《停念堂閑記》41

「停念堂寄席」32

 

与太郎君とご隠居さん》2

 

立春

 

与:「ご隠居 留守かい」

与太郎さんかい 留守ではありませんよ

 うっかり 留守すると 勝手に留守番をする人がいますので

 留守はしないように気をつけています

 それから 言っておきますが 鍵の隠し場所は 替えましたから

 もう簡単には 入り込めませんよ」

「ご隠居 無駄な抵抗だよ

 戸袋の隙間なんぞに隠したって オラには ちゃんとお見通しだ」

「エー なんで知っているんです」

「おら 昨日 ご隠居の出かけるのを そっと 見てただよ

 たった それだけのことよ 手間はねーだよ

 昨日は 虎屋羊羹を ごちそーさんでした やっぱり羊羹虎屋に限るだよ

 ご隠居

 「与太郎さん 虎屋さんから 幾らか頂いているのですか

 えらく虎屋さんに 肩入れですね」 

「いや そうではねーだよ こういうことは こまめににやっておけば

 そのうちに “夜の梅”の一棹も届くんでねーかと 思うだよ」

 「そんなこと あるわけないでしょー

 まったく また 鍵の隠し場所 替えなければ」

 「ご隠居 戸袋の隙間はいけねーだよ

 うっかりして 中に 引き込んだりすると 後が面倒だよ

 とろうとして ぼー切れなんぞで ごそごそしてたら 

 お巡りさんに どろぼーと 間違われるだよ

 自分の家に入ろうとして お巡りさんに 捕まるなんぞー

 間抜けだよ」

 「これは どーも ご親切に」

 「ご隠居 出かける時は オラにあづけておけば いーだよ 

 それが 一番安心というものだよ」

 「それが 一番危ないのですよ まったく 油断も隙も ありませんね 本当に」

 「ところで ご隠居 馬鹿馬鹿しい話は これっくれーにして

 もちっと 格式の高い話に しましょーぜ」

「格式の高いのときましたねー とびきりの間抜けな話ではないでしょうねー

 いったい 何事ですか」

 「ご隠居に 何事ですか と言われると

 オラも 言わねー訳には いかねーと言うもんだ

 オラは なんちゅったて ご隠居ボランティアつーもんだからな

 ご隠居に 退屈させては もーしわけねーだよ

 ご隠居支援NPO理事としてはな」

 「それはそれは 恐れ入ります 私はこう見えても閑ではありませんよ

 いろいろと やらなければならないことが沢山あるのですから

 はやいとこ 用事を言ってくださいよ」

 「また ご隠居 そんなハッタリかまさなくても でーじょーぶだよ

 オラ 何時もご隠居のところ 覗いているから 

 ご隠居のおっしゃいますところの おいそがしそーな退屈さを

 よーく 知ってやすから どーぞ お気遣いなく」 

 「骨がおれますねー さっさと 用事を言ってくださいよ」

 「ご隠居がそこまで言うのならば 言って聞かせるベー」

 「はいはい オラは 頼まれたら 断れない タチなんでしょ

 どうぞ ちゃっちゃちゃっと 言って下さい」

 「ご隠居 昨日は 節分  とくれば 今日は 何の日だ

 いきなりじゃー 難しいだろうから ヒントをやめべー

 第1ヒント オラの誕生日ではねー 」

 「これはこれは 結構なごヒントで

 節分の翌日は 立春ですよ 誰でも知っていますよ

 はい これが答えです 今日はこれまで」

 「ちょっと ちょっと ご隠居 それはねーだよ

 これからが 本題だーよ

 ボランティア本領はこれからだ

  NPO理事をみくびっちゃー なんねーよ」

 「はいはい それで立春がどうしました」

 「それでは りっしゅん は漢字で どう書くか知っるけー」

 「はいはい 立つ春 と書くのです これでいいですか」

 「さすが ご隠居 もの知りで」

 「はいはい お褒めに あずかりまして どうも」

 「いやいや それほどのことでは ねーだよ」

 「それで どう 致しました」

 「と言うことはだよ 立つ前は どうなっていただよ 座っていたのか

 横になっていたのか 寒さで倒れていたのか どーだ ご隠居

 「なるほど そのような事は あまり考えたことは ありませんでしたねー

 立春の次には 立夏 その次が 立秋 その次が 立冬

 そして その次がまた 立春がまわってきますなー」

 「さすかは ご隠居 よく知ってるだなー

 でも オラ だって それっくれーのことは 知ってるだ

 熊 と 八 に調べさせた」

 「どおりで この間 二人で そのような事を聞きにきましたねー

 そうそう 与太郎さん には 内緒だと言ってましたねー

 いけない うっかり 言ってしましました 聞かなかったことにしてくださいよ」

 「ご隠居も 隅に置けねーな 口が軽いんだから オラと違って」

 「頼みますよ そのうちに また 羊羹を御馳走しますから

 とんだところで 借りができてしまいました」

 「それはそうと 立つ以前はどうだったんだべー

 年に 4回立つと言うことは ちょうど三月毎に 一回立つと言う勘定だべ」

 「おやおや そのような計算まで できるとは 驚きましたねー 与太郎さん」

 「そんなことで 驚いて 腰抜かさねーで下さいよ

 ボランティアとしての 立場がなくなるから

 きっと 三月も立たねーでいると 

 もう 立ちたくて 立ちたくて しようがなくなるのだよ

 ヤツの限界は ちょうど三月目 ということだべ きっと

 ねー ご隠居 どうでげす」

 「与太郎さん よくそんことを 思いつきましたねー

 そんな つまらない事を

 私には とても思いつきませんでしたよ」

 「ご隠居が思いもつかなかったー 

 おらー やっぱりテンサイだなー

 テンサイは忘れたころにやって来る と言うからな」

 「いやいや 与太郎さんは 毎日 やって来るので

 天才ではありません」

 

 お後が宜しいようで