《停念堂閑記》10

「停念堂寄席」10

 

《ニワトリかタマゴか ? 》 (2014-02-13)

 

 しばらくの間、「停念堂閑記」を休業しておりましたが、冬期は退屈凌ぎに、また少しの間、店開きすることにしました。

 落語モドキのバカッ話を、恥は何処かへ吹っ飛ばして、開業します。年をとると、元より薄かった感受性も、程よく磨り減りまして、好き勝手なことをずうずうしくやっても、さして気にならなくなるものです。個体差はございましょうが。

 笑い話は、言うまでもなくセンスの問題のようで、その才能はサッパリあきまへんが、根が嫌いな方ではありませんので、退屈凌ぎの時間つぶしには、もってこいのようです。

 ひねもす、心に浮かぶ阿呆らしきことごとを、そこはかとなく、パソコンのキーを叩けば、一日は直ぐに終わってしまいます。

 なにせ味気の無い時間を過ごしてきましたので、経験不足はゆがめず、ネタにキューキューとしますが、それはそれで、時間つぶしにはなります。

 それでは、余程お閑なお方、酔狂なお方は、御付合いくださいませ。

 毎度、馬鹿馬鹿しいお笑いで恐縮でございます。

 ご存じの通り、落語には、長屋の八っぁんと熊さん、そして、横丁のご隠居が登場しなくては、おさまりが良くありません。今日は、大サービスで与太郎さんも特別出演致します。

 

 「おう いるかー 熊公」

 〈何だよー 八か シケたツラしやがって〉

 「相変わらずのご挨拶だなー

 「シケッツラはオイラのせいじゃーねーよ

 低気圧のせーだよ

 あのやろうが居座っちまってよ 寒いのなんのて

 もう たまらねーよ

 白いのがチラホラ落ちて来やがってよ」

 〈白いのって なんだー 白熊かー〉

 「バーカ 白熊がチラホラ落ちてくるかってんだ

 動物園じゃーねーぞ」

 〈動物園だと 白熊がチラホラ落ちてくるのか〉 

 「バーカ 白熊はドッスン ドッスンと落ちるもんだ

 アホくさいこと言ってんじゃーねーよ

 白熊に用があるんなら 旭山動物園にでも行ったらどうだ」 

 〈旭山動物園て どこだ〉

 「北海道だ ちょっと遠いぞ

 だいたい旭川にあるのに 旭山動物園てんだぞー

 なんか可笑しかねーか

 旭川だったら 川だから 旭川水族館が筋ってもんだ

 それが旭山動物園だなんて 川だか山だか はっきりしろってんだ

 ややこしくて しようがねーや 

 そうは思わねーかー なー 熊」

 〈おーよ オイラもそう思う それが筋つーもんだ

 オイラも気になってたんだ 小樽の水族館

 かねがね これもおかしいと思ってたんだ

 樽の博物館が筋つーもんだ

 ちっちゃい樽を いっぱい集めてよー

 そうは思わねーかー なー 八

 そうだなー 運河べりに樽をずらーっとならべて レストランもいいな

 料理は 名古屋風のエビフリャーだな

 タルタルソースなんか かけてよ

 ちょっとお上品に 「お」なんか付けちゃって

 “おタルタルソース” なんちゃって〉

 [おめーら 相変わらず レベルの低い話してるなー

 オラもかててくれ]

 〈おい また ややっこしいのが来やがったぜー 与太郎

 おめー 立ち聞きしてやがったな〉

 [立ち聞きなんぞしてねーだよ 目立たないように

 しゃがんで聞いてた ドーダ まいったか]

 〈まいるか アホー

 何だ “かててくれ”つーのは 聞き慣れねーこと言いやがって〉

 [なんだー “かててくれ”もしんねーのけー

 お前の方が アホやんけ

 “かててくれ”つーのはだな “まぜてくれ”つーことだっぺ

 “まぜてくれ”ったって 割ったタマゴを掻き混ぜるのとは違うぞ

 タマゴかててくれ なんて言っても意味通じねーぞ

 仲間にいれてくれ と言う意味だ

 わかったかー 北海道弁だ]

 〈そうか 北海道弁か うまそーだな 

 やっぱり カニとかイクラとか いっぱい入ったやつか

 ホタテも ホッキも ウニもいいなー〉 

 [おーよ カニだって ズワイとタラバとハナサキと

 ケガニの四種類あるんだぜー]

 内地の連中は でかさに惑わされて タラバに飛びつくが

 やっばり カニはケガニだなー ツーは ケガニだよ

 あの上品なうま味が 何とも言えねーな

 発音には気をつけろよ けがにー なんてなまっちゃーいけねえ

 毛の抜けた感じに聞こえるからな

 甲羅がツルツルのケガニなんぞ 様にならねーからな 分かったケー]

 〈こら 与太郎 調子にのりやがって おめーはヨタローだよ

 何か 口のききかたが可笑しかねーか テキパキ言いやがって

 立場をわきまえろってんだ このすっとこどっこい〉

 [いけねー それをころっと忘れてた オラって やっばり粗忽者だなー

 でもよー 今日は特別出演だからよー

 ちょっと張り切っちゃったぜ 勘弁しろよ]

 〈わかりゃーいいんだよ わかりゃー

 まったく どっちが 与太郎だか分かんなくなっちまうよ

 その上 栃木弁だの 大阪弁だの 北海道弁だの 

 ごちゃ混ぜに使いやがって わけわかんねーよ

 与太郎与太郎らしくしゃべろってんだ まったく

 ところで おめー 何処の生まれだ〉

 [オラー 奥多摩の生まれだーよ

 林家たい平さんの故郷 秩父に近いだよ

 東京都だけんど 山ん中 海はないだよ

 けんど 猪はよく出るだよ

 追っかけられて 肥溜めに 落っこちただよ

 クセーのなんのって 

 猪公(いのこう)のヤツ 息止めて 逃げて行きやがっただよ]   

 〈そうだよ その調子だ 与太郎はそーでなくては

 しっかりしろてんだ 本当に〉

 [褒められて 言い返すのも なんだけんどよ

 こら 熊 オラが 本当に しっかりしても いいだか

 オラがしっかりしたら 熊 おめー後悔するだぞー

 オラー こう見えても ちゃきちゃきの 多摩っ子 ぜよ

 いけねー 土佐弁もまじっちゃた ぜよ]

 〈なに ごちゃごちゃ言ってやがんだ 

 タマッコ だって パチンコじゃーあんめーし

 そんなもん聞いたこたーねえー いい加減にしろてんだ〉

 [横浜生まれを 浜っ子 て言うでねーか 

 北海道生まれも 道産子て言うだよ 

 おめーだって 江戸っ子でー なんて 啖呵きってるでねーか

 それと おんなじだ

 オラ 多摩っ子]

 〈こら 与太郎 特別出演だからって 図に乗るんじゃーねーよ

 

 本当に 調子くるっちゃうなー どこでおかしくなっちまったんだ 

 まず 八がやって来た ここは問題ねーな

 次に 野郎にシケたツラをしやがって とか言ってやったな

 ここも何時ものことで どーってこたーねーな

 次に 八が 白いのがちらほら とかなんとか 言いやがったな

 この辺から 様子がおかしくなり出したんだ 

 そこで オイラが 「白いのつて 白熊かー」とやってやったな

 ここも全然問題は ねーな 至極あたりめーのことだ

 そしたら 八の野郎が 「バーカ 白熊に用があるんなら

 旭山動物園にでも行ったらどうだ」なんていいやがって

 あぶなく 北海道へ行かされるとこだった

 そして 結局 “おタルタルソース”の話で決めてところに

 しゃがみ聞きしやがった 

 与太郎が「俺もかててくれ」なんて入って来やがったんだ

 それから 話がそれて ややこしいことになってしまったんだ

 よし、原因はわかった 与太郎のしゃがみ聞きだ

 与太郎に聞えないように 小さい声でやれば良かったんだ

 大声でやって 失敗したな

 失敗の原因が分かった時には 原点からやり直すのが筋つーもんだ

 筋については オイラ ちょっと うるせー方だらな  

 いいか 出直すぞー 静かにしてないと きこえねーぞ ひそひそ話だ

 「“白いのって 白熊かー”とやった

 これがちょっとまずかったなー 

 ペンギンにするか ペンギンは 楽さんと違って 腹は白いから

 白つながりで いいな〉     

 「バーカ ここで 白熊 とか 白ペンギンなんて もっていくから

 話がおかしくなるんだ」

 〈なに言ってんだい オイラは 白ペンギン なんていってねーぞ

 “ペンギンは 楽さんと違って 腹は白い”と言ったんだ

 嘘つきは どろぼーの始まりだぞ お巡りさんに捕まっても知らねーぞ〉

 「そんなこと言ったら おめーだって 捕まるぞ

 楽さんは 本当に腹が黒いのかよ

 見たことあんのかよってんだ」

 〈あるよ

 この前 山田君をクビにして 座布団取られた時に コケただよ

 その時 着物が少しはだけて 腹がちょとだけ 見えた 黒かった〉

 「おめーなー また シャーシャーと 見える訳ねーだろー

 だいたい 楽さんに失礼だよ 知り合いでもないくせに」

 〈なに言ってんだよ オイラー よく知ってらー

 この間も 歌さんをご臨終にして

 座布団全部取られて 地べたに 座らされていた

 紫の人 黄色いのは 菊ちゃん〉

 「お前 いい加減にしろよ」

 〈高座では 時々一緒になるよ オラをネタに一席やってやんの

 まー 共演者の間柄つーもんだ

 なのによー オラには分け前一銭もくれねー

 全部持っていってしまう だから腹黒いって言われるんだなー〉

 「お前 ほどほどにしねーと 本当におこられるよ」

 〈大丈夫 こんなことでおこる 楽さんじゃねーよ

 心のひろーい 寛容なお方なんだよ ふとっ腹の ちょと黒いけど〉

 「まったく しょーがねー奴だな

 さー おこられない内に とっとと あやまっちめーな

 オイラも一緒に 謝ってやるから

 とはいえ 2人では ものたんねーな

 たいてい こんな時は 最低 3人はいるな

 しょーがねえー せっかくひっこめたけれど

 この際だ 与太郎も出しちめー

 ヨタロー ちょっと出て来なー

 枯れ木も山の賑わいつーからなー

 さーさー 一列に並んで キォーツケー

 いいか オイラが よし と言うまで

 頭をあげちゃーいけねーよ

 後で あいつだけ 頭の下げようが足りなかったとか

 はやく頭を上げたとか 言われるからな

 それから カメラ目線には気をつけろ 

 アップで撮られることがあるからな 

 ガンとばしたみてーになると 逆効果だからな それでは

 “楽さん ごめんなさい”

 一同礼 ・・・ まだ上げるなよ 上げるなつーの ・・・

 

 よーし 上出来だ ビシットきまったな

 与太郎 お前は もういー とっとと 引っ込んでしめーな

 お前がいると ややっこしくなって いけねーや」

 〈よーし 良くやった おめーにしては 上出来だ

 楽さんには オイラからも よろしく言っておくから 安心しな〉

 「なに言ってやがんでー 熊 偉そーに

 みんなお前のせーじゃーねーか ふざけやがって

 さーてと 本日のメイイベントと行くぜー

 いーか 与太郎 出てくんじゃーねーぞ ホントーに

 熊 混ぜこぜにするなよ」

 〈分かってらー 上手に混ぜていれば こげつかねー

 混ぜずにいると 焦げ付くゾー 後がテーヘンだ

 料理はまずくなるし 鍋のコゲをおとすのが骨折れるなー

 八 おめえのカカア コガシの名人 長屋で知らねー者はイネーよ

 毎年 焦げグランプリ賞の優勝者だ ズーッと連勝中 万年チャンピオン まー なんにせよ グランプリは てーしたもんだ

 八のカカアは エレー バンザーイ〉

 「このやろー はったおされるぞー

 そんなこと カカアの耳に入ってみろ

 でけー中華鍋で 炒められちゃうぞー こげこげに」

 〈ばかやろー 俺は 石川五右衛門じゃーねーぞ

 あぶねーったら ありゃーしねー まったく

 油断も隙もあったもにじゃーねー

 危なくレバニラ炒めにされるとこだった

 ところで 八

 おめー なんか言いかけたのではねーか

 今日は オイラはご多忙中だが 他ならぬ 八のためだ

 相談に行くところもねーだろうから なんなりと申し述べてみよ

 特別に 聞いてやるから 料金はいーだぞ 今日はサービスだ〉

 「うるせーやい 止めた 止めた

 金輪際 おめーなんぞにいうかー ばーろ

 やっぱり 相談事は横丁のご隠居に限るな 長いこと生きているから

 なんでも知ってらー この間も相談に行った時

 “知らない事以外は 何でも知ってる”って言ってたもんなー

 何でも知ってんだ 自分で言ってたんだから 間違いねー

 せんべーとお茶も出るしなー 今日は 晩メシもゴチになれるかもなー  あれで ご隠居 本当は定年退職後 退屈してんだよ とすると

 オイラは退屈ジイさんのボランティアと言うところだな

 さしずめ 隠居ジイさん支援NPO理事 つーとこだな

 とにかく 人助けは気持ちのいいもんだ

 てなこと言っている内に ご隠居の家だな 

 ごめんよ ご隠居 いらっしゃいますかー」

 〈おー 八 遅かったじゃーねーか まー上がれや〉

 「えーっ まー上がれやって なんだよ おめーら 熊に与太郎

 [どーせ ご隠居のところに来るにちがいねーと思って

 先回りして 待ってた

 どーだ 親切だろー 友達っぁー ありがてーもんだ 感謝しろ]

 「アー アー ヤーダ ヤーダ 来るんじゃなかった

 今日はケール さいなら」

 《マー マー 八っぁん せっかく来たんだ

 お上がんなさいよ

 熊さんも 与太郎さんも お腹すいたと言うので

 いま おばーさんが なにか拵えてるから 八っあんも食べておゆき》 

 「夕飯が 出るの それなら 話は別だよ

 そーならそーと 先に言ってくれねーと 

 こっちにも 都合というものがあるんだから」

 《さー さー お上がり》

 「そこまでおっしゃられるのであれば 仕方が無い 失礼しやすよ

 ところで ご隠居 黄色い ちゃんちゃんこ よくお似合いですよ

 10歳は若返って 見えますよ 75・6には見えるなー」

 《そおですか 75・6ねー 私はちょうど75だから 

 まーまー それはそうとして こちらへ来て “ねまりなさいよ”》

 「はー 何ですって 聞き慣れないことをおっしゃいましたね

 ご隠居 黄色いの着てたので まさかとは思ってたんだけれど

 ほら 黄色い“菊ちゃん”のウィールス

 感染したんじゃーねーでしょうね

 やばいよ 訳の分からないこと言い出したら はやく手当しないと」

 《あー あー それはそうでしょう 私も初めて言ってみたのだから

 今ね 与太郎さんにね 教わったばっかり

 “ねまりなさいよ”というのは “座りなさいよ”と言う 北海道弁

 「やっぱり ひょっとしたら 夕飯は 北海道弁

 カニやらイクラやらホタテのいっぱいはいったやつ

 今日はついてるな ご隠居 申し訳ありやせんね ほんとーに」

 《困りましたねー すっかり与太郎さんのお株を奪ってしまって

 北海道の方言ですよ

 とにかく 座って 座って

 ところで 八っぁん なにか相談事がおありとか

 聞こうじゃー ありませんか》

 「おっといけねー 忘れるところだった

 いきなり 北海道弁なんて言われたもんで

 すっかり うれしくなっちまって

 実はね 

 こら 与太郎 お前は聞くなよ あっちへいってろー

 ややこしくなるから

 ご隠居 やつに聞かれると ややこしくなるから

 小声でおねげーしやすよ

 実は 他でもない

 “ニワトリが先か タマゴが先か”って言うやつですよ

 孫に聞かれやしてね どーも うまく説明できなくて

 そこで ちょこちょこっと ご隠居に教わろうと思って

 決して 夕飯を目あてに 来たわけではねーです へー

 お茶やおせんべーも」 

 《はいはい お茶ね おセンベーもね

 熊さんちょっとお願いしますよ

 おばーさんが料理で 手を離せないので

 そうそう そこに用意してありますから お茶を入れて下さいよ》

 「ご隠居 どうだね どっちが先なんですかねー

 お茶か おセンベーか 

 じゃーなくってさ ニワトリとタマゴ」

 《いやいや これは弱りましたねー

 お茶か おセンベーだと 熊さんが 

 すぐに結果を出してくれるんだがねー

 ニワトリとタマゴねー

 お茶か おセンベーかじゃー だめかね 八っぁん》

 「それじゃー とりあえず お茶かおセンベーの方を 先に片付けてさー

 その後で ニワトリとタマゴをやっつけることにしてはどーでげしょう 

 待てよ メシもあるなー 

 ということは 食後のデザートも 

 コーヒーかなー 紅茶かなー 

 フルーツかなー ケーキかなー 

 こりゃー弱ったぞ どれから いくかなー 

 ねー ご隠居 ことの 前後 物事の順番は 難しーもんだねー」

 《どうだろーね 八っぁん コーヒーだけと言う訳には行かないかねー》

 「オイラは どっちかと言ったら 紅茶の方でおねげーできれば 

 へえ さらに どっちかと言ったら ミルクティーの方で 

 へえ よろしくおねげーしやす」

 《あいにく ミルクを切らしているので

 レモンということで お願いできませんか》

 「へー へー 品切れとあっちゃー しょーがねー ようござんすよ 

 レモンもサッパリとしていて いいもんだ 

 ヘエ それでは ミルクティーの方は 次回に と言うことで 

 ヘエ フルーツとケーキの方も 次回ということで」

 〈こら 八公

 おめー ニワトリか タマゴかのことで来たんでねーのか 

 それを次回のデザートまで 予約しやがって とんでもねー奴だ 

 ねえ ご隠居さん 

 オイラは どっちかと言えば コーヒー党の方でして

 ヘエ フルーツとかケーキとか となりますと

 どちらかというと わがまま言って申し訳ねーが

 お団子の方が 好きやねん

 ヘエ それも ヨモギの入った 草団子

 アンコのタップリついたやつ モー たまりまへんなー

 オイラの方も 次回の御予約をひとつ

 ヘエ どーぞ宜しく

 今日のところは おセンベーで我慢しますんで ヘエ〉

 《コーヒーにアンコロ草団子ですか 結構な御嗜好でございますね

 その上 我慢までさせてしまって 恐縮いたします

 申し訳ございませんねー 確かに承りました 

 ドーゾ またのお越を》

 「ちょっ ちよっと待って おくんなせー

 ここで お開きは ないでしょう そんな 殺生な

 見ろ 熊 おめー 勝手なことばっかし ぬかすから

 ご隠居さん すっかりへそ曲げちゃったじゃーねえか」

 《へそまで 曲げさせて頂きまして 申し訳ございませんね 本当に》

 〈まー まー まー ご隠居 年甲斐も無く

 そう 怒らなないで下さいよ〉

 《年甲斐も無くて わるうござんしたしね

 重ね重ね 恐縮でございます 本当に》

 「まー まー ご隠居 おさえてくだせーよ」

 [こら おめーら 黙って聞いてりゃー

 勝手なことばっかり ぬかしやがって オラの存在はどうなる]

 〈与太郎 おめーは 出て来るんじゃーねーつーの〉

 [んにゃ そうはいかねーだよ まだ 予約が終わってねー]

 《はい はい はい 御注文をどうぞ》

 [ご隠居に そこまでいわれりゃー ご注文しねーのも失礼だな

 オラー たってのことといわれると 断れねー 質(たち)なんだよ

 しょーがねーから 注文してやる]

 《はいはい 恐れ入りますね お手数をとらせて

 申し訳ごでいませんね どーぞ お手柔らかに お願いしますよ》

 [ご隠居 知っての通り オラー 八や熊のような無粋ではねーだよ]

 《はいはい よく存じ上げております 手っ取り早く どーぞ》

 [ご隠居 オラー こう見えても

 食い物については ちょっと うるせーだよ 

 お抹茶羊羹だ]

 〈な なんだ いきなり大声 出しやがって

 べらぼーめ うるせーなー〉

 [だから ちゃんと うるせー と前置きしといたでねーか] 

 〈なんだ おめーの うるせー というのは

 声のことかー 確かにうるせーや

 あー ビックリした 見ろ 

 ご隠居 気絶しちゃたじゃーねーか

 おばあさんも 丼ひっくり返しちゃったぞ

 責任とれよ 与太郎

 [オラも男だ 責任はとるだよ 国会議員と一緒にするな

 けんど そもそもは おめーらのせーだぞ

 デザートの予約なんぞ 始めやがって 

 おめーらも ここに来て整列しろ いいか おらが号令かけるからな

 それまで頭を上げてはなんねーぞ

 気をつけー いちどー れい]

 〈それは さっきやったから もー いー つーの

 二番煎じは 受けが悪いんだ おぼえとけー ぼけー〉

 [ご隠居 目え覚まして おくんなせーよ

 わかってますよ ご隠居 もう 気がついているんでしょ

 ニワトリが先か タマゴが先かの 難題に 困って

 死んだ振りなんぞしてー

 オイラには おみとーしだよ ご隠居

 《死んだ振りなんぞ してはおりませんよ 本当に気を失いかけたの

 もう ビックリしたなー

 本当に あぶなかった あやうく 落命するところでしたよ》

 [ご隠居 また そんな大袈裟に オーバーなんだから いい年こいて]

 《こいてー こいて とはなんです 本当におこりますよ このボケ》

 [ボケー]

 《あっ 聞こえちゃいましたか 申し訳ありません

 ついつい 感情的になってしまいました

 勘弁して下さいよ 与太郎さん》

 [おう 謝ればいいだよ 謝れば 

 オラー こう見えても 心はひれー  ご隠居とは違う]

 〈与太郎 いい加減しろー はったおすぞー このー

 勘弁して やっておくんなせー ご隠居様 

 こいつは 口は悪いが 腹の方は 悪くねーやつでして ヘェ〉

 [そーだよ おらー 腹は悪くねー いたって丈夫な方だよ

 口だって わるかーねーよ

 虫歯は1本もねー 健康優良児だ なんでも食える まいったか

 だから早く メシ食わせろ]

 「ヨタロー  テメー」

 〈ゴツーン〉

 《これこれ 熊さん 乱暴はいけません

 体罰を加えると 後が面倒ですよ マスコミがうるさいから》

 

 [これはこれは ご隠居さま 大変ご無礼をば致し奉り候

 誠に申し訳ござりませぬ

 ひらに ひらに お許しのほどを

 伏して お願い申し上げ奉りまする]

 《ど どうしました 与太郎さん わたしゃー 黄門様ではありませんよ  印籠など出しておりませんよ》

 [いやいや 拙者 只今のショックで これまでの 頭にかかっていた  スモッグが 一度に すーっと 消えたようでござりまする

 一点の曇りもなく 晴天 日本晴れ スッキリでござりまする

 これは 突然変異 と言うものでござりましょか

 お見受け致すところ ご隠居様は

 ニワトリが先か タマゴが先か という難題に

 いささか窮しておられるご様子 宜しければ

 拙者に お任せ下さりませ

 聊か出過ぎたまねで はなはだ恐縮ではござりまするが

 私めが代って ご説明申し上げても結構でござりまする]

 「よ よ 与太郎 お おめー 頭おかしくなっちまったんでねーか 

 言ってることが まともだぞー 大丈夫か」

 [おっ これは これは 八殿

 常日頃は 大層お世話をお掛け申し 忝のうこざる 

 厚く御礼申し上げまする 今後とも 何卒 変わりませず

 どうぞ 宜しくお願い申し上げまする 御座候

 「御座候 後遺症が出たのかー これでは

 カトちゃんの マンネン とおんなじだよ でも

 あんまり完璧なより こっちの方が 安心できるなー」

 [熊殿も 何卒 宜しくお願い申す 御座候

 〈ヘエヘエ こちらこそ 宜しく 御座候

 いけねー うつっちゃったよ〉

 [ところで ご隠居様 お茶とおせんべーの件でござるが

 これは 失礼つかまった ニワトリとタマゴの件で 御座候

 ニワトリが先か タマゴが先か については

 拙者は とーに結論を知っておりまする 御座候

 しかし 拙者の見解を 一方的に押し付けるのは

 いささか 民主的ではなか 候

 よって まずは ご一同の言い分も 無駄ではありまするが

 一応は お伺いしておこうと存じ 御座候 如何でござろう 候] 

 《はいはい 御もっともなことで ようございますよ》 

 [それでは 皆の者 面をあげーい]

 〈なんだー 金さんのお取り調べに なっちまったのか 

 えれーことになっちまったなー〉

 [これ 熊 だから 前に 申しておいたではないか 

 拙者が しっかり したら そちは後悔するぞと

 予め予告しておいたではないか

 それを 今になって 知らぬとは言わせぬぞ

 この桜吹雪がおみとーしだ 

 ふとどき者め 手打ちにしてくれる]

 (お奉行様 どうぞ これを お使いくださりませ)

 《これこれ おばーさん 麺棒など持ち出してはいけません 

 ソバを打とうと言うのではありませんから》

 [それでは これ 熊 そなたから始める 

 思うところがあれば 包み隠さず 申してみよ 候]

 〈えれーことに なっちまったなー ホントーに

 想定外の展開だ こーと知ってりぁー

 でけー 防波堤をつくって置くんだったな

 まいったねー こまった もんだ〉

 [これ 熊 クマッタもんだ などとしよーもないこと申しておらず

 さっさと 申しひらきせずば 手打ちに致すぞ

 麺棒も用意できていることであるし さー申せ]

 〈分かりましたよ モーセばいいんでしゃろ モーセ

 さーてと さっき 八 の野郎は 最初に 何と言ったかな

 こんなことんなるんだったら ちゃんと覚えておくんだったな

 めんどーくせーが 遡って 見直せば いいってもんよ

 ああ あった ここだ ここだ そうだ 

 “ニワトリが先か タマゴが先か”と言いやがったのだ

 これがはっきりすりゃー もう こっちのもんよ

 わかったぜー 簡単なこった

 ニワトリが先

 八 のやろー ニワトリの方を先に言いやしたよー 

 だから ニワトリが先 したがって タマゴは後 明解な論理だ 

 大岡様なら きっと こう言うにちげーねー

 でかした 熊殿 これにて一件落着ー なんってね〉 

 [これは これは 熊殿は そーきなすったか

 いいところに目をつれられた 

 熊殿 としては 稀なる お答え 

 地震が こなければ 良いが

 まー 一つの見解として おきやしょー 候

 それでは 次に 八 貴殿が持ち込んだ問題である

 手に余したのであろうが 少しは 考えたこともあろう その頭でも 

 どうじゃ 無理とは思うが 申してみよ 候]

 「ヘー ヘー 候 候

 分からねーから 持って来たんじゃー ねーか べらぼーめ

 それが 分からねー というのは お前も 相当アホだな

 ねー ご隠居

 《八っあん いきなり こちらに 振らないで下さいよ

 こちらにも 心の準備と言うものが あるんですから》

 

 [よいよい 矢張り そちの頭では 無理でござった

 時間の無駄というものでござる 

 それでは 次に ご隠居殿 よろしゅー ござるか

 心の 準備は 出来てござるや 

 心して ご披露くださりませ

 御答の如何によっては 今後のお立場にも

 差し障りが生じ申しかねまするで 御座候

 《そう来られると 弱りましたねー どーも

 実は 何ですなー 人には誰にでも

 得手不得手と言うものがありましてな

 先に 八っあんに言ったことがあるように 私はね

 “知らないこと以外は 何でも知っている”と言うことでして 

 ニワトリとタマゴについては 稀にある

 なんと どちらかと 言うと 知らないことに やや近いと言うか

 知っていることに かなり遠いと言うか まー 正直なところ

 そのような状況で そのあたりを弁えて お聞き下され》

 [ご隠居様 なかなか歯切れの良くない ご様子で

 お手上げ 降参でござるか 候]

 《いやいや これくらいのことで 降参と言うことでは ありませんよ

 幾つか 答が と言いますか やや答えに近い と言いますか

 答らしき と言いますか

 まあー そのようなものが 浮かんでは おりますよ》

 [ご隠居さま 前置きは ほどほどにして

 どうぞ ご披露のほどを 御座候

 《そうですか それではいきますよ

 熊さん あなた 回転寿司 知ってますよね》

〈エエ 知ってますよ いくらオイラでも

 回転寿しくれーは知ってますよ 

 回らねー お寿司屋さんは あまり縁がありャーしませんが

 回る方は良く知ってやすよ〉

 《それなら話は早い

 たとえばですよ 回転台の上がサーモンとイクラばかりの場合

  サーモン イクラ サーモン イクラ サーモン イクラ

 という順で回って来たとしたら

 熊さん あなた どちらが先か分かりますか》

 〈ご隠居 さっきから 考え事していると思ったら

 サーモンとイクラの関係を考えていた さすがでがんすねー

 ニワトリとタマゴを サーモンとイクラに置き換えて

 煙に巻くつー魂胆で〉

 《煙に巻こうーなんて 人ぎきのわるい たとえばですよ たとえば》

 〈ご隠居 よーござんすよ 回転寿司

 おごってくれるんでしたら オイラ すぐ

 ご隠居の説明に納得しやすから 孫も回転寿司が でー好きですから 

 今度 ニワトリとタマゴのことを言い出しやがったら

 すぐ 回転寿司に連れて行って 煙に巻いてやりますから ヘエ〉

 [これ これ ご両人 

 何を ひそひそ やっておられるのかな 御座候

 〈いけねー 聞こえやした ちょっと 回転寿しの 予約の方を ヘエ〉

 [なに 回転寿しの 予約を

 それは いつでござる 拙者の予約も 一つ よろしゅう 御座候

 「こーら おめーらだけで けしからんぞー

 オイラの存在を忘れるなー」

 《弱りましたねー 八さんまで 食べ物の事になると

 耳が聡いのだから

 たとえば たとえば の話ですよ

 まったく油断も隙もありませんね 本当に

 サーモンとイクラが 交互に回って来たとしたら

 どちらが先か分かりますか という話ですよ》 

 〈ご隠居 そんなの わけねーよ

 片っ端から 食っちまってよ ぜーんぶ 食っちまって 

 職人さんが 次に どっちを先に置くか 見てれば

 すぐに分からー それで決まりよ〉

 「それによ マグロイカやタコの立場はどーなってる てこってすよ 

 卵焼きの乗っかったのはあるが

 ニワトリの乗っかった寿司は オイラまだ食ったことはねー

 そんなでけーの食ったら たった一つで

 もう ケッコー なんちゃって」

 [ご隠居 かなり分が悪くなってまいりましたが

 そろそろ 降参した方が宜しくはござりませんか 候]

 《いやいや まだまだ 参りませんよ

 それでは サーモンとイクラの相盛りだったらどうです》 

 「ご隠居 やけに 回転寿しにこだわりますね

 たまには 回らねーお寿司屋さんで 板さんとさしでさー

 今日は トロの特上が入ってますぜー だんな なんて 言うでしょ

 そしたら オイラが 

 おう 大トロをどんどん握ってくんねー といくでしょ

 そしたら ご隠居が 八っあん 頼むから

 かっぱ巻か かんぴょう巻 にしてもらえないかい

 なんて シミッタレタことを 言うでしょー

 そしたら オイラは いやいや ご隠居 そんなお気遣いは ご無用と  大トロを パクッと いくでしょー」

 《八っあん いいかげんに してくださいよ

 せいぜい サーモンとイクラの相盛り くらいいにしてくださいよ

 頼みますよー

 そうじゃないでしょー まったく

 サーモンとイクラの相盛りが 続いて回って来た場合にですね

 サーモンとイクラのどちらが 先か ということですよ》

 〈ご隠居 何で サーモンとイクラに こだわるんでやんすー

 オイラはね タラコも好きなんでー

 ヘエ カズノコもいいもんでやんすよ

 ホタテもホッキも もー たまりまへんなー

 そう カニを忘れてはなんねーな ウニも

 ご隠居も ご遠慮なさらず どんどん いってくだせーよ

 カッパ巻とカンピョウ巻〉

 《誰か 止めて下さいよ 

 私は おごるなんて 一言も 言ってはおりませんよ

 サーモンとイクラが 具合が良くないと言うのであれば

 ネタを替えましょう

 カニカニッ子ではどうです

 たとえばですよ 回転台の上がカニカニッ子ばかりの場合

 カニ カニッ子 カニ カニッ子 カニ カニッ子と回って来たとしたら

 カニカニッ子 どちらが 先かわかりますか》

 〈おっと 今度は カニカニッ子できやしたか ご隠居

 いいでがんすよ オイラは カニは大好物 どんどんいけや

 カニッ子も 好きですねん 奥歯でかむと プチプチときやしてね

 ご隠居は 相変わらず カッパ巻とカンピョウ

 まあ どんどん いって下せえ〉

 《何も 熊さんの好みを聞いているわけでは ありませんよ

 どちらが先か 判りますか と言う話ですよ》

 「ご隠居 たのみますよ

 サーモンとイクラが カニカニッ子に変わっただけではねーですか」

 《それでは ちょっと嗜好を替えて タラコと鱈の三平汁ではどうです

 鱈の握りはあまり一般的ではありませんので

 汁物で 行きやしょう》

 「ご隠居 汁物は別注文で 回転台に載って回ってはきませんよ」

 《回っていなくとも お姉さんが 注文取りにきます》

 「てーと タラコ一皿とって 三平汁一杯注文して

 また タラコ一皿とって 三平汁一杯注文して

 また タラコ一皿とって 三平汁一杯注文して

 と永遠に続くのでやんすか」

 《悪いですか》

 「タラコはともかくとして 三平汁は 二杯くれーで 限界がきますよ」

 《と言う事は 初めに 三平汁を二杯やってもらうと

 お腹いっぱい と言うこですね 寿司は食べられなくて

 安上がりになりますね》

 [ご隠居様 突然変異以前のオラのようなことを

 言い出されては 困ります

 ここは もう降参されては如何でございましょうか 候]

 《どーも 参りましたね これは》  

 [おお ご隠居様 参りましたか ついに降参ですなー 候] 

 《えーえー わかりました

 それなら 与太郎さんの お説を窺おうではありませんか 

 納得の行かない場合は 寿司 おごらせますよ 本当に》

 [それでは ご説明申そう 予想通り スッカリ

 むだな時間を費やしてしまい申した

 さてと ニワトリが先かタマゴが先か という問題でござるが

 この設問に いささか 疑問が 御座候

 そもそも ニワトリ というのは

 庭におるのでそのような名となったのか

 いつも 2羽でいるので

 ニワトリという名になったのか と言う

 全く 基本的な問題が 御座候

 「与太郎 腹あ 減ってきたので 簡略に頼むよ」

 [お そういえば そうでござるな 

 名前の問題は 今度 寿司を食べながらと言うことにして

 次回まわしと致そう

 ところで ニワトリ と申しても

 孵化して間もない ヒヨコ 

 少し大きくなって 若鶏  

 そして成熟して 親鳥 

 そしてご隠居のようになると ヒネドリ と呼ばれる]

 《ヒネドリで 悪うござんしたね まったく》

 [ヒヨコ 若鶏 ヒネドリは いずれも

 ニワトリに違いは有りませぬが

 これらは タマゴを産むことはありません

 若鶏になると タマゴを生みますが まだ小さめのタマゴですな 

 従いまして ヒヨコ 若鶏 ヒネドリは

 ここで言う タマゴ との関係が 生じませぬ

 ここまでは お分かりかの 熊殿] 

 〈へえへえ これっくれー のことは 分かりますよ

 わざわざ ご指名でお世話をおかけ致しますね 本当に〉

 [従いまして 成熟期にある 親鳥 だけが タマゴを産むわけでして 

 親鳥 だけが タマゴとの関係がある訳でござる

 と言っても 親鳥には オンドリとメンドリが 御座候

 そもそも オンドリはタマゴを産みません

 良いかな 八殿]

 「へえへえ それっくれーのことは分かりますよ

 いちいち きくなつーの こうるせへなー」

 [親メンドリだけが タマゴを産むわけでござる

 よって ニワトリ先か タマゴが先かという設問は

 幾分 具体的に 言い換えますと

 親メンドリが先か タマゴが先か という設問となる訳でごわす

 ここまでは お分かりかの 熊殿]

 〈いちいち うるせー つーの さっさと 先にいけ ばーろ〉

 [ところで ここで注意を要することが一つござりまする

 と申すのは 親メンドリは器用なもので 

 オンドリと交尾をせずに タマゴを産むのでござる

 このようにして産まれた タマゴは無精卵と言われ

 孵化しない 要するに将来親鳥にはならないタマゴでござる

 一方 交尾の末に産まれたタマゴは

 有精卵と言われ 孵化して 将来親鳥となりうるのでござる

 要するに オンドリとメンドリがいて この交尾により

 産まれたタマゴが 成長して 次世代の親鳥となり

 タマゴを産むと言う サイクルとなっている と言うことでござる

 ここまでは お分かりかの 八殿]

 「うるせーつーの さっさと 先にいけ おたんこなす」

 [ここまで 問題を 整理しますと いくら何でも

 ご隠居様は もうおおよその 見当がおつきで 御座候

 サーモンとイクラ ではこうはいきませぬぞ]

 《サーモンとイクラで 悪うござんしたね

 回転寿しには乗って来たくせに》

 [ご隠居様 なんぞ申されましたか 

 ご意見がある場合には 要点を整理の上 ハッキリとお願い申しまする 

 ご隠居さま この設問に 答えてみる 勇気がござりまするか 候]

 《親鳥がいなければ タマゴが生まれないであろうし

 タマゴから成長したのが親鳥であろうから 

 依然として 問題は解決してはいないと思われますが》

 [これはしたり ご隠居様ともあろうお方のご質問とも思われませぬ

 ご隠居様 よもや 社会における 一般的な論理を

 御存じないのでは ござりましょうの

 そもそも 親鳥とタマゴの関係は 言い換えますれば

 親子の関係に 御座候

 従いまして 親は子を生み申すが

 子が親を生み申すことは なかとですたい 候

 従って タマゴが先と言うことはござらぬ 

 タマゴが先となり申すと 一般的論理からすれば

 子から親が生まれ申すと言うことになり

 実は子が親であるという事になる

 すなわち 親 イコール 子 と言う

 訳の分からぬことになり申すのでありまする

 このような 訳の分からぬ論理では

 世の中 ややこしくで 困ることになるので 御座候 

 よって 親から子が産まれると言う順序が

 世の中の論理となっているので 御座候

 したがって 親鳥が先で タマゴが後

 すなわち 最初の設問に戻せば

 答えは ニワトリが先で タマゴが後 ということで

 これで 一件落着というものでごわす 御座候

 よって ご褒美の 回転寿しは拙者のものにて 御座候

 《待って下さいよ

 しかし 何か すっきりしませんよ

 それでは 最初の親鳥は どこから 来たのです》

 [そう来ると思ってましたよ

 それには とっておきの答を用意して 御座候

 それは 元はとはと申しますると 

 突然変異 というもので 御座候

 「なにー 突然変異

 突然変異で いきなり 親鳥が飛び出して来たと言うのか べらぼーめ」

 〈おもろいやんけ

 どっちかと言うと オイラはそう言うの 嫌いでははねーよ

 いいねー 親鳥が ぽーん と出て来るのは 威勢がよくって

 ぽーんと 何にも無い所から

 これが タマゴだといけねーな

 ぽーんと来て 落っこちて割れちまったら 一巻のおしめーだ

 やっぱり 親鳥でねーとだめちゅーもんだ〉

 「なんば 言うとっと そげん アホなこつ 

 まったく このスットコドッコイ

 親鳥がだよ 親鳥が ぽーんと」  

 《そうですとも もし 最初に飛び出して来たのが

 オンドリだったらどうします

 コケコッコー なんて 

 タマゴ 産みませんよ

 私は この年になるまで オンドリのタマゴなんと言うものには

 まだ 一度も お目にかかったことはありませんよ》  

 [拙者は 御座りまするよ オンドリの産んだタマゴ

 茶碗蒸にしたのを頂き申した]

 《また そのような 乱暴なことを》

 [いやいや 拙者の家で ニワトリを飼っておりましてな

 雌ではあますが

 オンドリという 愛称で呼んでおりまする]

 《また そのような 屁理屈を》

 [ところで お三方 昔々の そのズーと昔のことであるが]

 「何だ 昔々 お爺さんとお婆さんが

 なんと 言う のではねーだろうな

 お爺さんが 山の中で ピッカリ光る竹をを見つけて

 斧で切ったら

 いきなり 親鳥がぽーんと なんというのではねーだろうな

 かぐや姫ならともかく コケコッコ 姫など さまにならねーぞ

 それとも おばーさんが川で拾って来た桃を割ったら

 中から 桃トリーが ぽーんとなんて言うのではねーだろうな」

 [いやいや そのような スットボケタ 話ではござらぬ

 ずーと むかし ビックバーンとかで 地球が出来て その後 

 そのー 地球上で 無から有となる現象が発生した

 と言うことでありまするよ 

 いきなり 親鳥が ぽーん なんと言うことではござらぬ

 いうならば 生物のもとになる 生命体が突然変異でできて

 すなわち 無の状態から 初めて生命体が出来て

 これが 要するに 親生命体 と申す存在になるのでござるよ]

 「分かるか そんなこと 見てたようなこと言いやがって

 おめー 幾つになる

 そんな 昔のこと 見てたのか 覚えてんのかーよ

 オイラなんぞ 威勢はいいが

 昨日のことも 殆ど 覚えちゃー いねーんだぞ

 べらぼーめー こっちとら 江戸っ子でー 

 宵越しの記憶は持たねーのだ どーだ すげーだろう」

 (さーさー みなさん お待ちどーさま 夕飯ができましたよ)

 [これは これは おばーさま 忝い

 ところで 夕飯は 何でござりまする]

 (決まっているではありませか

 親子丼 でございますよ

 親子丼に 前後はありませんよ

 親子一緒に ぱくーっと行きましょう)

 お後が よろしいようで