《停念堂閑記》43

 「停念堂寄席」34

 

 《与太郎君とご隠居さん》4

 

 〈神様〉1

 

 今日は、にわか仕立ての短編落語もどきの噺です。聊か粗製濫造ぎみでございます。まだまだ未熟でございます。相変わらずたいして面白くはないと思います。どうぞ御海容のほどをお願い致します。

 

 

与:「ご隠居 留守かい」

隠:「与太郎さんかい 相変わらずですね 見れば分かるでしょ

 ちゃんと 在宅中でございます」

与:「在宅中なんて ご隠居 水臭いだよ 

 オラのことは 気にしないで どことなりとお出かけくだせー

 留守番は オラが責任をもって してやるだから」

隠:「それが 困るから こうして 出掛けずにいるのですよ」

与:「ご隠居は 相変わらず 遠慮深いだな

 オラは ご隠居ボランティアだから 何にも遠慮は いらねーだよ」

隠:「ええ 少しも遠慮なぞしてはおりませんよ

 幾分無駄な気を使わなければならないだけです」

与:「ご隠居 無駄な気を使うほど 無駄なことはねーだよ

 なんなりと ボランティアにまかせてくだせーよ」

隠:「ご親切に 痛み入ります

 ところで 今日の御用は何ですか」

与:「へえ ですから ご隠居がお出かけするのであれば

 オラが留守番を という訳でして」

隠:「それは ご心配いりません 私も 婆さんも何処へも 出掛けず

 一日中 家におりますから」

与:「それでは 今日は 何をするか ご隠居と協議の上で 決めることにすべー」

隠:「協議の上ですか 協議中は やはり 

 挙手で許可を得てから発言する という方式ですか」

与:「ご隠居も 結構 根に持つダイプだなー

 この前はたまたま 話のなりゆきで

 発言は 挙手して 許可を得てから と言うことになっただけだよ

 ご隠居さえ 余計なこと 言い出さなきゃー

 フリートーキング でいいだべ」

 隠:「2人で話をしていて いちいち 挙手なぞ していられるものですか」

 与:「実はほかでもねー 以前から ご隠居に 教えてもらおうと

 とっておきの えらく難しい問題があるだよ」

隠:「えらく くだらない 間抜けな話題は 勘弁してくださいよ」

与:「ご隠居 随分 注意深く なっただなー

 みんな オラのお蔭だべ 感謝する気遣いは いらねーだよ

 ボランティアでやってることだからな

 それはそうと ご隠居 神様のことなんだけどよ

 オラも この世に生を受けて以来このかた 

 神様については いろいろと考えて来ただよ

 だけんど 神様については 分からねーことが いっぱいあるだよ」

 隠:「神様についてですか 与太郎さん えらく難しいことを 持ち出してきましたね

 で 神様がどうかなさいましたか」

 与:「ご隠居 奥の部屋に 神棚が まつってあるだよなー

 あの中には 何が 入っているだよ」

 隠:「神棚の中には 近くの八幡様から頂いた来た お札を入れてありますよ

 それが どうかしましたか」

 与:「お札は なんでできてるだよ」

 隠:「何でできているかって 材料は主に 紙ですよ」

 与:「それで カミ様 と言うだか ご隠居

 隠:「神様だなんて 神妙なことを言い出したと思ったら その駄洒落を

 やりたかっただけですか だんだん手の混んだことをするようになりましたね」 

 与:「いやいや これだけではねーだよ」

 隠:「まだ他にも 駄洒落のネタを仕込んであるのですか 

 それでした 早いとこ片付けてくださいよ 私も 嫌いな方ではありませんが」

 与:「それでは 存分にやらしてもらうべー

 ご隠居とは 気が合うなー」

 隠:「いやいや なるべく 早く終わらせて下さい と言うことですよ」

 与:「ところで ご隠居は たまーに 手をたたいて 拝んでいるだよなー

 あれは何をしているだよ」

 隠:「たまーに ではありませんよ 米と塩と酒を お供えして

 毎日 ちゃーんと 拝んでますよ」

与:「何の為に 米をあげるだよ 神様は米くーだか

 食うのなら 何で生米をあげるだ 炊いた御飯でねーと 神様 腹こわさねーか

 仏壇には 炊いた御飯をあげるだよ」

隠:「改まって何の為にと聞かれますと 聊か 戸惑うところもありますが、

 一般的には 今年も御蔭さまで 米が収穫できました 

 有り難うございました と言う感謝の意から 

 米をお供えするのではないのですか

 そして 来年も又豊作でありますように という祈りを込める意味もあると思いますよ

 だから 炊いた御飯でなくても 良いのだろうと思いますが

 神様の食料として お供えする訳ではないように思われますよ

 仏壇の方は ご先祖様に対して 生前と同じように

 お腹をすかせてはいけない と言う心遣いから

 御飯をお供えするのだと 思いますよ」

 与:「と言いますと ご隠居 

 神様は 米の生産コントロールをなさっているわけで」

 隠:「日本では 最も大事な食料が米でしたから 皆米の出来不出来が気にかかっていて

 是非 豊作であって欲しいと思っていたので

 それを神さまに お祈りしたのでしょうね」

 与:「それはそうとして オラが聞きてーのは

 神様は米の生産コントロールをしているのか どうか と言うことでして

 ご隠居 質問のポイントを はずさねーでくだせーよ」

 隠:「これは 中々手厳しいですね 私も良くは分かりませんが

 昔の人々は そのように思っていたのでは無いかと思われますよ

 だから 神様に 米をお供えするのだと 思いますが」

 与:「なるほどね 昔の人は 神様が米の生産コントロールをしていると思っていた

 本来なら その証拠を オラは聞きたいところだが

 これ以上 ご隠居を困らせてはならねーから

 この点については これくれーにするとして

 今は 米も食べるだが

 パン 麺類も多く食べるようになっているだが 

 原料の麦を供えねーで いーだか」 

 隠:「良い所に気がつきましたね

 麦の豊作を願って 麦をお供えするのも良いと思いますよ」

 与:「とするとだな ご隠居の家の神棚には 麦はお供えしていねーだから

 ご隠居は 麦の生産はどーでもいいと 思っているだな

 パンもうどんラーメンも よく食べているではねーか」

 隠:「いやいや まいりましたねー そういう訳ではありませんよ

 弱りましたねー 与太郎さんの納得のいく答は と言いますと

 そーだ こういうのはどうです

 本来 麦もお供えすべきところなのですが うっかりと いまは切らしていて

 お供え出来ていない 状態なのですよ」

 与:「そーかね 切らしている場合は しょーがねーだよな いまは ねーんだからな

 ところで ご隠居は よく冷や奴でいっぺーやってやすが

 豆腐の原料を お忘れではねーでしょーね

 大豆 大豆 納豆もお好きなようで 大豆はどうなります」

 隠:「あいにくと 大豆も 切らしておりまして」

 与:「大豆も 切らしている

 それでは オラがちょっくら スーパーへいってきゃすよ

 千円もあれば釣りが来ますよ だから 千円」

 隠:「おっと そう来ましたか その手には乗りませんよ 

 この前も 帰り道で 突然 犬に追いかけられたとかで

 釣銭を落としちゃったのでしたね 注意しなくては」 

 与:「ところで ご隠居 大根と人参は どーだね これはお供えしなくていいだか」 

 隠:「はいはい 大根と人参も 今は切らして・・・は おりませんね。

 そこに 置いてあるのが見えちゃってますからね。

 そうそう これは きれいに洗って 

 これから お供えしようと思っていたところです」

 与:「これからね うまく逃げやしたね

 ところで ご隠居 ネギと白菜とチンゲンサイはどうします」

 隠:「勘弁してくださいよ 

 与太郎さんが ところで と来るたびに 野菜が増えていって

 これでは 家の 中が 八百屋さんの店先にようになってしまいますよ

 どうしましょうかね

 そうだ こう言うことでどうでしょう

 米が 農産物全部の代表をしている と言うことで」

 与:「なるほど ご隠居 考えましたね むだに年をとっていねーだな」  

 

 与:「さて 次は 塩についてだだ

 ご隠居の米の論法に従えば

 神様は 塩の生産コントロールもしている と言うことになるだが

 それで 異論はないだか」

 隠:「今度は 塩できましたか ショウがあませんな」

 与:「ご隠居 そんな初歩的な駄洒落では 赤ん坊も泣き止みませんよ

 あかんボーは泣いてばっかりで うるさくて ショーがねー」

 隠:「言う程のことはないではありませんか 自分だって ショもないことを」

 与:「ショもない 塩も切らしてるだか ご隠居

 隠:「塩はあります 沢山はありません ショショございます」

 与:「ご隠居 少しは 腕を上げましたね ショウさん に値しますよ」

 隠:「そうですよ 孫も ショウサン になりましてね」

 与:「ご隠居 ショウサン まで来ると 大分 塩っけが抜けて来ましたねー

 ぴりっとしたところがなくなりましたよ」

 隠:「かまやーしませんよ こうなれば 意地ですから

 降参ですか 私のショーリですね」

 与:「コウサンではなくて、ショウサン ではなかったのけー ご隠居

 隠:「馬鹿馬鹿しい これくらいにしまショウ」 

 与:「ご隠居が ショもない 駄洒落やるものだから 話がショれちゃったじゃねーか」

 隠:「まだ やる気ですか ショれなら受けて立ちますよ」

 与:「ショこまで 言うだかよ ご隠居

 隠:「ショらー ショーで ショーよ とことんやりますか」 

 与:「ショんな意地をはらず いい加減な ところで止めるだべ」

 隠:「ショーはいきませんよ ここまで来たのですから」

 与:「ショーちしただよ とことんやるべー」

 隠:「ショーこなくてはいけませんよ」

 与:「ショんなことより ご隠居 この返で お茶にしてはどうだべ」

 隠:「ショれもショーですね くたびれてきましたよ

 おばあさん お茶を入れて下さい」

 婆:「ショショお待ち下さい おじいさん」

 隠:「おばあさんは 駄洒落 やらなくてもいいんですよ」 

 婆:「ショんなこと言わずに 私も混ぜて下さいよ」

 隠:「ショの必要はあません」 

 婆:「お待ちどうさま お茶をどうジョ シオ煎餅もどうジョ」

 隠:「おばあさんは やらなくとも いいと言っているでショ」

 婆:「ショれはショーと おじいさん お昼は おショばにでもしまショーか」

 与:「ご隠居 おばあさんの方が 筋が良いようでねーですか」 

 隠:「ショんなこと言って 与太郎さん

 おショばにありつこうと思っているのではないのですか」

 与:「ご隠居は 察しがいいので助かるだよ

 ご隠居にそう言われると ・・・」

 隠:「はいはい 断れないタチなのでしょう 分かっています

 ところで いまの与太郎さんの発言には シオ関連 が入っていませんでしたよ

 これで 貴方の負けですね」

 与:「ご隠居 食い物のことになると オラは前後不覚になるだよ 

 駄洒落なんぞにかまっている暇はねーだ

 ところで ご隠居 肝心なところの相談だか

 ソバの上に何を載せるかについては オラー とょっとウルセエだよ」

 「はいはい 頼みますから 大声を出さないでくださいよ

 与太郎さんの ウルサイは 声の方ですから」

 与:「ご隠居もすっかり用心深く なったでねーか

 オラは やっぱり 車エビの天婦羅の載ったやつが 得意だよ

 小エビのかき揚げよりも やっぱり 車エビの天婦羅だな

 できれば 3匹のせて頂ければ へえ

 そりゃー もー うまそーに 食ってみせるだよ

 そーしたら おばあさんも 作り甲斐がある と言うもんだべ」

 隠:「それはそれは お気を遣わせて 恐縮です」

 与:「そりゃー ボランティアともなると いろいろ気を回さなくては ならねーだよ

 特に 食い物には

 ところで ご隠居 話を本題にもどすべー

 なんで 神棚に 塩を供えるだよー」

 隠:「たぶん 塩はお清めのためではないのでしょうか」

 与:「なるほど お清めのためにねー

 ご隠居 なんで 塩は お清めに役立つのだべ」

 隠:「だんだん 難しくなってきますねー

 たぶん 昔の人は そのように思ったのではないのですか しょっぱいから」

 与:「ご隠居 ややこしくなると 昔の人のせいにする 癖が出るだな」

 隠:「これはどうもご挨拶ですね それでは 与太郎さんは

 どうして 塩がお清めになるとお考ですか」 

 与:「そうだよ 分からねー時には そのように素直に オラに聞けばいいだよ

 ボランティアとしては 直ぐに 対処するだよ

 それでは 早速 八 と 熊 に調査させるべー」 

 隠:「与太郎さん それは意味がないですよ

 お二人は どうせ私のところに 聞きに来るでしょうから」

 与:「そう言われれば まちげーねー 役にたたねーやろーだな まったく」

 隠:「私は 与太郎さんの意見を聞きたいのですよ」

 与:「こだわるだなー ご隠居も いいだよ ご隠居がそこまで言うのなら・・・」

 隠:「はいはい 断れないタチなのでしょう どうぞ ご見解のほどを」

 与:「ご隠居も人が悪いだよ オラの決め台詞を最後まで言わせねーで

 調子がでねーだよ」 

 隠:「あまり 調子にのられても困りますので 早めに手を打っておきませんと」

 与:「それでは行きますだよ 要点だけを 一回こっきりしか言わねーだよ

 ご隠居 駄洒落にもっていってはなんねーぞ 覚悟はいーだか」

 隠:「覚悟 穏やかではありませんね そんな もったいぶらずに すーっと どうぞ」

 与:「ショっぺー から」

 隠:「なんです やけに簡単にきましたねー しょっぱい からですか」

 与:「そうだよ ショッペー からだよ」

 隠:「だとしますと しっぱいと どうして お清めになるのですか」

 与:「からみますね ご隠居  

 ご隠居だって ショッペー ものには気をつけているでねーか

 だから 神様も 血圧が上がると困るので

 ショッペー ものには気をつけているだよ」

 隠:「与太郎さん その手にはのりませんよ はぐらかさないでください

 私の質問は しょっぱいと どうして お清めになるのですか と言うことです

 神様の血圧の話ではありませんよ」

 与:「そうくるだか ショッペーと 嫌でしょ 特に ナメクジなどは」

 隠:「今度は ナメクジですか その手は食いませんよ 本題にもどって下さい」

 与:「弱ったねー まったく 要するにだ 塩を撒くとだなー

 ショッペー から 嫌な奴らが 寄り付かなくなるだよ 

 だから お清めになるだよ 

 ところで ご隠居 そういえば 昨日 

 オラが帰った後 塩を撒いてたべー」 

 隠:「いやいや あれは ナメクジがいたので それで塩を撒いたのですよ」 

 与:「ご隠居も 都合の悪い時には ナメクジですかい

 オラだって その手には乗らないだよ」

 隠:「おや のって来ませんか これは困りましたね

 こんな時には 反撃することが一番ですね

 それでは しょっぱい から 

 嫌な奴らが 寄り付かなくなる と言うのは分かるとして

 嫌でないものも きっと しょっぱいのは 嫌だと思いますよ

 良いことも 寄り付かなくなったら 困るではありませんか」

 与:「ご隠居 屁理屈ですけー 屁理屈ならオラも嫌いではねーだよ

 しょーぶ といきやすか」

 隠:「いやいや そんな気は 少しもありませんよ 気を悪くしないでください

 ただ ちょっとだけ 気になったものですから」

 与:「そーですけえ じゃー しーうぶは またとすることにするべー

 強いて言えばだよ

 昔の人は 素朴だったから ショッペーと 嫌な奴らが 寄り付かなくなるから

 お清めになると 思っただよ ご隠居

 隠:「それは 私が 初めに 言ったことと同じですよ」

 与:「それでは また 初めから やり直すベーか」

 隠:「いやいや それには及びませんよ まったく」

 婆:「さあさあ お待ちどうさまでした

 オショバができましたよ」

 隠:「おばあさん むしかえさないでくださいよ

 もう 十分ややこしいのですから」 

 与:「おや 車エビのテンプラですけー  ご隠居は 車エビのテンプラが好物で

  オラも大好物 しかも3本も まるで催促したみてーで

 さすがは おばあさん いつも気がきーてますね」 

 婆:「はいはい 与太郎さんの催促には 慣れておりますから」

 隠:「そうです そうです おばあさん 思いっきりいってやった方がいいですよ」

 与:「ご隠居 そんな人聞きの悪い ほんのボランティアの一環だーよ

 それでは 早速 ゴチになるだよ 

 まず 七味をパラパラ とやりやしてね 

 最初に エビ天をひと口 パクリ とね

 この食感が たまらねーだよ

 最初に 適度にやわらかくなった衣がトロッときて 車エビがコリッときますぜ

 たまりまへんなー おばあはんは 料理の達人でおますなー」

 婆:「与太郎さん あなた大阪弁になってますよ」

 与:「オラー うめえーものにありついた時には 前後不覚

 江戸っ子だっちゅーことも ころっと忘れて しまいますねん」

 隠:「おや 貴方 たしか タマッコ ではありませんでしたか

 奥多摩生まれの 奥多摩育ちの 生粋のタマッコでは」

 与:「ご隠居 タマッコのことは 又にするべー 長くなると困るだから

 折角の オショバが のびてしまうだよ」

 隠:「それはそうとして おばあさん 私のには

 エビ天 2本しかのっていませんよ 与太郎のは3本なのに」

 与:「ご隠居 また 子供みてーなことを ほれ おらのを分けてやるだから」

 隠:「止めて下さいよ そんな食べかけのを  冗談ですよ」

 隠:「それにしても おばあさんのにも 3本のってますね」

 婆:「それでは これを」 

 隠:「また  食べかけのは いーといっているでしょ」

 与:「ところで ご隠居 噺家さんは ソバを食べる仕草が 上手だよなー

 扇子を箸に見立ててよー ジュー ジュー と上手にすするだよ」

 隠:「そうですね 美味しそうに やりますなー」

 与:「それから “時ソバ”では 竹輪麩の食べるところもやるだよ 

  しかし ソバ以外の具を食べる仕草は あまり見ねーが

  どーだーべ エビ天食べる 仕草は」

 隠:「そーですね それでは 与太郎さん やってみますか」 

 与:「オラがか オラはそのようなことについては ちょっと うるさいだよ」

 隠:「まさか 大声を出す気では ないでしょうね」 

 与:「でーじょーぶですだよ 静かにやりやすから

 それでは いくだよ

  ・・・・・・・・・・・・・・・ 」

 隠:「与太郎さん 静かにと言っても 何にも 聞こえませんよ」

 与:「ご隠居 オラは 上品に 音を立てずに食べるだよ」

 隠:「これは 1本とられましたな」

 与:「だから ご隠居のエビ天 1本足りなかっただよ」

 隠:「これはこれは また 1本とられましたなー」

 与:「もう1本もらえるだか わるいだな ご隠居

 隠:「そうは まいりませんよー 危険を感じて 先に 食べてしまいましたから」

 与:「ご隠居も オラのこと 相当分かってきたみてーで 

 こりゃー 新しい手を考えなきゃー ならねーど」

 

 与:「天麩羅蕎 大変おいしゅーごぜーやした このご恩は一生 忘れはしねーだよ」

 隠:「これは これは 御丁重に 痛み入ります 喜んで頂けて宜しゅうございました

 それにしても “このご恩は一生忘れません”と言うのは

 ちょっとオーバーではありませんか」

 与:「やっぱり ご隠居も そう思いやしたか

 実は かくゆう オラも そう思っただよ

 やっぱり ご隠居とは気が合うだなー

 でも ご安心くだせー オラ 一晩寝たら ころっと 忘れるタイプだから

 何せ 江戸っ子なもんで 宵越しの記憶は 持たねー 主義なもんで

 へえ 明日には 今日ゴチになった 天婦羅蕎のことは ころっと忘れてるだから

 明日も 天婦羅蕎で なんら 問題はねーだよ」

 隠:「さよーで 余計なことを聞いてしまったようで ヤブ蛇でした」 

 与:「へえ オラも ヤブ蕎はでー好きで

 更級系もようがすが ヤブの方がいいですだー

 オラに ソバのことを語らせると ちょっと ウルセーだよ」

 隠:「はいはい 存じております 大声を出さないでくださいよ

 ソバの話は これで打ち止めです」 

 与:「さすが ご隠居 そう きゃしたか ソバだけにウチどめ

 油断できやせんねー 一瞬の隙をねらってきやすね」

 隠:「いえいえ そんな積もりは ありませんよ

 たまたま 結果としてそうだった と言うことですから」

 与:「ソバで こーゆーのをやられと 1ぱつくれーは

 ウチけーしておかねーと オラの メンつー にもかかわるだよ」

 隠:「まいりましたね そーきましたか それではと

 そー ソー バーさん ちょっとお願いしますよ」

 与:「ご隠居 それはちょっと ちから技ではねーだか

 達人のオラだから 気がついたけんど  

 かなり無理を言っテンドン」

 隠:「ごメンなさい ごメンなさい

 しかし あなただって ちから技ですよ ソバからテンドンは

 なんですか ソバ屋さんのメニューなら 何でもあり ですか

 戦線を広げると 収拾がつかなくなりますよ

 どちらが勝つか カケますか」

 与:「そーくるのなら カケ ザルをえねーな」 

 隠:「私だって モリ モリ 食べて カツドン」

 与:「タヌキ じいさん 本気でやるだか」

 隠:「タヌキ とはなんです 自分こそ はななんぞたらして はなオカメ」

 与:「オカメときゃしたか なにを いっテンドン はななんぞたらしてねーだよ」

 隠:「そーですか はなではないとすると ソバがくっついてる カモナン」

 与:「それなら この七味を山モリ カケ たのを食べてみなせー カレードン

 そろそろ ソバは品切れ模様ですゼ ご隠居 ラーメンにと いきやすか」

 隠:「いやいや 与太郎さん ラーメンに持ち込み

 更にラーメン屋さんへ 

 更に更に 中華料理全般に戦線を広げる作戦でしょう

 その手にはのりませんよ

 ひとまず 休戦ということで どうでしょう」

 与:「食後の腹ごなしに ちょーど よかったでねーか 勝負は持ち越しだ

  

 それでは 御馳走になった勢いで

 残りの 酒 といきゃしょーか ご隠居

 隠:「まだ 忘れずにいたのですか 与太郎さん」

 与:「オラ 一晩寝ると 忘れるだが ソバ1杯くれーでは 忘れねーだよ

 オラ これでも ものわかりは いい方だよ 

 カツ丼 1杯で 手をうっても よーござんすよ

 酒 のことなど ころっと 忘れてみせますだよ ご隠居

 隠:「いえいえ そんなお手間は おかけ致しませんよ

 手っ取り早く 片付けましょう」

 与:「しかし ご隠居 酒は 物が物だけに サケては通れませんよ」

 隠:「いえいえ ここは 寄り道をサケて さっさと いきましょう」

 与:「ご隠居 神様は やっぱり 酒の生産コントロール

 おやり遊ばしていたのですけー」

 隠:「さー それはどうでしょーね 

 江戸幕府が 酒の生産調整をやっていたことは ありますが

 その時に 神様が関わっていたのか どうかまでは知りません」

 与:「いきなり 江戸幕府ですかえ ご隠居 得意分野に引き込もうとして

 まー 折角だから ちょっとだけ 窺うことにすべー

 くれぐれも ちょっとだけだよ」

 隠:「与太郎さんが たってと言うのであれば

 私も 頼まれると断ることが出来ない性格ですから

 微に入り細に入り 参りましょう」

 与:「ご隠居 オラー こう見えても 堅い話は めっぽー よえータチで

 堅い話は 直ぐに寝てしまうだよ

 だから さわりだけ ほんのさわりだけにしてくだせー 

 ほんま たのんまっせー」

 隠:「おや また 大阪弁がでましたねー」 

 与:「へえ 堅い話となると もう 脳みそが混乱して 言語障害を起こしまんねん」

 隠:「それでは ほんのさわりだけにします

 頃は 17世紀末 元禄時代 お犬さまでおなじみの5代将軍綱吉の時 

 今風に言えば 元禄バブルとでも言いましょうか

 町人文化の花が こう ぱあーっと開花しまして

 世上は大盛り上がり 酒の消費量もウナギのぼりに増加してきました

 この状況の出来(しゅったい)に 幕府は 酒の消費量の増加によって

 本来の食料としての米の流通量の減少を心配し出すわけです

 ここで 酒の生産量のコントーロに乗り出す と言うわけです

 時を同じくして 幕府の方は 出費が膨れ上がり 大変な財政難に陥っておりました

 そこで 幕府は色々な税を考え出しまして

 酒の生産量を制限する一方 課税すことを始めたのです

 この税を“酒運上”と称しますが 商工業者に対して

 幕府が初めて課した税とされているな」

 与:「グー グー ・・・・・おかわり」

 隠:「これこれ 与太郎さん もう寝ちゃったのですか  寝言まで言っちゃって

 起きなさいよ 与太郎さん」 

 与:「おかわり ・・・ おか ・・・ ご隠居 ひどいでねーか

 オラ いまウナドンのおかわりをしたところで

 そこを起こすなんて ご隠居 責任をとってもらうだよ

 明日の 昼は ウナドン に決定だべ」

隠:「冗談ではありませんよ 私の話も聞かず ウナドン食べて おかわりまでして

 あなただけ ずるいですよ」

 婆:「そうですよ 与太郎さん あなただけウナギを食べたなんて

 わたしだって ウナギと聞いては だまっていられませんよ 

 ウナギについては そうとう うるさい方ですから」

 隠:「おばあさんまで 大声ださないでくださいよ この間 大声出して

 入れ歯を 飛ばしたんですから」

 婆:「そう言う おじいさんも 以前 ゴキブリにたまげて 大声だして

 入れ歯飛ばしたではないですか

 うまいこと 入れ歯が ゴキブリに命中して 

 気絶しているところを 捉えることができて よーございましたが

 その後 入れ歯の使い心地はいかがですか」

 隠:「おばあさん 止しましょう 天然の夫婦 と間違えられますから」

 与:「そうだよ ご隠居 ウナギは やっぱり 天然に限るだよー」

 隠:「これは余計なこといいましたね

 ウナギの旨いところを 与太郎さんに持っていかれてしまいました」

 与:「ご隠居 酒をお忘れではいないでしょうね 

 どうして 酒をお供えするのだべ」

 隠:「酒はですね 昔は きっと 大変貴重なものだったのでは無いのでしょうか

 だから 普段は今のように すぐ 飲めるものではなく

 特別な方を おもてなしする時でなければ

 用意することができないものだったのではないのでしょうか

 だから 神様は特別な存在ですから 感謝の念を込めて

 おもてなししようと したのではないのでしょうか」

 与:「そうすると なんですかい ご隠居

 分かりよく言えば 神様を特別扱いにして

 酒を飲ませて もてなしたということだか」

 隠:「まあ そういうことではないでしょうか」 

 与:「と言うことは 神さまに酒を飲ませて 機嫌よくしといて  

 今年も 豊作にしてくだせえ と持っていくわけで」

 隠:「そのようにいえば そのようなこととも言えますね」

 与:「へえー 昔の人もなかなかやったもんだなー

 神様 酔っぱらわせておいて 豊作を約束させるなんざー

 そうとう したたかでげーしたね」

 隠:「昔の人々は きっと 

 神様が自然現象を引き起こすと思っていたのではないですか

 神様が怒れば 大風 大雨 暴風 台風 干ばつなどを引き起こすと

 だから 神様が怒らないように

 お祭りして 大切にしようとしたのだと思いますよ」

 与:「なるほどねー すごくいいことを教えてもらっただー

 そしたら オラ 明日くる時には 酒を持ってくるだよ

 そして ご隠居にのませるべ 酔っぱらったころを見計らって 

 特上ウナ重 特上ステーキ 特上すき焼き 特上お寿司 特上フカヒレの姿煮など

 全部 おごってもらう約束させるべー」

お疲れ様で御座いました。

お後が宜しいようで