 天と地と言う関係を創っているのですよ

天は タカマガハラ(高天原)と言って 《神》の世界ですよ

地は 簡単に言えば 人間界ですね

タカマガハラ(高天原)には アマツカミ(天神)がいて

クニノコタチと言う《神》の系統の2神に

イザナギノミコトとイザナミノミコトと言うのがいて

この夫婦の2神が 日本の島々を創り出したと言うのですよ

また この2神は色々な《神》を創るのですが

ヒノカグツチの神(火の神)を創った時に 

イザナミノミコトは やけどをして 死んでしまうのですよ

そして ヨモツクニ(黄泉国)に行くのですよ

そこへ イザナギノミコトが逢いに行くのですが

色々あって 喧嘩別れとなり 逃げ帰って

筑紫のアハギハラでみそぎを行い

左目を洗った時に アマテラスオオミカミができ

右目を洗った時に ツクヨミノカミができ

鼻を洗った時に スサノオノミコトが出来たそうで

アマテラスオオミカミは 高天原を治めることとなり

ツクヨミノカミが 夜の国を治めることになり

スサノオノミコトは 海原を治めることになったのですが

アマテラスオオミカミと折合いが悪くなって

高天原を追放され 出雲に降りて

同地でクシナダ姫と結婚しました

他にも妻がいて 多くの神々を生んだが その中に 

オオクニヌシノミコトもいたと言うことです

また アマテラスオオミカミは 

三種の神器と共にニニギノミコニを

高千穂の峰に降りさせた と言われています

このニニギノミコトは コノハナサクヤ姫と結婚し

この末裔のカムヤマトイワレビコノ命の時に 東征して 

大和の樫原に留まり 日本を治めることになった 

すなわち 初代のオオキミ(大王)である神武天皇になった と言われています

この間に 多数の神々が現れますが それらは割愛しますよ

与太郎さん これくらいのホドホドで どうでしょうか』

与:「ご隠居 結構な 良くは分からないホドホドでごぜーやした

どうも ご苦労様でごぜーやした

しかし ご隠居 日本の古代の《神様》は 名前が難しくて

分かりずれーだよ

いったい 誰が創造しただか」

隠:『それは 分かりませんよね 証拠がハッキリしませんし

多分 そのころ 政治的に優位に立とうと活動していた人々が

長期間にわたって 創り上げたのでは ないてのでしょうかね

そして 8世紀までに おそらく 

古事記」に見られるような話 

すなわち 政治の中心に座する天皇家が 

高天原を治めるアマテラスオオミカミを祖としている と言う話に 

まとめあげたのではないのでしょうか』

与:「と言うと 伊勢神宮でジャンボ当選を祈願するのは まずいだか」

隠:『ダメと言う決りはないでしょうが

《神様》の性格からすれば あまりジャンボ当選を 

祈願する人はいないのではないでしょうか 

でも 昨今のことは 分かりませんよ

誰かが 伊勢神宮でジャンボ当選を祈願して

本当に当ったとする情報が マスコミで流れたりすれば

もう その手の参拝者が 突然増加するかも知れませんね

なんたって 困った時の神頼みは 庶民の常套手段ですからね』

与:「人間は 色々な都合で 色々な《神様》を創造しただなー」

隠:『そのようですね 人間の能力には限界があって

人間では どうにも対処出来ない事態が 発生すると

とにかく 人間ではどうすることも出来ないので

超人的な能力を持つ 頼れるものを期待し 存在させて

窮した事態の打開を願ったのでしょうね

そのような時に その時の都合に合致した 

《神様》が創造されることになり

その後も その御利益を願い 《神》を祀ってきたのでしょうね』

与:「はやい話が こんな《神様》がいたら良いなー

と言う事態が発生した時に

人間は それをキッカケとして その事態に御利益があるとする

《神様》を創造して その御利益を信じて

《神様》を拝むことになると言うわけだな」

隠:『まー 大雑把に言えば そのようなところではないのでしょうか

要するに 信ずる世界のことですから

信ずれば 何等かの御利益がある と信ずることが

前提になって 《神様》が創造されるのでしょうね』

与:「ところで ここが一番 でーじなところだが ご隠居

どの《神様》が 最も御利益があるだか 教えて欲しいだよ」

隠:『与太郎さんの場合は ねらいが

なんたって ジャンボ宝籤当選の一点ですからね

とにかく 目的が明白ですからねー

願いが 叶うか 叶わないかは 割合でいえば

100%か 0%ですからね』

与:「そうですだ 白黒明白でねーと ダメですだ

灰色で 誤摩化すような 政治家みてーな《神様》では 

話にならないだよ きっぱりお断りだよ」

隠:『分かり易くて とても良いと思いますが

そのてのお願いごとはねー

八幡様でも お稲荷様でも 天神様でも 権現様でも 明神様でも 

お不動様でも 恵比寿様でも 大黒様でも 弁天様でも なんでも 

成就の可能性は 殆ど変わらないのではないでしょうか』

与:「ご隠居 そんなこと言わずに どれが良いだか

教えてくだせーよ」

隠:『それはもー 与太郎さんが 一番信じられると思うのが 

それが 最も良いのではないですか』

与:「オラが 一番信じられると思うのがかー

それならとーに 決まってるだよ

それは なにを隠そう なんちゅったって 

それは ご隠居だよ 

だからこそ オラは ご隠居の専属ボランティアも買って出ただよ

よし オラ 決めただー

“ご隠居大明神”にするだよ」

隠:『ちょっと 与太郎さん 何を言い出すのです

私は 《神様》ではありませんからね

生まれてこのかた 75年 ずーっと人間一筋で通してますよ』

与:「だって ご隠居 さっき

“たとえば 誰かを褒め讃える人がいて その人を

《神》として 奉賛するに値すると認めた方が おられる場合は

その方向で行動すれば あるいはなれるかも知れませんよ”

と言ったではねーか

だから オラが ご隠居を 《神》として 

奉賛するに値すると認めただから

隠居は 《神様》になれるだよ

オラ1人で 不足と言うのなら

熊も八も 四の五の言わせず 同意させるだよ」

隠:『与太郎さんと熊さんと八っぁんに推されて 私が《神様》に

とんでもない 冗談はよして下さいよ 与太郎さん』

与:「そうは いかねーだよ

5億円のジャンボ宝籤の抽選日が 迫っているだよ

隠居大明神様 どーか当りますように おねげーしますだ

パチ パチ」

 

どうも、お疲れ様でした

お後が宜しいようで