《停念堂閑記》57

「停念堂寄席」48

 

平家物語 ? 》

 

[その2]

 

(「停念堂寄席」47のつづきです)

 

婆 :「与太郎さん 12時を回りましたよ お昼にしましょうー

  与太郎さんの好物の天婦羅ソバにしましたから

  エビ天は 3本のせておきましたよ どーぞー」

与 :「えー もー そんな時間ですけー 咲ちゃんのお姉さん風の奥様

  いつもいつも 気を使っていただき 有り難うさんでやす

  それにしても ビックリしたなー エビ天 3本ですけー ピッタシ的中

  咲ちゃんのお姉さん風の奥様も 予想屋さんするのですけー」

婆 :「与太郎さん限定なら 結構 当てますよ」

与 :「いやー ぶったまげたなー

  それじゃー 早速 ジャンボ宝クジは どーだべ」

婆 :「ジャンボ宝クジですか それなら 断言できますよ

  スカ です 間違いございませんよ 与太郎さん」

与 :「咲ちゃんのお姉さん風の奥様まで スカの太鼓判ですけー

  まいったなー」

婆 :「それより のびてしまわない内に おソバを頂きましょう」

与 :「それでは 頂きますだ 

  まずは おツユを チュチューと いーお味で

  カツオダシが効いてますだ

  次に 大好物のエビ天をと

  パクリ 最初に適度にとろけ始めた衣がきますよ

  そして コリッとした車海老の歯触り もー たまりまへんな」

隠 :「江戸っ子与太郎さん 大阪弁になってますよ」

与 :「へー オラ 旨いものに出会うと 大阪弁になってまうねん 

  これも病気でんねん

  浪速の江戸っ子なもんで」

隠 :「それにても 私のエビ天 2本しか載ってませんよ」

与 :「また ご隠居 そんな子供みてーに

  ほれ オラのを 分けてやるだよ」

隠 :「いやですよ そんな食べかけ 半分の

  おや 咲ちゃんのお姉さん風のおバーさん

  あなたのにも3本ですね 私だけ2本ですか」

婆 :「それなら 私の分けてあげますよ」

隠 :「そんな食べかけのは 要りませんて まったく」

婆 :「おジーさんのは 健康を考えて 油っぽいのは 少なめに

  気を使ってのことですよ」

隠 :「それはどーも 恐縮でございます 美味しいところを減らすのだから」

婆 :「それでは おソバも 少し食べてあげますか」

与 :「ご隠居 食べ残してもいーだよ

  ボランティアとしてオラが責任もって 後始末するだから」

隠 :「その必要はございません ソバまで減らされては たまりませんよ」

与 :「ところで ご隠居は ソバとウドンでは どっちが好みでやすか」

隠 :「どっち と言われると 困りますね 両方とも好きですから」

与 :「オラも どっちも好きですだ

  オラは 天婦羅ソバが でーすきだが

  ソバは 本当に味わう場合は やっぱり盛りソバに限るだよな

  ザルのように 海苔風味も良いだか

  旨いソバは モリで チョット甘めのタレがいーだよ

  それからね ワサビを欠かせネーだが これが 大根オロシがいーだよ

  夏は これに限るだよ オラでー好きですだ

  大根オロシは 少し辛めがいーだよ 皮をむいてはダメだよ

  腑抜けた味になるから

  大根は 皮付きのまま ゆっくりとすりおろすだよ

  そーしたら 辛みがでるだよ

  これを 好みに合わせて ツユに入れて チュチューとやるだよ

  空気と一緒にすすると 辛さが増すだよ

  夏は これで盛りウドンも すげーうめーだよ

  ソーメンも 冷や麦も」

婆 :「与太郎さん 麺類には中々ウルサイですねー」

隠 :「そーなんですよ 咲ちゃんのお姉さん風のおバーさん 

  与太郎さんのウルサイには 要注意 ですからね

  講釈より 大声に気をつけて下さいよ

  以前 私は 大声で 気絶させられそうになったことがありますから

  そーしたら 与太郎さんは

  それについて オラは かなりウルサイと前置きしたでねーか

  なんて言うのですよ」

与 :「それからね ワサビとくれば 北海道の山ワサビがいーだよ 

  おろしがねで おろしたのを ツユに入れるのではなく

  盛ってあるソバやウドンの方に パラパラとかけるだよ

  これを 箸でつまみ上げて ツユにつけて ツルツルといくだよ

  山ワサビは 幾分甘みがあって なかなか風味があるだよ」

婆 :「与太郎さんは 本当に 食べ物には なかなかウルサイですね」

与 :「そりぁー もー かなりウルセーだよ

  ウルセーついでに ウドンはね」

隠 :「そろそろ 来るかも知れませんよ

  咲ちゃんのお姉さん風のおバーさん 耳を塞いだ方がいーですよ」

与 :「ウドンの一番簡単な すごく美味い食べ方は

  茹でたての良くお湯を切ったアツアツの麺に 生卵を割って 手早く混ぜ

  それに 何かを ちょろっとかけて ズズズー とすするだよ

  ご隠居 何を掛けるか 分かるだか」

隠 :「山ワサビですか」

与 :「生醤油だよ!」

隠 :「ホラ きましたよ 耳塞いでて 正解だったでしょー」

与 :「これも手軽で とっても うめーだよ 

  タマゴ掛け御飯の ウドン版てなもんだな

  タマゴの黄身だけでやると 味が濃くなって これがまたいけるだよ

  チョット ウドンのカルボナーラ風と言ったところだな」

婆 :「それでは 今度 やってみることに しましょう

  それでは 食べ終わったようですので 後片付けをしますね」

与 :「どーも ごちそーさまでやした すごく美味かったダよ

  天婦羅ソバは 咲ちゃんのお姉さん風の奥様のに限りますだ」

婆 :「それはどーも 与太郎さんに褒められるようになったら 一流ですね」

与 :「今度折りをみて 手に入ったら 山ワサビ持って来るだ

  これが ステーキにパラパラとやっても いー味出るだよ」

隠 :「与太郎さん 今度は いきなり ステーキに格上げですか」

与 :「いやいや そー言うわけではねーだよ ほんの一例ですだ」

隠 :「一例ね やぶ蛇にならない内に お釈迦様の方のけりをつけましょう」

与 :「ご隠居 お釈迦様がどうかシッダッダだか」

隠 :「また 与太郎さん とぼけちゃって

  シッダッダ様が色々な悩みをお持ちになられた と言うところまできたら

  与太郎さんの お昼の悩みに すり替わっちゃったのですよ」

与 :「シッダッダ様は 昼飯に何食べてたのですかね ご隠居

隠 :「また 食べ物へ行ってしまうのですか

  きっと カレー料理だったのではないでしょーか」

与 :「そーだな インドだからな カレーにチゲーねーな

  ご隠居 チゲは どこの料理だか知ってるだか」

隠 :「もー その手には載りませんよ 

  インドでは バラモン教教典 ヴェーダの教えが普及していたのですが

  それについて 色々と疑問があって 

  インドの社会が混乱していたようですね

  そんな中で シッダッタ様は 例えば 人間は誰もが悩みを持っているが

  どうしたら その悩みから解放されるか

  と言うようなことに 関心があったようですよ」

与 :「シッダッダ様の家の近所に 横丁はなかっただか

  あれば たいてい ご隠居がいるだから

  悩み事があれば 取り敢えず 横丁のご隠居に相談するだよ

  そーしたら ほとんど 解決するだよ ねー ご隠居

隠 :「さー インドの横丁のご隠居さんですか どーだったのでしょうかね

  バラモン教の僧侶は 多数いたでしょうが 階級が上だから

  横丁に住んでいたかどうかはねー

  バラモン教以外の僧侶もおりまして

  シッダッダ様はこちらの影響を受けたらしいですよ

  修行を積んで 世俗の苦悩から離脱しょうとする立場を

  望むようになったようですね」

与 :「シッダッダ様は 釈迦族の王子様だから

  就職とか生活費の心配はなかっただよなー

  だったら 悩みは少なかったのではねーですか」

隠 :「そーですね 庶民からすれば 経済的な悩みなどは

  少ない存在でしたよね

  しかし 人間本来の悩みと言うものはあったのではないのでしょうか

  人間だれでも病気にかかるし 年をとるし やがて死ぬことになる

  このような事は 人間貧富貴賎に関わらず

  共通の悩みだったのではないでしょうか」

与 :「なるほどね ハラがへったら 旨いものをたらふくくいてーし 

  眠たくなったら ぐっすり眠りたいし

  夏に暑くなると冷房が欲しくなるし

  冬に寒くなると暖房が欲しくなるし

  それが 年とりたくねー いつまでも若くいてー 

  死にたくねー 長生きしてー 

  死んだ後はどーなる 不安だー なんてなると 事はてーへんだよなー

  そんな欲望がぜーんぶ叶えば もんでーねーけんど 

  いろいろと事情があって そーやすやすとは行かねーだよな 

  そこで オラは ハタと 悩むことになるだよ

  シッダッダ様も そーだったのかねー ご隠居

隠 :「与太郎さんの悩み事とのレベルはともかくとして

  色々と悩ましいことがあったのでしょーね」

与 :「ご隠居 悩み事のレベルって 何だ」

隠 :「あっ 聞こえました 色んなシールみたいのが

  色んなものに貼ってあってさ

  剥がそうとしても 中々剥がれないのがあるでしょー」

与 :「ご隠居 それはラベルのことではねーだか」

隠 :「そーそー ラベル ラベル そのことですよ」

与 :「また ご隠居 すっとぼけちゃって まーいーか

  そこで シッダッダ様はどーしただ」

隠 :「きっと 来る日も 来る日も 毎日 毎日 随分悩んだのでしょうね

  そして 29才の時に 遂に王宮を密かに抜け出して

  出家したのだそうです」

与 :「えー 遂に 家出しただか 奥さんや子供を見捨てただか」

隠 :「まー 一人で抜け出したようですから そう言うことになりますねー」

与 :「シッダッダ様も 思い切った事仕出かしただなー

  トーちゃんが 突然出ていっちゃったら

  子供は 一歩まちげーると グレちゃうだよ それでどーなっただ」

隠 :「出家して 当時著名であった人々の元を訪れて 教えを受けたようですよ

  しかし 中々納得できず

  減食 絶食等々の難行苦行の修行を行ったそうです」

与 :「エー 腹ペコの修行をしただか 腹ぺこでは いー考えは浮かばねーだべ

  新鮮な血液が 脳にまわって行かなくなるだよ

  オラは 腹ペコ修行は 御免蒙るだよ

  腹ペコの時は もー食い物以外のことは なーんにも 考えられネーだよ

  オニギリ ウドン ソバ ラーメン ギョーザ カレーライス

  スパゲッテーなどが頭の中で反乱を起こすだよ

  もー 欠食警報が 鳴りっぱなしになるだよ」

隠 :「シッダッダ様は 随分頑張ったようですよ

  もう 座わっている事も困難で 

  倒れてしまうほどになったと言うことですよ

  シッダッダ様の時代のインドでは 断食などの苦行の末に

  悟りが開かれると 信じられていたようですね

  しかし シッダッダ様は 断食などの難行苦行では

  人の悩みを解消することは出来ない と言う結果に至ったようです」

与 :「そりゃー そーでしょうよ

  いくらシッダッダ様でも 腹ペコで 立っても 座ってもおられず

  ヘナヘナの状態になってしまったら 悩みから脱出なんかできねーだよ

  悩みのまっただ中 ちゅーもんだよ きっと

  衣食足りて 礼節を知るって 

  ご隠居 この間 教えてくれたではねーだか

  その点については オラちょっと疑問もあるだか」

隠 :「そうですね 人間生きて行く上での 基本的条件が満たされないと

  冷静ではいられなくなりますよね

  一昔前では 衣食足りて 礼節を知る と言うことが

  かなりの普遍性をもっていましたが 

  現在では 衣食足りても 礼節の方はねー

  どこかに忘れ去られた状況をよく目にするようになってますね

  シッダッダ様でなくても 悩みは尽きませんね」

与 :「それで どうなりました シッダッダ様」

隠 :「従来信じられていた 難行苦行の修行では

  悩みを解消出来ないことを 実体験されたシッダッダ様は  

  その後 ガーヤ村の菩提樹の下で 深い考えに入られたそうです

  そして その結果 遂に 悟りをひらかれた と言われています」

与 :「遂に 悟っただか 

  オラも 悟ったことがあるだよ」

隠 :「与太郎さんの悟りは 概ね検討がつきますよ」

与 :「ご隠居 また予想屋さんですけー

  ご隠居には お見とーしだから 叶わねーよ

  当てられる前に白状するだよ

  人間 腹ペコの時は まず 食すべし

  ご隠居 これは 万人に通ずる真理ですだよなー」

隠 :「まさにそのとーりでしょうね 間違いないでしょうね

  さすがは 与太郎さん と言いたいところですが 

  そんなことは 誰でも悟っていますよ

  特段 いまさら騒ぐことではないと思いますが」

与 :「ご隠居はきびしーだな 他ならぬ オラが悟った事だよ

  オラが悟りを開くなんてことは めったにないことですだ

  与太郎さんにしては 大発見 ノーベル賞ものだとかなんとか

  言い様があるはでねーですか」

隠 :「いえいえ そんな失礼な事は申せませんよ

  与太郎さんが 荒修行の末に開く悟り

  それはそれは 並大抵のことでは無いと 堅く信じていますから

  腹が減ったら メシを食え なんて言う程度の真理では

  褒め讃えること自体大変失礼なことになりますから」

与 :「何だか 煙に巻かれたような気がするけんど まー いーか

  ところで シッダッダ様の悟ったことは どのようなことですだ」

隠 :「それは 極めて難解 難しいことですよ

  与太郎さん コックリの 意識不明状態に ならないで下さいよ」

与 :「ご隠居 それは ご隠居の舌先三寸にかかっている事だよ

  居眠りするもしねーも ご隠居の話次第ということだよ

  ご隠居 宜しゅうたのんまっせー」

隠 :「そんな大阪弁で 調子のいーことを ではいきますよ

  シッダッダ様の悟り

  中道(ちゅうどう)  縁起(えんぎ)  四聖諦(ししょうたい)

  八正道(はっしょうどう)

  の四つの真理から構成されているようですよ

与 :「ご隠居 オラの忠告を無視して いきなりですけー 

  間髪入れず オラを無意識の世界に引き込もうと言う魂胆ですけー

  オラはいーだよ スヤスヤとしてれば 事済むだから

  しかし ご隠居は 独り言 老人の独り言は ヤバいよ 救急車だよ」

隠 :「救急車なんて 余計なお世話ですよ

  与太郎さん あなたがイーダシッペなのですから

  ちゃんと 起きていて 話を聞く 難行苦行を積まなくては

  悟りは開けませんよ」

与 :「オラは とっくのとーに 悟っているダよ 

  小難しい話の時は コックリやる 

  これはまぎれもねー 真理ですだよ ご隠居

  何回やっても 100% コックリ 体験済みですだ 

  間違いおまへん ほんまやでー」

隠 :「与太郎さん それはずるいですよ

  あなた 眠気覚ましに 駄洒落かツッコミをやればいーではないですか」

与 :「あー 駄洒落かツッコミね スッカリ忘れていただよ」

隠 :「それでは いーですか いきますよ

  シッダッダ様の悟りは まず “中道 ”の修行が必要であると言うところ

  にあるようです」

与 :「ハイ ハイ これはチュードイー駄洒落のネタでやんすね」

隠 :「いー調子ですね その調子でお願いしますよ

  この “中道 ”と言うのはですね 

  チョット難しいですが 何事においても

  両極端なことは いけません と言うような意味のようですよ」

与 :「 “中道 ”とは そう言うことですだか 

  そーですだな 極端に偏ることは ダメだな

  食べ物でも もの凄く甘くてはダメ

  また もの凄く辛くてもダメ 甘からず辛からず と言う辺りがいーだよ 

  極端な事を言うやつは 一般に敬遠されがちだな 

  極端な事を言うやつは 熊だよ すぐに白黒着けたがるだよ

  だから 白か 黒か なんて両極端の事を言ってはならネーだよ

  ねー ご隠居

  この場合は 白と黒の中間 灰色が “中道 ”と言うもんだよなー

  ねー ご隠居

隠 :「そー言うことになりますか

  なんか ちょとスッキリしない気がしませんか」

与 :「そーだよ  “中道 ”とは 両極端はいけねー と言うことだべ

  と言うことは 真ん中付近の

  そのチューブラリンのスッキリしないところが 最適と言うことだよ

  それ 足して二で割る 政治的手法と言うやつだよ」

隠 :「なるほど そう言われると そーですかねー」

与 :「そーだよ 例えばだよ 寒いところが好きだ 寒いところへ行きたい

  と言う願望を持つ人に

  それでは 南極北極へ行けばいーよ

  なんて両極端のことを言っては ダメだっちゅーうことだよ

  この場合には 南極北極中間点へ行くように

  アドバイスした方が良いだよ

  しかし 中間点は赤道直下だからなー

  寒くはねーな それどころではねーだよ 暑いの一言だな

  “中道 ”っあー 中々厳しーな

  これが求めた真理だとすると

  これは相当過酷な修行が必要になるなー

  赤道直下でも 寒いと感ずるまでの修行が必要だと言う事だな ご隠居

  心頭滅却すれば 火もまた涼しってーやつですだな」

隠 :「まー そー言うことになりますかねー

  与太郎さんが持ち出す例は ちょっと 焦点がずれてませんか」

与 :「それでは 道に迷ってしまった時だよ なかなか目的地に着かない

  ずーっと歩いて行ったら 三叉路にぶつかった時は

  右と左を避けて 真ん中の道を行くと 目的地につくと言うことだなー

   “中道 ”は 本当に大丈夫だか ねー ご隠居

隠 :「焦点が 大分ずれちゃってませんか」

与 :「例えばだよ 子供がノドかわいて 水のみたーい と言ったら

  テーブルの上に コップについであるから飲みなさい と言われて

  テーブルへ行ってみたら

  コップが 3個並んでた 

  右のコップには 焼酎のロック

  真ん中のコップには 冷え冷えのビール

  左のコップには 常温の水が入っていた場合

  子供は 真ん中のビールを飲む事になるだよ これが正解だか ご隠居

隠 :「与太郎さん 問題の設定がおかしくありませんか」

与 :「それならだよ コップが三つの場合は 真ん中は判別がつくだが

  四つ よーするに 偶数の場合は 真ん中はどれか 分らねーだよ

  ご隠居

隠 :「与太郎さん なにもそんな例を持ち出さなくても 

   “中道 ”とは 極端にならない方が良い 

  と言う精神のあり方を説いたもので

  何でもかでも 真ん中でなくてはならない

  としいてるものではないように思われますが」

与 :「それではだよ 原発はゼロにせよ と言う意見と

  原発は存在させて再稼動させるべし と言う意見があった時 どうなるだ

  早い話が 有と無の中間値など論理として存在しないだよ」

隠 :「そこなんですよ 与太郎さん

  世の中には 論理で割り切れないことが 沢山存在するのですよ

  その場合の 判断の元となる精神のあり方が問題となるのですよ きっと

  お釈迦様は おそらく そのような精神はどうあるべきか

  と言うことについて 悩まれたのではないのでしょうか 

  その結果 あまりにも極端に偏向した判断はいけない

  と言う結論に達したのではないのでしょうか

  原発の有無のような問題に 適用すべきが否かは

  別に考える必要があるかも知れませんが」

与 :「なんだか 分かったようで 分からねー話だな ご隠居

隠 :「そーなんですよ この種の話は 分かったよーで 分からない

  と言うのが 特質のようですよ」

与 :「と言うのが ご隠居の “悟り ”と言うやつだな

  ご隠居 その “悟り ”を悟るまで 何の木の下で 

  何年 瞑想に耽っただ」

隠 :「そんなことしなくても これくらいの事は 誰でも 分かってますよ」

与 :「オラ 知らなかっただよ と言う事は

  オラは “誰でも ”の範疇に入ってないと言うことだな」

隠 :「そりゃー そーですよ 

  与太郎さんが “誰でも ”の範疇に入っているわけないでしょ」

与 :「やっぱり オラは 入ってねーだか」

隠 :「当たり前ですよ 

  与太郎さんを “誰でも ”の範疇に入れたら この話が成り立ちませんよ」

与 :「なんだ そっちの話だか

  ご隠居の話は 時々 飛ぶだな」

隠 :「そりゃー 時と場合によっては やむを得ませんよ

  与太郎さんは 特別な存在なのです

  だから そこんところを何時も 心しておいてくれなくてはなりませんよ」

与 :「へー へー 分かりやした とんだところで

  釘をさされてしまっただなー」

隠 :「“中道 ”はこれくらいにして 次ぎの “縁起 ”に行きましょう」

与 :「ご隠居 シュダッタ様は 俳優さんをやってただか

  やっぱり イケメンさんだったのですけー

  ヘアスタイルは きっと パンチパーマだなー

  エンギも決まっていて 主演男優賞は 勿論とっただべなー」

隠 :「シッダッダ様がお悟りになられた “縁起 ”は

  泣いたり 笑ったり 喜んだり 怒ったりする

  お芝居の方ではありませんよ」

与 :「と言う事は そのー よく熊の野郎が 担ぐやつですけー

  熊の野郎 昨日も 朝がた白蛇の夢を見たから

  今日は 大金が入るなどと エンギ担ぎやがって 

  競馬に行くベーと言うことになって

  府中競馬場へ行っただよ 全部ビリ スカばっか もー スッテンテン

  帰りは 電車賃さえ足りなくて 二駅も歩いただよ

  まさか お釈迦様が ゲン担ぎではなかったたべなー」

隠 :「今度は そっちできましたか 直球ではきませんね

  変化球ばっかりですね

  シッダッダ様の “縁起 ”と 熊さんが良く担ぐ

  ゲンを担ぐ方の “縁起 ”とは文字は同じですが

  意味合いは 違うようですよ」

与 :「そりゃー そーですだ お釈迦様と熊公が同じわけありゃーしませんよ 

  月とスッポン 金星とオケラだよ」

隠 :「与太郎さん 月とスッポンはよく聞きますが

  金星とオケラと言うのは 聞いた事ありませんよ」

与 :「ご隠居 細かい事は 気にかけなくていーだよ

  単なる勢いで出たことだから あえて言うならば

  イメージ イメージですだから

  金星と言うと 何か聞くだけでお金がありそうではねーですか

  それと対照的な存在は おケラ 熊の野郎は さしずめクマゲラだな」

隠 :「与太郎さん スッテンテンのオケラの方は 昆虫のケラですが

  クマゲラは キツツキですよ」

与 :「だから ご隠居 細かい事は 気にかけるでねー と言ってるだよ」

隠 :「分かりました ところで 与太郎さん 

  ゲンを担ぐ と エンギを担ぐと言うのは

  どう言う関係にあるか ごぞんじですか」

与 :「ご隠居 よくぞお聞き下せーやした 

  この点については オラ ちょっとうるせーだよ」

隠 :「与太郎さん いきなり大声をはっしないでくださいよ

  講釈のほうでお願いします」

与 :「ご隠居 よくぞ振って下せーやしただ

  オラ さっきから 言いたくて 言いたくて

  どこで切り出すベーかと タイミングを待っていただよ

  それでは 行くだよ ご隠居

  今を去る事 三百年前 かどうかは ハッキリしたことは 知らねーだが

  とにかく 江戸時代のことと言われているだ

  言葉をヒックリけーして 言うことがはやっていただと

  それ 寿司のタネのことを 寿司のネタと言うでやんしょ

  ヤドのことを ドヤと言うようにですだ

  それと同じで 縁起(エンギ)を 起縁(ギエン)と言っただと

  そのギエンが だんだん なまって ゲンと言う様なった 

  と言うわけで エンギを担ぐが ゲンを担ぐになった と言うわけですだ

  ご隠居 こんなもんで どーですだべ」

隠 :「流石に 与太郎さん つまらない事は よく御存じですね」

与 :「詰まらない事? ご隠居 詰まらないことですけー

  ご隠居が オラに言わせるように 仕組んだくせに」

隠 :「褒め言葉ですよ 褒め言葉 細かいことに気をかけない方がいーでしょ

  イメージ イメージですから」

与 :「なんだか イメージがくるうな まーいーか こまい事は

  それで シッダッタ様の “縁起 ”の方は どうなんですだ」

隠 :「本題の方ですが こちらの “縁起 ”はですね

  ものごと総べからく 何か原因があって 事が起き

  そして 結果へと繋がっていくものです

  すなわち 何等かの縁で 何かが起きる と言うのが

  “縁起 ”と言う意味合いのようですよ

  要するに 何事も その事が起きる原因があって起きるものである

  そして 一旦発生したことは 必ず結末を迎えるものである 

  であるから この事情とキチンと向き合わなければならない

  と言う事を理解する必要がある と言うようなことのようですよ」

与 :「そりゃー そーですだよ

  物事は 何事にも 原因 経過 結果が付きまとうものですだよ

  どんな出来事でも 原因があるだよ 原因なくして 事は発生しないだよ

  もんでーは この場合の原因についても

  これに関わる原因があるっーことよ

  そして また その原因に関わる原因があるっーことよ ねー ご隠居

隠 :「流石は 与太郎さんですね

  物事は色々なことが絡み合って 関係し合って

  実は非常に複雑なものなのですね

  ここに 人間の悩みの根源があるのですね

  したがって そこんところを よくよく理解しないと

  悩みごとは解消しないのですね きっと

  よくは分かりませんが」

与 :「そーですだ よくは分らねーだ だから悩み事が無くならねーっー訳だな

  なんだか良くはわからねーが ねー ご隠居

隠 :「そのようですね 世の中の出来事は

  とにかく良く分らない事が多いですよね

  分かった積もりが 分かっていなかった なんて言うことが

  しょっちゅーですからね

  そのような中で 人々は 悩み続けるのでしょうね」

与 :「それも ご隠居の辿り着いた悟りの一つですけー

  庭の木の下で 瞑想して悟っただか 

  どの木ですだ オラも真似してみるだから 教えてくだせーよ」

隠 :「こんなこと いちいち瞑想しなくたって 誰でも知っていることですよ」    

与 :「ご隠居 もんでーは その悩みの解消の仕方だよなー

  その点については オラは スッカリ悟りをひらいただよ 完璧ですだよ」

隠 :「それは 凄いですね 世の中の人々は 色々悩んでいるのですから

  その悩みの解消法が 完璧だと みんな助かりますよ 是非教えて下さい」

与 :「オラ ご隠居に 是非と頼まれると 断れねー質(たち)なのよ

  ご隠居は オラの弱点突いて来るから たまらねーな

  それでは特別だよ こっそり オラの悟りを 教えるべー 

  簡単なことだよ

  何か 悩み事が出来たら すかさず ご隠居に相談するだよ

  これで 決り 即決 悩みは忽ち解消 心は晴天 日本晴れ 

  どーです ご隠居 これが 真理と言うものですだ

  オラ やっぱり 天才だなー ご隠居

隠 :「いいえ テンサイではありませんよ

  テンサイは 忘れたころにやって来るものでしょー

  与太郎さんは 毎日やって来ますから」

与 :「ご隠居 そーきゃしたか しかし オラの悟りは 完璧でやんしょ」

隠 :「そんなバカバカしいこと 

  それは 与太郎さんだけにしか 通用しませんよ

  大体私の悩みは どうなるのです

  自問自答になるよりないではないですか」

与 :「そのとーり ご隠居の場合は 悩みが生じた場合には

  ご隠居に相談することになるだよ 相談を受けたご隠居

  庭の それ ご隠居の一番お気に入りの盆栽のねじ曲がった松の下で

  座禅をくんで 迷走に迷走を重ねて 悟りをひらけばいーだよ」

隠 :「迷走するのですか ねじ曲がった松の盆栽の下で

  なんか根性までひねくれてしまいそうな 気がしませんか

  どこへ行ってしまうか 分かりませんよ」

与 :「そうだ こう言う時には スマホのナビを使えば 迷わずにすむだよ」

隠 :「そうきましたか 心の中の迷いを 

  目的に向かって導いてくれるナビがあったら 

  えらいことになりますね 

  しかし この手の機械化は ややもすると

  ワンパターンに陥りやすく成りませんかね

  画一的だと あまり面白みがなくなりますよ」

与 :「ご隠居 そっちへ進むと あまり面白みがなくなりますだよ」

隠 :「そうですね それではさっさと 次にいきましょうか

  中道 縁起とくれば 次は 四聖諦 (ししょうたい)ですね」

与:「ご隠居 また 小難しいことを

  四聖諦 (ししょうたい)とは 聞き慣れねーですが 何のことでやす

  <し> は四のことですけー

  <しょうたい> は オラでも分かるだよ

  <しょうたい> は 本当の姿を言うだよ

  と言うことは <ししょうたい> とは 四つの本当の姿を言うだか ご隠居

隠:「与太郎さん 中々蘊蓄のあることを言いますね

  ある意味そう言えるかも知れませんね」

与:「と言うことは

  <或る時は多羅尾伴内> <或る時は香港丸の船員>  <或る時は中国の大富豪> 

  <また或る時は手品好きのキザな紳士> てーやつですけー ご隠居

隠:「与太郎さん そっちへ行きましたか

  懐かしいですね しかし これを知っている人 もー少なくなりましたよ

 片岡千恵蔵 [七つの顔の男]のめい台詞ですね

 <しかしてその実態は 正義と真実の人 藤村大造だッ」>

  と決めるのですよね

  しかし 与太郎さん この場合本物の姿は 藤村大造一人ですよ

  後の三つどうします」

与:「ご隠居 細かなことを言ってはダメだよ

  こう言うのは 勢いで ポン ポーンと行かなくては」

隠:「そーですね 勢いでいきますか

  しかして 四聖諦 (ししょうたい)の実態は

  苦諦(くたい)  集諦(じったい)  滅諦(めったい) 道諦(どうたい)だーッ」

与:「ご隠居 勢いとは言え また訳の分からない事を並べただなー」

隠:「そーです この手のことは 一向に訳が分からないことが多いのですよ」

与:「それでは ご隠居 お休みなさい」

隠:「ダメですよ 与太郎さん あなた駄洒落担当ではないですか

  駄洒落を交えないと この手の事は だーれも聞いてはくれませんよ

  与太郎さんと一緒で みーんな コックリ病にかかってしまいますから

  貴方の役割大ですからね 本当にお願いしますよ」

与:「そう言う役回りですかい それでは仕方がねーな

  苦諦(くたい)と言うのは何ですけー <食いたい>の誤りではねーですかい」

隠:「そうあって 欲しいものですね 美味いもの食べたいですからね

  ところが そうは行かないのですよ

  苦諦(くたい)と言うのは 私たちが生まれてきた世の中と言うものは

  そもそも〈苦〉である このことをよくよく認識することが大事である

  と言うことのようですよ」

与:「世の中 <く>ばっかり 1~8までと10以降は無いのですけー」

隠:「そーきましたか そのとーりなのですよ

  世の中は <苦>ばかりで みんな キューキューの目にあっているのですよ」

与:「オッ ご隠居も切り返してきやしたねー

  しかし 世の中 〈楽〉もあるだよ 〈苦楽〉は表裏一体のところがあるだよ

  今の苦労の向うに楽が待っているだよ だから 今の〈苦〉も頑張れるだよ

  何時迄経っても〈苦〉の向うは さらなる〈苦〉だとしたら 

  これはやってらんねーよ ねー ご隠居

隠:「そーですね そう言う見方もあるように 思われますね」

与:「シッダッダ様に楯突くようで まことに 申し訳次第もねーですが

  世の中すべからく〈苦〉とするのは ちょっと 極端ではねーだか

  さっき シッダッダ様は 〈中道〉を説かれたのではなかったのですけー

  世の中 大体において オラなんぞは 

  楽と苦を行ったり来たり 苦楽振り子のようなもんですだよ ご隠居

隠:「与太郎さん 悟ってますね 実は 私もそのように思っているのですよ

  極端に偏ると やっぱりいけませんよね」

与:「そーですだよ 似たような事でよく議論されるのが

  性善説性悪説についてだよ

  性善説を主張する人と性悪説を主張する人がいるだが

  オラは 振り子論者だからよ 

  生まれ落ちた時から 人間 善悪どっちもの性格を

  持ち合わせていると思うだよ こう考える方が 世の中 分かりいーだよ

  それと おんなじ 苦楽ともに存在する 

  と考えた方が 世の中 分かりいーだよ ねー ご隠居

隠:「そーですね 一般論からすれば それが 分かりいー気がしますね」

与:「と言う事は シッダッダ様のは 一般論ではねーのですケー ご隠居

隠:「その辺りのことが 難しいのでしょうね

  あんまり難しくて 良くは分かりませんが

  シッダッダ様の場合は 人間の諸々の苦悩から脱するには

  と言うことを問題としていたようですから

  したがって 発想の出発点は 〈苦〉となるのではないのでしょうか」

与:「ご隠居 小難しいことは抜きにして下せーよ 訳分かんなくなるだよ」

隠:「私だって 分からないですよ

  要するに 与太郎さん的に言えば

  人間 誰でも悩みを持っている そして その悩みから逃れたいと願っている

  その願いを叶えるためには 

  世の中は〈苦〉であると認識した方が良い と言うのではないのでしょうか」

与:「そー 言われれば そんな気がするだよ

  世の中〈楽〉だったら 悩みも無く 逃れたいとも思わねーだよな

  そんなところだな ご隠居

隠:「私も分かりませんが そんなところとしておいては いかがですか」

与:「では これで 苦諦(くたい)は 一件落着とすべー」

隠:「次は 集諦(じったい)ですね」

与:「<しかしてその実態は> と言うことですだなー」

隠:「与太郎さん それは さっきやったばかりですよ」

与:「ご隠居 オラだって そーそー 新しいギャグは出ねーだよ

  シッダッダ様だって 悟りをひらくまで

  ずいぶん長い間 修行を積んだだよな

  その点 オラの修行は 緩いからなー

  シッダッダ様は 断食で空腹の極まで達しただべー

  その点 オラ エビ天3本 ソバ大盛り

  満腹だからなー 修行があめーなー」

隠:「精進 精進 ですよ」

与:「ご隠居 オラ 精進揚げよりも やっぱりエビ天がいーですだ」

隠:「さて 集諦(じったい) のその実態は 

  人間の〈苦〉を引き起こす原因のことを言っているようです

  具体的に 分かりやすく言えば 例えば 欲望ですね

  人間は 例えば 年はとりたくない 何時迄も若くいたい 

  などと言う欲望を持っていがちです 

  このような欲望が 悩みを起こす原因である と考えるようですよ

  そして このような欲望は 中々叶わないものがあり

  そう言うのが 要するに悩みの種と言うことになる と言うことです

  しかして 集諦(じったい)の実態は

  この苦しみの原因の真理を きちんと認識しなければ成らない

  と言うようなことのようですよ

与:「実態を見極めることは 本当に難しいことですだな

  さっぱり 分からなくなって来ただよ ご隠居

隠:「だから 再三言っているように 

  この手のことは 難しいのだから 

  そんなにはっきりと分からなくてもいーのですよ きっと 

  なんとなく 分かったような気がするぐらいで

  それ 与太郎さんの得意な イメージと言うようなもので いーのですよ」

与:「だば そんなところで 手をうつことにすべー」

隠:「次は 滅諦(めったい)ですね」

与:「こんどは 滅諦(めったい) ですけー

  これも メッタに聞いた事ねーですだ

  メンタイコとは関係ねーだべなー」

隠:「そのとーり 辛子明太子とは 全然関係がありません

  シッダッダ様の時代には 辛子明太子はございません」

与:「ご隠居 オラ 明太子としか言ってねーだよ 

  <辛し> までは付けてねーだよ」

隠:「与太郎さん 細かな事を言っては いけませんよ 

  勢い 勢いと言うものですから」

与:「それでは その勢いでおねげーしますだ」

隠:「滅諦(めったい)とは 〈苦〉の原因が分かったならば 

  それを取り除くと言うことです。

  すなわち 人間には欲望があって 

  それが悩みの原因であることを突き止めたならば 

  次に その悩みの原因を 取り除けば 

  悩まなくて済むようになると言うことです」

与:「なるほど この程度だと オラにも分かりやすくて いーだよ」

隠:「たとえば 私との話の最中に 今日の昼飯 でねーかな

  天ぷらソバだったら いーな なんて言う欲望があったとすると

  ついつい キッチンの方が気にかかって ソワソワしだすでしょー

  このような時に 天ぷらソバなどという原因を 

  与太郎さんの 脳みその中から消滅させてしまえば

  ソワソワせずに 心安らかになる と言うものですよ」

与:「ご隠居 それは全く違うだよ こう言う時のソワソワは

  オラ なーんにも〈苦〉ではねーだよ 楽しみ100パーセント

  もー 極楽みてーなもんだよ」

隠:「与太郎さんには 悩みと言うものはないのですか」

与:「ありますだよ だけど ご隠居にそーだんすれば 一発解消

  ストレス まったくなし てなもんですだよ」

隠:「よーするに 悩み事なし と言うことですね」

与:「そーでやんす オラ 江戸っ子

  宵越しの悩みは 持たねーだよ」

隠:「決め台詞がでたところで 次にいきますよ

  次は 道諦(どうたい)ですね  

  オラの胴体は ドウタイなんて おヘソなど出さないで下さいよ」

与:「ご隠居 先取りしては狡いだよ オラのネタ 無くなっちまったでねーか」

隠:「新たなのを考えて下さい

  精進 精進といったでしょー」

与:「ご隠居 また 精進ですけー

  精進揚げばかりでは さすがのオラも 胸焼けして来るだよ」

隠:「それでは トットと 終わらせますよ

  道諦(どうたい)とは 悩みの原因を消滅させるには

  どのようにしたら良いか その方法の説明ですね」

与:「悩みの原因を消滅させるのですけー

  そんなの分けネーだよ」

隠:「エーッ 分けない 

  それは 一体どーすればいいのです」

与:「ご隠居 聞きテーだか」

隠:「是非 聞きたいものです お願いします」

与:「ご隠居に 是非とおねげーされると

  オラ 断れねー質(たち)なのよ

  そんでは 言って聞かせるべ

  まず ラーメンの大盛りを食うだよ

  醤油でも味噌でも塩でも 自分の一番好きなのでいいだよ 

  ラーメンだけでは ちょっと足りねーなと言う時は

  餃子を付けてもいいだよ 

  まだ 足りねーなと思う時には チャーハンを付けてもいいだよ

  まー ラーメン 餃子 チャーハンをやっつければ 

  たいていは満腹になるだよ

  ここでだよ 満腹の後は すかさず 眠るだよ

  一晩 ぐっすり眠れば 悩みなんざあー

  けろっと 忘れてしまうだよ

  これで 完璧と言うものだよ」

隠:「なるほどねー

  しかし 一般人は そーは行きませんよ

  ラーメン 餃子 一眠りで 

  悩みが 消滅してしまうなんて 

  そー簡単には参りませんよ

  与太郎さんのような特異体質の方でないと」

与:「江戸っ子は 宵越しの悩みは 持たねーだよ

  大体 都合の良くねーものは とっとと 忘れちまうに限るだよ

  いつまでも 引っぱり続けると ろくな事はねーだよ

  ねー ご隠居

隠:「そー行きたいものですね

  しかし 一般人は 与太郎さん的特異体質の江戸っ子ではないですから

  なかなか 与太郎さんのようにはいきませんよ」

与:「そーでもねーだよ

  熊も八も権太も 宵越しの悩みを持たねー江戸っ子だよ」

隠:「そー言えば 熊さんも八っあんも権太さんも そーですね。 

  与太郎さんグルーブは 皆んなそーですね  

  同じ型のウィルスに やられ・・・」

与:「ご隠居 ウィルスがどうかしただか」

隠:「いえいえ どうもしませんよ

  悩みの原因がね ウィルスでね

  困ってらっしゃる方もおありかと思いましてね

  色々と悩みの種は尽きないものですなー」

与:「ご隠居 うまくとぼけちゃって 油断できねーだな」

隠:「ところで 悩みの原因を消滅させるには

  その主たる方法は 八つあるということで

  それを〈八正道(はっしょうどう)〉と言うのだそうです」

与:「“はっしょうどう ? ” 苦から逃れようと言うのだから

  “九しょうどう”」ではねーのですか

  “はっしょうどう”では 一つたりねーのではねーの

   一つ 何処かへ行っちゃったのですかね」

隠:「多分 そーですよ おそらくね 気まぐれなのも いたでしょーから」

与:「ご隠居 さらりと窮地から脱走をはかりやしたね」

隠:「細かいことを 気にしてはいけませんよ

  問題は 〈八正道(はっしょうどう)〉ですよ

  〈八正道〉を 日々怠りなく実践することが大切だ と言うことです

  その〈八つの正道〉とは

  正見 正思 正語 正業 正命 正精進 正念 正定

  の八つだと言われます

  この八つの意味解釈は 色々と難しいところがあるようですが、

  簡明に言えば

 

  正見 とは 正しく真実の姿を見据えること

  正思 とは 正しく本当のところを考えること

  正語 とは 正しい言葉で正しく語ること

  正業 とは 正しい行為をすること

  正命 とは 正しい生活をすること

  正精進 とは 正しい努力をすること

  正念 とは 正しい信念を持つこと

  正定 とは 正しい精神統一を行うこと

  と言うようなことのようですが、解釈は極めて奥が深いようですよ」

与:「ご隠居

  この〈八正道〉を きちんと実行すれば 人間は〈苦〉から解放される

  すなわち、シッダッダ様の悟り

  中道(ちゅうどう)  縁起(えんぎ)  四聖諦(ししょうたい)

  八正道(はっしょうどう)

  の四つの真理の仕上げの部分と言うことだな」

隠:「そのようですね お釈迦様の行き着いた 悟りの極地で

  これを基に 仏教が形成されていく 最も基本のところのようですよ」

与:「しかし ご隠居 仏教と言うと 

  極楽浄土とか地獄とかの話が馴染みぶけーだが 

  そのような話は 一向に出て来ねーだなー」

隠:「極楽とか地獄とは 後世になって考え出されたことで 

  お釈迦様は 

  そのような事は お教えになられなかったのではないのでしょうか」

与:「ところで ご隠居

  よもや 〈八正道〉の一つずつについて 

  駄洒落を交えて解説する気ではねーでしょーね」

隠:「それは 与太郎さん次第ですよ

  駄洒落の担当は 与太郎さんですから」

与:「ご隠居 オラに全部やらせる気ですけー

  そんなことになったら

  ハッ ドウショウ ですだよ」

隠:「でますねー やる気満々ですか」

与:「勘弁して下せーよ ご隠居

  要点を ちょちょっと かいつまんで てな分けには 行かねーだか」

隠:「かいつまむのですか

  サザエハマグリなら 簡単につまめますが

  このようなことはねー どこを摘めば良いのでしょうかね」

与:「それ 八つとも 全部 正の字がついているから

  正の字だけ 摘むと言うのは どうですだべ ご隠居

隠:「流石は 与太郎さん 良い所に気づきましたね

  万事 正の字で固めれば 良いと言う分けですね

  与太郎さん 一件落着ですよ」

与:「しかし 万事 正の字で固める と言っても

  正の字って 一体 どう言うことだべ ご隠居

隠:「そんな難しいこと 蒸し返さないで下さいよ」

与:「そうだ 閃いたぞ

  正の字とは 何ぞや と言うことを 悟ればいいのだ

  悟るには やっぱり 座禅だな ご隠居

隠:「なるほど なるほど 座禅組んで 悟りを開けば 良いわけですね」

与:「そーですだよ 

  一日いっぱい 座禅を組めば良いのだよ

  待てよ 座禅を組んでいる内に きっと 生理的現象をもよおすな

  いくら座禅修行と言えども 源泉垂れ流しはまずいな

  ここは 仕方がない トイレへ行くとするべ

  そーだ トイレへ行く度に 一本ずつ線を引いて

  正の字を書いて行けばいいのだ ねー ご隠居

隠:「行き着く所は 結局 そっちの方ですか

 

  それはそうと 与太郎さん

  肝心の〈「平家物語」〉の方は

  まだ 初めの〈「祇園精舎」〉の四文字で つまずいたままですよ」

与:「まだ〈正の字〉には 一本足りネーダか」

 

どーも お疲れさまでございました お後が宜しいようで